「母の火葬代がどうしても捻出できない」。土曜の夜、電話口で泣きながらそう話す50代の女性がいました。年金暮らしの母親を自宅で看取ったばかり。手元にあるのは母の口座に残った8万円だけ。私は葬祭ディレクターとして20年近くこの仕事をしていますが、こういう相談は年々増えています。
厚生労働省の2023年国民生活基礎調査では、生活が「苦しい」と答えた世帯が全体の51.3%。ざっくり2世帯に1世帯が余裕のない状態で、突然の訃報に立ち会うことになる。葬儀費用の全国平均は約110万円(鎌倉新書2024年調査)ですから、貯金がなければ払えなくて当然です。
ただ、日本には低所得世帯向けの減免・貸付制度がいくつも用意されています。知らずに借金してしまう人、消費者金融に手を出す人を毎年見てきました。この記事では、申請先ごとに使える制度を整理します。読み終わる頃には、自分の家族が使える窓口が具体的に見えているはずです。
葬儀費用が払えない時に使える制度は大きく4種類
まず全体像から。低所得世帯が使える公的支援は、性質の違う4つのグループに分かれます。混同すると申請ミスにつながるので、最初に整理しておきます。
1つ目は「葬祭扶助」。生活保護受給者や、それに準ずる生活困窮世帯が対象で、自己負担ゼロで直葬を行う仕組みです。2つ目は「葬祭費・埋葬料」。健康保険から遺族に支給される給付金で、所得制限はありませんが金額は自治体で3〜7万円ほど。3つ目が「生活福祉資金貸付」。社会福祉協議会が窓口で、無利子・低利子でお金を借りられます。4つ目は「自治体独自の減免・補助制度」で、市民葬・区民葬や火葬料金の減免など地域差が大きい支援です。
これらは併用できるものと排他的なものがあります。たとえば葬祭扶助を受けると葬祭費は自治体に返還される仕組みになっている地域が多い。ここを勘違いすると「二重取りしようとした」と誤解されて手続きが止まります。担当ケースワーカーに必ず確認してください。
「低所得者」の定義は制度ごとに違う
ここが一番の落とし穴です。葬祭扶助でいう「困窮」は生活保護基準に準じますが、生活福祉資金の対象は住民税非課税世帯や失業世帯まで幅広い。自治体の減免制度に至っては「単身で年収200万円以下」「非課税世帯」など、市区町村ごとに基準がバラバラです。
自分の世帯が該当するかどうかは、電話で聞いても正確な答えは返ってきません。必ず前年の課税証明書と直近の収入がわかる書類を持って、対面で相談してください。役所は書類を見ないと判断できない仕組みなので。
最優先で確認したい「葬祭扶助制度」
もし故人か喪主が生活保護受給者、あるいは生活保護基準ギリギリの生活水準なら、真っ先に検討すべきなのが葬祭扶助です。生活保護法第18条に基づく制度で、自治体が葬儀費用を全額負担します。喪主の自己負担はゼロ。
ただし、内容は火葬のみの「直葬」に限られます。通夜・告別式・戒名・お花・骨壺の一部は含まれません。支給額は大人で20万6,000円以内(2024年基準、地域差あり)、子どもで16万4,800円以内。この範囲で葬儀社が対応可能なメニューを組みます。
申請先は故人が住んでいた市区町村の福祉事務所。すでに生活保護を受けている場合は担当ケースワーカーに一報。まだ受けていないけれど生活が困窮しているという場合は「葬祭扶助のみの単給申請」ができます。ここは意外と知られていない部分で、生活保護本体を受けていなくても葬儀費用の部分だけ支援を受けられる。詳しい要件や落とし穴は生活保護受給者の葬儀(葬祭扶助)ガイドで細かく解説しています。
申請のタイミングを間違えると使えない
葬祭扶助で一番多い失敗が「先に葬儀社と契約してしまった」というケース。葬儀の前に福祉事務所への申請と承認が必要です。火葬が終わってから「実はお金がなくて」と相談しても、原則として遡って支給されません。
