「持病があるから、もう保険は入れないですよね?」——先月、事前相談にいらした70歳の女性から出た最初のひと言です。糖尿病を20年、高血圧を10年抱えていて、10年前に加入していた終身保険は保険料が上がって解約したまま。ご主人を見送ったばかりで、次は自分の葬儀費用を子どもに残したいと思って調べたら、どこの保険も「持病があるとダメ」と書いてあって諦めかけていた、と。
結論から言うと、その方は引受基準緩和型の医療保険と、無選択型の少額短期保険に加入できました。月々の保険料は合わせて8,000円ほど。決して安くはないけれど、「これで娘に迷惑をかけずに済む」と涙ぐんでました。
葬祭の現場で20年働いていると、こういう相談が本当に増えました。持病があっても入れる保険はある。でも、その仕組みと注意点を知らずに契約すると、後々「こんなはずじゃなかった」となる。今日はそこを、遺族対応の視点も交えて整理していきます。
持病があると保険に入れない、は半分ウソ
まず前提の話から。生命保険や医療保険の一般的な商品は「通常告知型」といって、健康状態を細かく告知する必要があります。ここで持病や既往歴を正直に書くと、加入を断られたり、条件付き(特定部位不担保など)になったりする。これが「持病だと入れない」の正体です。
でも、この20年で保険業界は変わりました。高齢化が進んで、持病を抱えた人が保険を必要とする現実に、保険会社も応えざるを得なくなった。その結果生まれたのが「引受基準緩和型」と「無選択型」という2つのカテゴリーです。
ざっくり言うと、緩和型は告知項目を3〜5個程度に減らして「これに当てはまらなければ入れます」という商品。無選択型はさらに踏み込んで「告知そのものが不要」で、健康状態に関係なく加入できる商品です。どちらも通常の保険より保険料は高くなりますが、選択肢はある。
なぜ告知が緩いのに加入できるのか
保険は「同じリスクを持つ人が集まってお金を出し合う仕組み」です。持病がある人ばかりが集まる保険は、当然リスクが高い。だから保険料は高めに設定され、保障額は控えめに、給付制限期間(契約後1年間は給付金が半額など)が設けられている。
これは「持病がある人にとって不利」というより、「みんなでリスクを分け合うためのバランス調整」と考えたほうが正しい。ここを理解しておかないと、後で「なんで通常の保険より高いんだ」と不満を持つことになります。
引受基準緩和型の審査基準を具体的に見る
引受基準緩和型の告知項目は、保険会社によって差はあるものの、だいたい以下のような内容です。実際に大手生保数社のパンフレットを取り寄せて比べたら、驚くほど似た文言でした。
- 過去3ヶ月以内に、医師から入院・手術・検査を勧められたことがあるか
- 過去2年以内に、病気やケガで入院したことがあるか、または手術を受けたことがあるか
- 過去5年以内に、がん・肝硬変・統合失調症などの特定の病気で医師の診察・検査・治療・投薬を受けたことがあるか
この3つの質問に「いいえ」で答えられれば、加入できる商品が多いです。糖尿病や高血圧で通院・服薬しているだけでは、この3つには引っかからないケースがほとんど。だから冒頭の女性も加入できたわけです。
ただし、商品によっては告知項目が5個・7個と増えるものもあります。項目が多い分、保険料が安めに設定されている傾向があるので、自分の健康状態と照らして「どの商品ならクリアできるか」を見比べる作業が必要です。
告知でよくある勘違い
相談を受けていて多いのが、「これくらいなら告知しなくていいだろう」と自己判断してしまうケース。健康診断で軽く指摘された程度、市販薬でごまかしている症状、市販の検査キットで陽性反応が出たけれど病院には行っていない状態——こういうグレーゾーンで悩む人が本当に多い。
基本ルールはシンプルで、「医師の診察・検査・治療・投薬」があったかどうかが判断軸です。市販薬や自己判断は告知対象外。でも一度でも病院にかかって、処方箋をもらっていたら、それは告知が必要になる可能性が高い。判断に迷ったら、必ず保険会社のコールセンターに電話して確認してください。
