役所の窓口で「筆頭者はどなたですか?」と聞かれて固まってしまう遺族を、年に何十人と見てきました。特にお父様を亡くされた直後の奥様は、涙をこらえながら「主人が…筆頭者って何ですか?」と小さな声で聞いてこられる。葬儀のあと、死亡届・戸籍謄本の請求・遺族年金の申請、どこに行っても「筆頭者」を書く欄が出てくるからです。
筆頭者は、戸籍の一番上に名前が書かれている人のこと。世帯主とは違うし、故人が亡くなっても筆頭者は変わりません。でも役所の書類には毎回聞かれるし、間違えると再提出になる。この記事では、20年葬祭の現場にいる私が、遺族が実際につまずくポイントを全部書き出しました。
「筆頭者」で検索してこのページに来た方の多くは、大切な人を亡くしたばかりで、書類の山の前で途方に暮れている状態だと思ってます。だから専門用語をなるべく減らして、実際の記入例と、間違えた時のリカバリー方法を中心にまとめました。
筆頭者とは?戸籍の「一番上に書かれた人」のこと
筆頭者とは、戸籍謄本の最初のページ、氏名欄の一番上に記載されている人を指します。結婚して新しい戸籍を作ったとき、夫婦のどちらかの姓を選びますよね。その時に姓を選ばれた側が筆頭者になる、というのが基本的な仕組みです。
たとえば結婚時に夫の姓を選んだ夫婦なら、筆頭者は夫。妻の姓を選んだ夫婦なら筆頭者は妻。それだけのシンプルな話なんですが、日常生活で「筆頭者」という言葉を使う機会がほぼないので、いざ書類に書けと言われると誰なのか分からなくなる方が本当に多いです。
私が担当したご遺族の中には、「亡くなった主人が筆頭者だったから、これからは私が筆頭者になるんですか?」と質問される方もいました。答えは「いいえ」。筆頭者は亡くなっても変わりません。この誤解が本当に多いので、あとの章で詳しく説明します。
世帯主との違い
筆頭者と世帯主は別物です。ここが最初の関門。筆頭者は「戸籍」の代表者、世帯主は「住民票」の代表者。管理している法律も窓口も違います。
戸籍は本籍地の役所で管理されていて、家族の血縁関係を記録するもの。住民票は現住所の役所が管理していて、実際にどこに住んでいるかを記録するもの。だから筆頭者と世帯主が同じ人になることも多いけど、別々になることもあります。
たとえば結婚して夫が筆頭者でも、夫婦が別居していて妻が実質的な世帯主になっているケースだと、筆頭者は夫・世帯主は妻、というふうに分かれます。年末調整や公的書類では、どちらを書けと指示されているかで答えが変わるので、必ず用紙の指示を確認してください。
戸主との違い
ご年配の方から「戸主って書けばいいの?」と聞かれることがあります。戸主は昭和22年までの家制度で使われていた言葉で、今の民法では廃止されています。今は「筆頭者」が正しい呼び方。古い書類や仏壇の位牌の記録に「戸主」が残っていることはありますが、公的書類では使いません。
筆頭者と世帯主・戸主の違い早見表
| 用語 | 管理する書類 | 管轄 | 亡くなった時の扱い |
|---|---|---|---|
| 筆頭者 | 戸籍謄本 | 本籍地の市区町村 | 変更されない(そのまま残る) |
| 世帯主 | 住民票 | 現住所の市区町村 | 変更届で新しい世帯主に |
| 戸主 | 旧民法の家制度(廃止) | 使用されない | 該当なし |
この表を見て「なるほど筆頭者は動かないのね」と理解できれば、書類の記入で迷うことはほとんどなくなります。世帯主だけが変わって、筆頭者は亡くなった父のまま、というのが多くの遺族の状態です。
自分の筆頭者を調べる4つの方法
「そもそも自分の筆頭者が誰か分からない」という方向けに、確実に調べる方法を紹介します。特に結婚して姓が変わった女性、独身で親元を離れている方は分かりにくいので、下の方法から自分に合うものを選んでください。