私が現場で見てきたパターンでは、病院から遺体を搬送する時点で葬儀社が決まっていることが多く、その葬儀社が福祉葬に対応していないと話がこじれます。搬送だけ依頼して、正式契約は福祉事務所の承認後にする。この順番を守るだけで、後々のトラブルが減ります。
生活福祉資金貸付制度:借りて返す形の支援
「生活保護までは受けたくない」「でも一時的にまとまったお金がない」。そんな家庭に使える制度が生活福祉資金貸付です。都道府県の社会福祉協議会が窓口で、市区町村の社協が受付を担当します。
葬儀費用に使える種類は主に「福祉費(葬祭費)」。上限50万円まで、無利子または年利1.5%で借りられます。連帯保証人を立てれば無利子、立てられなくても年利1.5%で借入可能。据置期間は6か月、返済期間は3年以内が標準です。
対象は住民税非課税世帯や、収入が生活保護基準の1.7倍以下といった目安があります。銀行系の葬儀ローン(金利12〜15%)と比べれば負担は雲泥の差。年金生活のご遺族が消費者金融に走る前に、まずこちらを検討してほしいところです。
審査に2〜4週間かかる点に注意
ネックは審査期間の長さ。申請から融資実行まで早くても2週間、通常3〜4週間。葬儀は基本的に亡くなって数日以内に行われるので、間に合いません。
ではどう使うか。答えは「葬儀費用を後払いにできる葬儀社を選ぶ」か「一時的にクレジットカードや親族の立替で支払い、あとで貸付金で精算する」です。地域の社協に相談すると、後払い対応してくれる提携葬儀社を紹介してくれることもあります。あきらめずに窓口で相談してみてください。
健康保険から支給される「葬祭費・埋葬料」
これは所得に関係なく、亡くなった方が健康保険に加入していれば必ずもらえるお金。低所得世帯にとっては貴重な数万円になるので、絶対に申請漏れしないでほしい制度です。
金額の目安は、故人が国民健康保険加入者なら3〜7万円(東京23区は7万円、多くの地方自治体は5万円)。社会保険(協会けんぽ・組合健保)加入者なら埋葬料として5万円。この違いは加入していた保険の種類だけで決まります。
申請期限は葬儀を行った日の翌日から2年間。この期限を過ぎると1円も出ません。実務では役所に死亡届を出すタイミングで葬祭費の申請書ももらえるので、その場で書いてしまうのがおすすめです。制度の詳細や書類の書き方は葬祭費・埋葬料の申請方法で網羅していますので、あわせて確認してください。
自治体独自の減免・補助制度:意外な穴場
ここからが情報格差の大きい領域。市区町村が独自に設けている減免制度は、広報誌の片隅にしか載っていなかったり、公式サイトを深く掘らないと出てこなかったりします。
代表的なのが「市民葬・区民葬」。自治体と葬儀社の協定で、規格化された低価格プランが提供されます。東京23区の区民葬は火葬・棺・骨壺・霊柩車を含めて20万円前後。所得制限はなく、住民票がある区民なら誰でも使えます。低所得世帯向けにはさらに減免措置がある区もあります。
火葬料金の減免も見逃せません。公営火葬場では、非課税世帯や生活保護受給世帯に対して火葬料を無料または半額にする自治体があります。名古屋市の八事斎場、大阪市の瓜破斎場などが代表例。相場感は火葬料金の相場と地域格差を参照すると全体像がつかめます。
主要制度の比較早見表
| 制度名 | 窓口 | 支給・貸付額 | 所得要件 | タイミング |
|---|---|---|---|---|
| 葬祭扶助 | 福祉事務所 | 約20万円(現物給付) | 生活保護基準以下 | 葬儀前に申請 |
| 生活福祉資金貸付 | 市区町村社協 | 上限50万円(貸付) | 住民税非課税など | 審査2〜4週間 |
| 葬祭費(国保) | 市区町村役所 | 3〜7万円 | なし | 葬儀後2年以内 |