告知義務違反があると、いざ給付金や保険金を請求するときに支払われないだけでなく、契約そのものが解除されます。私の知り合いの葬儀担当が、ご遺族から「保険で葬儀費用を、と思ってたのに、告知違反で下りませんでした」と泣きつかれた話を何度も聞いてます。この失敗は、遺された家族にダイレクトに響くんです。
無選択型は「本当に何も聞かれない」のか
無選択型は、健康状態の告知がまったく不要な保険です。がん治療中でも、透析を受けていても、余命宣告を受けていても加入できる商品がある。「そんな保険が成り立つの?」と思うかもしれませんが、成り立ちます。ただし、しっかりリスクヘッジがかかっています。
主な仕組みは3つ。1つ目は保障額の上限が低いこと。多くは300万円以下、少額短期保険なら100〜200万円程度。2つ目は保険料が非常に高いこと。同じ年齢・性別で通常型の2〜3倍が目安です。3つ目は契約後の給付制限。加入から2年以内に病気で亡くなった場合、支払われるのは「これまでに払った保険料相当額」だけ、というルールが一般的です。
無選択型で気をつけたい「2年ルール」
この2年間の制限が、無選択型で一番トラブルになるポイントです。「入っていれば何かあった時に保険金が下りる」と思っていたら、実際は既払い保険料しか戻ってこなかった。これは事故死や災害死には適用されず「病気による死亡」に限定されるのですが、高齢者の場合、亡くなる原因の多くは病気なので、実質的にこの2年間は保障が薄いと考えたほうがいい。
だから無選択型を検討するなら、「加入してから2年以上生きる見込みがあるか」を冷静に考える必要があります。がんの末期で余命半年と言われている方が、慌てて無選択型に入っても、保険金は下りません。この場合はむしろ、葬儀の生前予約や、家族への現金の準備を優先したほうが確実です。
逆に、持病はあるけれど今すぐどうということはない、緩和型にも入れない事情がある、という方には無選択型は有効な選択肢になり得ます。年齢や状態によっては、ほかに手段がないこともあるので。
緩和型と無選択型を比較する
ここで、両者の違いを一覧で整理しておきます。65歳女性、死亡保障300万円の終身保険で試算した目安です(保険会社によって差があります)。
| 項目 | 通常告知型 | 引受基準緩和型 | 無選択型 |
|---|---|---|---|
| 告知項目 | 10〜20項目以上 | 3〜5項目 | なし |
| 加入審査 | 厳格(数週間) | 簡易(即日〜数日) | ほぼ自動承認 |
| 月額保険料の目安 | 約7,000円 | 約12,000円 | 約20,000円 |
| 保障開始 | 契約日から満額 | 1年目は半額の商品も | 2年間は既払保険料相当のみ |
| 保障上限 | 数千万円まで可 | 500万円程度まで | 300万円以下が主流 |
| 加入可能年齢 | 〜80歳程度 | 〜85歳程度 | 〜89歳の商品も |
この表を見て一目瞭然なのは、「持病がある人ほど、保険料は高く、保障は薄くなる」という現実です。これは差別ではなく、リスクに応じた合理的な設計。だからこそ、本当に自分に必要な保障額を見極めることが、通常型以上に大切になります。
葬儀費用のためだけなら少額短期保険という選択肢
ここは葬祭の現場から強くお伝えしたいところ。「保険に入る目的が葬儀費用の準備」なら、必ずしも生命保険会社の商品にこだわる必要はないんです。少額短期保険(ミニ保険)という、保険金額の上限が1,000万円以下に設定された小さな保険会社があって、ここでも持病対応の葬儀保険を扱っています。
葬儀費用は家族葬でも100万円前後、一般葬なら200万円前後が相場です。以前家族葬の費用相場を詳しくまとめた記事でも触れましたが、この金額をカバーできればとりあえずは十分。生命保険会社の高い保険料を払わずに、月2,000〜5,000円程度で100〜200万円の死亡保障を持てる少額短期保険は、コストパフォーマンスがいい。