1. 戸籍謄本・戸籍抄本を取得する
一番確実な方法。本籍地の役所で戸籍謄本または抄本を請求すると、一番上に筆頭者の氏名が印字されています。手数料は450円程度、郵送でも取り寄せられます。マイナンバーカードがあればコンビニ交付も可能です(一部自治体を除く)。
本籍地が分からない場合は、住民票を「本籍地・筆頭者記載あり」で請求すると、住民票に本籍地と筆頭者が表示されます。役所の窓口で「本籍地の記載を入れてください」と一言添えるだけで大丈夫です。
2. 住民票(本籍地記載あり)で確認する
戸籍謄本を取るほどでもない場合は、住民票の請求時に「本籍・筆頭者を記載してください」と指定すれば、住民票の中に筆頭者の名前が入ります。年末調整で筆頭者を書くだけならこれで十分です。手数料は300円程度。
3. マイナポータルで確認する
マイナンバーカードを持っていれば、マイナポータルにログインして「わたしの情報」から戸籍情報を確認できます。無料で、家にいながら確認できるのが最大のメリット。ただし本人分のみで、家族の筆頭者情報は取れません。
4. 家族に聞く
結婚後間もない方、実家を離れていない未婚の方は、親や配偶者に聞くのが早いこともあります。特に未婚のうちは、親が筆頭者になっている戸籍にあなたの名前が入っているので、実家の筆頭者=あなたの筆頭者、というケースが多いです。
シチュエーション別の記入例
実際の書類で筆頭者をどう書けばいいのか、パターン別に見ていきます。「自分の場合はどれ?」と探しやすいように分けました。
未婚で親と同じ戸籍にいる場合
親の戸籍に入ったままの独身の方は、筆頭者は親(多くの場合は父親)。年末調整の「本人の本籍・筆頭者」欄には、父の氏名をフルネームで書きます。母が筆頭者になっているケースは、両親が母の姓を選んだ場合や、離婚で母が新しい戸籍を作った場合。自分の戸籍がどうなっているかで決まります。
結婚して新しい戸籍を作った場合
結婚時に選んだ姓の側が筆頭者です。夫の姓なら夫、妻の姓なら妻。「うちは夫が家計を支えているから夫が筆頭者」といった判断基準ではなく、あくまで婚姻届で選んだ姓のほうが筆頭者になる、という機械的なルールです。
配偶者が亡くなった場合
ここが遺族が一番混乱するポイント。夫を亡くした妻からよく聞かれます。答えは「筆頭者は亡くなった夫のまま」。戸籍の筆頭者は死亡によって変わりません。夫の氏名は残ったまま、その下に「死亡」の記載が加わるだけです。
だから遺族年金の申請書や、相続関連の書類で「筆頭者」を書くときは、亡くなったご主人の氏名を書きます。これは以前まとめた未亡人・寡婦の続柄記入例でも触れていますが、続柄も筆頭者も、故人の情報を書き続けるのが正解です。
ちなみに、亡くなった配偶者と同じ戸籍に居続けるか、旧姓に戻して新しい戸籍を作るかは、残された配偶者の選択次第。「復氏届」を出せば旧姓に戻れます。この手続きをすると新しい戸籍ができて、筆頭者はご自身になります。
離婚した場合
離婚後の筆頭者は、離婚時にどうしたかで変わります。旧姓に戻して新しい戸籍を作った人は、その戸籍で自分自身が筆頭者。婚姻中の姓のまま元の戸籍に残った人は、元配偶者が筆頭者のまま。この場合、書類には元配偶者の氏名を書かなくてはいけないので、離婚後もしばらくは気持ち的に重い作業になります。
書類別・筆頭者の記入位置と注意点
実際に「筆頭者」欄が出てくる書類は限られています。よく出るものを整理しました。
戸籍謄本・戸籍抄本の請求書
本籍地の役所で戸籍謄本を請求するとき、請求書に「本籍」と「筆頭者」を書く欄があります。この筆頭者は「請求したい戸籍の筆頭者」なので、自分自身ではなく、その戸籍の代表者を書きます。故人の戸籍謄本を取りたい場合は、故人の筆頭者(多くは故人本人)を書けばOKです。