| 埋葬料(社保) | 協会けんぽ等 | 5万円 | なし | 死亡日から2年以内 |
| 市民葬・区民葬 | 市区町村役所 | 規格プラン20〜30万円 | なし(住民のみ) | 葬儀前に申込 |
| 火葬料減免 | 火葬場管轄自治体 | 火葬料無料〜半額 | 非課税世帯など | 火葬前に申請 |
申請先の探し方:迷ったらまず社会福祉協議会
制度が多すぎてどこから電話すればいいかわからない、という声をよく聞きます。私が現場で必ず案内するのは、市区町村の社会福祉協議会(社協)です。
社協は生活福祉資金貸付の窓口ですが、それだけでなく地域の福祉制度を横断的に把握しています。「葬儀費用が足りない、どうしよう」と相談すれば、葬祭扶助が使えそうなら福祉事務所を紹介してくれるし、貸付が現実的なら審査手続きに入ってくれる。ワンストップで交通整理をしてくれる存在です。
電話番号は「〇〇市 社会福祉協議会」で検索すればすぐ出ます。平日9時から17時が基本ですが、緊急対応窓口を設けている社協もあります。土日に亡くなった場合は月曜朝一で電話を入れてください。
地域包括支援センターも活用できる
高齢者を看取ったケースでは、介護保険で関わっていた地域包括支援センターの担当者に相談するのも有効です。生前から家庭の経済状況を把握しているので、動きが早い。ケアマネジャーが社協や福祉事務所と話をつないでくれることもあります。
私が担当した事例で、認知症の父親を独居で看取った娘さんが、包括支援センターのケアマネさん経由で葬祭扶助の申請までスムーズに進めたケースがありました。この方式は非常に助かるので、介護サービスを利用していた家庭は覚えておいてほしいです。
親族間で費用を分担する時の税務ポイント
公的支援だけでは足りず、兄弟姉妹で分担するケースも多いです。ここで気をつけたいのが贈与税と相続税。
喪主が葬儀費用を立て替え、あとで他の兄弟から現金をもらう場合、それが贈与とみなされることは通常ありません。葬儀費用は相続財産から差し引ける(相続税の債務控除)ため、精算のための資金移動として扱われます。ただし記録は残しましょう。誰がいくら払ったか、領収書と振込明細を保管しておくと、後日の相続手続きで揉めません。
故人の預金から葬儀費用を出す場合は、銀行口座の凍結解除か仮払い制度を使います。2019年の民法改正で、遺産分割前でも一定額まで単独で引き出せるようになりました。上限は口座残高の3分の1×法定相続分(1金融機関あたり150万円まで)。この制度の詳しい手順は銀行口座凍結の解除手続き完全ガイドにまとめてあります。
絶対にやってはいけない資金調達
公的支援を検討する前に、消費者金融やカードローンに手を出す人が本当に多い。年利15〜18%で50万円借りれば、返済総額は3年で60万円を超えます。生活福祉資金なら同じ額でも数千円の利息で済むのに、です。
もう一つ避けてほしいのが、SNSや広告で見かける「即日融資」「葬儀費用ローン」を謳う闇金・非正規業者。年金や生活保護費を担保にとる違法業者が実在します。過去に担当したご遺族で、こういう業者に足元を見られて追い詰められた方が複数いました。
そして意外な落とし穴が、悪質な葬儀社の言いなりになること。「〇〇万円で葬儀できます」と言いながら、追加料金を積み上げて最終請求が倍になる業者も存在します。契約書のない見積書、追加料金の内訳が不明な業者は避けてください。葬儀費用が払えない時の対処法6選では具体的な対処法をまとめているので、切羽詰まる前に読んでおいてもらえたら。
見積書の必須チェック項目
低予算で葬儀を組む時ほど、見積書の細部を確認してください。特に「一式」表記の項目、ドライアイスの追加料金、安置料金の日数計算、火葬場までの霊柩車の距離加算。この4つでトラブルが起きやすい。