特にシニア向けの「葬儀保険」と銘打った商品は、80代でも加入可能で、告知も1〜3項目と緩やか。掛け捨てなので貯蓄性はゼロですが、目的が「葬儀費用の準備」ならこれで十分機能します。
保険で準備するのが本当に一番いいのか
実は現場でよく話すのが、「保険じゃなくてもいい場合もありますよ」ということ。葬儀費用の準備方法は、保険だけじゃない。銀行口座に貯金しておく、葬儀社の互助会で積み立てる、生前契約で葬儀費用を前払いしておく——選択肢はいくつもあります。
70代・80代で持病があって、これから緩和型や無選択型の高い保険料を払っていくのがしんどい方には、葬儀社の生前契約を提案することもあります。実際に事前相談で見積もりを比較しておく方法を試すと、必要な金額が明確になって、逆に「保険じゃなくて貯金で十分」と気づく方も多い。
あと、意外と知られていないのが、亡くなった後に受け取れる公的な給付金です。国民健康保険なら葬祭費として3〜7万円、社会保険なら埋葬料として5万円が支給されます。額としては大きくないけれど、これも計算に入れておくと過剰な保険加入を避けられる。詳しくは葬祭費・埋葬料の申請方法をまとめた記事を参考にしてください。
加入前に必ずチェックしたい5つのポイント
ここまでの話を踏まえて、緩和型や無選択型を検討するときに、これだけは確認してほしいポイントを5つに絞ります。私が実際に、事前相談で来られた方に必ずお伝えしていることです。
- 目的を明確にする:「葬儀費用のため」なのか「入院や治療のため」なのか。両方欲しいと欲張ると、保険料負担が跳ね上がります
- 複数社を比較する:告知項目・保険料・給付制限の期間は会社ごとに違う。最低3社は資料を取り寄せて比べる
- 給付制限期間を確認する:「加入直後の死亡は既払保険料のみ」の期間が1年なのか2年なのかで、実質的な保障開始時期がまるで違う
- 保険料が家計を圧迫しないか:月々1〜2万円の保険料は、年金生活だとかなりの負担。10年払い続けて元が取れるかを試算する
- 受取人を明確にしておく:受取人が先に亡くなっている、疎遠になっている、というトラブルが本当に多い。定期的に見直しを
5つ目の受取人の話は、業界ではあるあるの落とし穴です。息子を受取人にしていたけれど、その息子と絶縁状態になっていて、亡くなった後で保険金の請求すらしてもらえなかった、というケースを見たことがあります。エンディングノートに保険の情報を書き残すのも大事ですが、そもそも受取人が現実的に手続きしてくれる人かを確認しておくべきです。
保険金請求で遺族が困らないための準備
葬儀の現場で20年働いてきて、痛感するのは「せっかく入っていた保険が、遺族に発見されずに埋もれる」ケースの多さです。故人しか契約内容を知らなくて、保険証券もどこにあるかわからない。亡くなってから半年後にたまたま郵便物で気づいて慌てて請求した、という話を何度聞いたことか。
保険金の請求権には時効があります。多くの保険会社は「支払事由発生から3年」で時効。3年過ぎたら請求できない。だから、保険に入ったら必ず家族に「どの会社の、どんな保険に入っているか」を伝えておくこと。エンディングノートに保険会社名・証券番号・受取人・連絡先を書き込んでおけば完璧です。
もし故人が保険に入っていたか不明な場合は、生命保険協会の「生命保険契約照会制度」を使えば、加入していた会社を調べることができます。1件3,000円で調査してもらえるので、思い当たる場合は活用してください。
請求時に必要な書類
実際に保険金を請求するときに必要な書類は、だいたい共通しています。死亡診断書のコピー、住民票または戸籍謄本、受取人の本人確認書類、保険証券、請求書。書類がそろえば通常2週間〜1ヶ月で振り込まれます。
ただし、告知内容と実際の状況にズレがあると、保険会社が「事実確認」に入り、時間がかかることがあります。この段階で告知義務違反が発覚すると、給付が減額または不支給になる。だから改めて言いますが、加入時の告知は正直に、丁寧に。少しでも迷ったら保険会社に確認する。これに尽きます。
よくある質問
Q1. 糖尿病で通院・服薬中ですが、引受基準緩和型に入れますか?