ちなみに死亡届の書き方でも「本籍・筆頭者」の欄があり、故人の戸籍情報を書く必要があります。葬儀社が代行してくれることが多いですが、自分で書く場合は事前に故人の戸籍謄本を確認しておくとスムーズです。
住民票の請求書
住民票の請求では、通常「筆頭者」を書く必要はありません。ただし「本籍・筆頭者記載あり」で請求する場合、その情報が住民票に印字されます。相続手続きや遺族年金の申請では「本籍・筆頭者記載あり」の住民票が必要になるので、請求時に必ずチェックを入れてください。
年末調整の扶養控除等申告書
年末調整の書類にも「あなたの本籍(国籍)」の欄があり、そこに筆頭者を書く場合があります。会社によって書式が違うので、指定された用紙をよく見て記入します。分からなければ人事担当者に聞いても大丈夫。年末調整の担当者はこの手の質問に慣れています。
パスポート申請書
パスポート申請書にも本籍地欄があります。都道府県のみ書くのが基本で、筆頭者名は通常不要。ただし戸籍謄本を添付するので、そこで筆頭者が確認されます。
遺族年金・埋葬料の申請書
年金事務所や健康保険組合に出す申請書では、故人の情報として筆頭者を書く欄があります。故人が筆頭者だった場合は故人の氏名、そうでない場合はその戸籍の筆頭者(多くは配偶者や親)を書きます。葬祭費・埋葬料の申請でも同様に、故人の本籍と筆頭者の記載が求められます。
よくある間違いと訂正方法
書類を書き間違えるのは誰にでもあること。特に葬儀直後で気持ちが落ち着かない時期は、普段しないような書き間違いが起こります。慌てずに訂正すれば大丈夫です。
間違い1:世帯主を書いてしまった
一番多い間違い。「筆頭者」欄に自分(世帯主)の名前を書いてしまうケース。訂正は、間違えた部分を二重線で消して、上か横に正しい氏名を書きます。訂正印を押すことで完了。修正液・修正テープは公的書類ではNGなので使わないでください。
間違い2:亡くなった配偶者を書かずに自分を書いた
「主人が亡くなったから、今はわたしが筆頭者だと思って」と自分の名前を書いてしまうパターン。前述の通り、戸籍の筆頭者は死亡しても変わりません。訂正時は二重線で消して、亡くなったご主人の氏名を書き直します。
間違い3:旧姓で書いてしまった
結婚後に「筆頭者は父」と思って旧姓のまま書いてしまう。結婚後は自分たちの新しい戸籍ができているので、旧姓の実家の筆頭者ではなく、現在の戸籍の筆頭者(夫か妻)を書くのが正解です。
訂正印がない時の対処
書類を提出する場所によっては、訂正印なしでも受理してくれることがあります。役所窓口で提出する時に「訂正印を押していただけますか」と言われたら、その場で押すことも可能。持参する印鑑は、書類全体に押している印鑑と同じものを使うのが基本です。
故人の戸籍謄本を集める時の筆頭者の追い方
相続手続きでは、故人の「出生から死亡まで」の戸籍謄本をすべて集めなくてはいけません。この時、筆頭者を追いかけながら戸籍をたどっていく作業が必要です。
たとえばお父様が亡くなった場合。まずお父様が最後にいた戸籍(配偶者と作った戸籍、筆頭者は父)を取得。そこには「どこから転籍してきたか」が記載されているので、その前の本籍地に戻って戸籍を請求。そこはお父様がまだ独身時代の戸籍で、筆頭者は祖父になっているはずです。
祖父の戸籍にたどり着いたら、そこからさらにお父様の出生時までさかのぼる。転籍を何回もしている方だと、5~6通の戸籍謄本を集めることになります。この作業は自分でもできますが、大変な場合は司法書士や行政書士に依頼するとスムーズ。相続登記の手順で紹介した専門家依頼の相場も参考にしてください。
戸籍を追う中で「筆頭者が変わったな」と気付くことがあります。それは転籍や婚姻・離婚があったから。戸籍は日本の家族制度の履歴書みたいなもので、筆頭者の変遷を追うと家族の歴史が見えてきます。
筆頭者を変更したい場合はできる?