私自身、後輩スタッフには「見積書を渡す時は、追加料金が発生する条件を口頭で必ず説明しろ」と指導しています。逆に言えば、その説明がない葬儀社は避けたほうが無難。
生前にできる備え:入っておくと安心な制度
ここまでは訃報の後の話でしたが、現在ご健在のご家族の方には、生前の備えもお伝えしたい。低所得世帯ほど、少額でも積み立てておくと後が楽になります。
おすすめは全国生協連の県民共済葬祭サービスや、少額短期保険の葬儀保険。月額数百円から加入でき、健康告知も緩いので持病があっても入りやすい。生活保護受給者は原則として保険料負担ができないため加入できませんが、非課税世帯ぐらいまでなら十分検討価値があります。
もう一つ、互助会の積立も選択肢に上がります。ただし互助会は解約時のトラブルが多いので慎重に。月額3,000円×10年で36万円積み立てても、解約時に手数料で目減りする仕組みが多い。加入前に解約条項を必ず読んでください。
個人的には、月5,000円でもいいので普通預金に「葬儀資金」として別口座で貯めておくのが一番シンプルで確実だと思ってます。10年で60万円あれば、直葬から一日葬まで幅広く選択肢が持てます。
よくある質問
Q1. 葬祭扶助と葬祭費は同時にもらえますか?
原則として同時受給はできません。葬祭扶助を受けた場合、葬祭費(国保・後期高齢者医療)は自治体に返還される仕組みになっている地域が多いです。ただし社会保険の埋葬料については扱いが異なる自治体もあり、担当ケースワーカーに事前確認が必要です。私の担当区域では、葬祭扶助受給者の葬祭費は返還ルールでした。
Q2. 亡くなった父に借金があります。葬儀費用を私が出しても相続放棄はできますか?
葬儀費用の支払いは「相続財産の処分」にはあたらないと最高裁判例で示されており、社会通念上相当な範囲であれば相続放棄には影響しません。ただし過度に豪華な葬儀は問題になる可能性があるので、直葬〜家族葬程度に抑えるのが無難。相続放棄を検討している場合は、葬儀の前に司法書士や弁護士に相談してください。
Q3. 生活福祉資金の連帯保証人が見つかりません。借りられませんか?
連帯保証人なしでも借りられます。ただし金利が年1.5%かかります(保証人ありは無利子)。年金生活のご遺族で、身寄りが少ない方が保証人なしで借りるケースは実際多いです。総返済額でも一般の消費者ローンとは比較にならないほど負担が軽いので、遠慮なく相談してください。
Q4. 故人が生活保護、喪主の私が非課税世帯です。どの制度が使えますか?
まず福祉事務所に葬祭扶助の申請ができるか相談してください。喪主自身に葬儀費用を負担する資力がないと判断されれば、葬祭扶助で直葬が可能です。加えて、故人の国民健康保険から葬祭費が出ることもありますが、自治体によっては葬祭扶助と相殺されます。地域の社協で全体の交通整理をしてもらうのが確実です。
Q5. 葬儀社に「うちは葬祭扶助対応していません」と断られました。
対応可能な葬儀社を福祉事務所や社協で紹介してもらってください。自治体には葬祭扶助対応の提携葬儀社リストがあります。もし個人的に葬儀社を探したい場合は、電話で「福祉葬に対応していますか」と最初に確認するのが早いです。対応葬儀社なら、書類手続きも慣れているのでスムーズに進みます。
Q6. 葬儀費用は絶対に喪主が全額払わないといけないんですか?
そんなことはありません。相続人全員で分担するのが本来の姿です。喪主が代表して支払い、あとから相続財産や他の相続人から精算する形が一般的。喪主だから全額負担、というのは慣習であって法的義務ではないので、親族間で話し合ってください。ただし話し合いが遅れると精算が難しくなるので、四十九日を目安に整理するのがおすすめです。
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