多くの緩和型商品では加入可能です。糖尿病の通院・投薬だけでは、標準的な3項目告知(3ヶ月以内の入院・手術・検査の勧め、2年以内の入院・手術、5年以内の特定疾病)には引っかからないケースが多いため。ただし、糖尿病の合併症で入院歴があったり、インスリン治療を始めたばかりで状態が不安定だったりする場合は、告知に該当する可能性があります。複数社の告知項目を比較して、確実に「いいえ」で答えられる商品を選ぶのがおすすめです。
Q2. がんの治療中でも入れる保険はありますか?
無選択型なら加入できる商品があります。ただし、加入後2年以内に病気で亡くなった場合は、支払われるのが「既払保険料相当額」に限定されることが多いです。がんの進行度合いや余命の見通しによっては、保険に加入するよりも、葬儀社の生前契約や現金の準備を優先したほうが確実に葬儀費用を残せます。ご家族と一緒に、葬儀社の事前相談を受けて、必要金額と選択肢を整理することをおすすめします。
Q3. 告知を「うっかり忘れた」場合はどうなりますか?
気づいた時点ですぐに保険会社に連絡してください。加入から2年以内であれば、追加告知として受け付けてもらえる場合があります。放置していると、保険金請求のタイミングで発覚し、告知義務違反として契約解除・給付金不支給となる可能性が高いです。「意図的に隠したのか、うっかり忘れたのか」は保険会社が判断しますが、自分から申し出れば悪意はなかったと認められやすい。とにかく早めに正直に伝えることが最善策です。
Q4. 認知症の親を無選択型に加入させることはできますか?
難しいケースが多いです。無選択型は告知不要ですが、契約の意思能力は必要とされます。認知症が進んで判断能力が低下している状態では、本人による契約締結ができないと判断されます。成年後見人がついている場合でも、後見人は本人の財産保護が任務なので、新規の保険加入を認めるかどうかは慎重に判断されます。認知症が心配な段階なら、判断能力があるうちに加入手続きを済ませておくのが現実的です。
Q5. 葬儀費用だけなら、いくらの保険に入れば足りますか?
葬儀の形式によって大きく違います。直葬(火葬のみ)なら20〜30万円、家族葬なら100万円前後、一般葬なら200〜300万円が全国的な相場。これに戒名料やお布施、四十九日までの法要費用を加えると、余裕を持って150〜200万円あれば安心という感覚です。ただし、公的な葬祭費・埋葬料が3〜7万円支給されるので、その分は差し引いて考えられます。まずは葬儀社に事前相談して具体的な見積もりを取り、必要金額を明確にしてから保険額を決めるのが失敗しない方法です。
Q6. 保険料を払い続けられなくなったらどうなりますか?
払い込みが止まると、一定期間の猶予後に契約が失効します。緩和型や無選択型は掛け捨てタイプがほとんどなので、失効すると解約返戻金はゼロか、あってもごくわずか。10年、20年払ってきた保険料が「もったいない」となる典型パターンです。加入時に、老後の年金額と照らして「本当に払い続けられるか」を試算しておくこと。途中で払い済み保険(保険料の払込を止めて保障額を減額する選択肢)に切り替えられる商品もあるので、契約前に確認してください。




コメント