「亡くなった夫が筆頭者のままなのは気持ちが重い」「離婚したから元夫の名前を戸籍から消したい」という相談も受けます。結論から言うと、筆頭者そのものを変更する手続きはありませんが、戸籍を新しく作り直すことで実質的に筆頭者を変えることはできます。
配偶者死亡後に旧姓に戻る「復氏届」
配偶者が亡くなった後、旧姓に戻りたい方は「復氏届」を出せます。手続き後、旧姓の新しい戸籍ができて、あなた自身が筆頭者になります。ただし子供は元の戸籍に残ったままなので、子供も一緒に旧姓にしたい場合は別途「子の氏の変更許可」を家庭裁判所に申し立てる必要があります。
分籍で自分だけの戸籍を作る
成人していれば「分籍届」を出して自分だけの戸籍を作ることもできます。この場合、姓は変わらず、筆頭者は自分自身。ただし一度分籍すると元の戸籍には戻れないので慎重に。パスポートやローンなど、既存の書類との整合性も確認してから決めるのがいいと思います。
葬儀後に筆頭者の情報が必要になる主な手続き
大切な人を見送った後、筆頭者の情報が必要になる場面をまとめました。忘れがちな手続きもあるので、リストにして一つずつ確認してください。
- 死亡届の提出(葬儀社が代行することが多い)
- 戸籍謄本の請求(相続・年金申請に必要)
- 遺族年金の申請(年金事務所)
- 健康保険の資格喪失届と葬祭費・埋葬料の申請
- 銀行口座の凍結解除と相続手続き
- 相続登記(不動産)
- 生命保険の請求
- 公共料金・携帯電話の名義変更
これらの手続きで戸籍謄本を何度も使うので、最初に多めに(5~10通くらい)取っておくと後がラクです。1通450円なので5通で2,250円、10通で4,500円。窓口を何度も往復する時間を考えると、まとめて取ったほうがコスパは良いです。
よくある質問
Q1. 筆頭者が亡くなったら誰が新しい筆頭者になりますか?
誰も新しくなりません。筆頭者は亡くなっても戸籍上そのままです。死亡した事実が戸籍に記載されるだけで、筆頭者の氏名は変わりません。戸籍謄本を取ると、故人の氏名の下に「死亡」と記載されている状態が続きます。
Q2. 年末調整で筆頭者が分からない時、空欄で出してもいい?
空欄で出すのは避けたほうがいいです。人事担当者から確認の連絡が来て、二度手間になります。分からない場合は住民票(本籍・筆頭者記載あり)を1通取ってから記入するのが確実。300円程度と手間はかかりますが、そのあとの書類作成でも使えます。
Q3. 事実婚(内縁)の場合、筆頭者はどう書けばいい?
事実婚のパートナーとは戸籍が別なので、それぞれ元の戸籍の筆頭者を書きます。多くの場合、実家の親が筆頭者。パートナーの氏名を書くことはありません。内縁の続柄関係は続柄の書き方一覧でも詳しく整理しているので参考にしてください。
Q4. 筆頭者が分からないまま戸籍謄本を請求できますか?
本籍地さえ分かれば、筆頭者名なしでも役所で相談すれば取得できる場合があります。ただし他人の戸籍だと本人確認や委任状が必要。自分の戸籍なら本人確認書類(免許証・マイナンバーカード)を持参すれば、窓口で調べてもらえるケースが多いです。
Q5. 戸籍謄本は何通くらい取っておけばいいですか?
相続手続きが発生する場合は最低5通、不動産や複数の金融機関がある場合は10通くらいが目安。銀行や年金事務所は原本の提出を求められることが多く、返却されないケースも。取り直す手間と交通費を考えると、最初にまとめて取るのが結果的にお得です。
Q6. 筆頭者と世帯主が違うと不利になることはありますか?
不利になることはありません。筆頭者と世帯主はそもそも別の概念なので、違っていて当たり前です。書類ごとに「筆頭者を書け」「世帯主を書け」と指示があるので、その通りに書けば大丈夫。判断に迷ったら、書類の説明書きをよく読むか、提出先に問い合わせるのが確実です。




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