「葬儀費用、いくらかかるか分からなくて、正直、払えるか不安です」。打ち合わせの初日、テーブル越しにそう切り出されたのは、60代のご長男さんでした。お父様が亡くなった翌朝、銀行口座は凍結間際、自分の貯金は20万円。手取り月収は18万円。ここからどうやって父を送ればいいのか、と。
葬祭ディレクターを20年やってきて、こういうご相談は年々増えてます。日本消費者協会の2022年調査では葬儀費用の全国平均は約110万円。家族葬でも80万円前後はかかります。一方で、預金が50万円以下の世帯は珍しくない。お金が足りないという理由で、本来送りたい形を諦めるご遺族を、何度も見てきました。
でも、知らないだけで使える制度や仕組みは結構あります。この記事では、私が現場で実際にご案内している6つの対処法を、申請手順や注意点まで含めて全部書きます。読み終わる頃には、「どの選択肢が自分に合うか」が見えてるはずです。
そもそも葬儀費用はいくら必要?内訳を知ることから始める
対処法の前に、「何にいくらかかるのか」を分解しておきます。ここを理解しないまま借金を組むと、後で「こんなはずじゃなかった」が起きるんです。
葬儀費用は大きく3つに分かれます。①葬儀社に払う「葬儀本体費用」、②飲食や返礼品など参列者対応の「実費」、③お寺へのお布施です。多くの方が見落とすのが②と③。葬儀社の見積もりに入ってないことが多いから、トータルで見ると20〜40万円上乗せになるケースが普通です。
例えば、家族葬プラン50万円と広告されてても、お通夜の料理2万円×3人、返礼品1500円×20人、お布施30万円を足すと、実際には90万円近く必要です。広告の数字だけ見て「これなら払える」と契約すると、後で追加請求が来て破綻します。
葬儀形式別・現実的な総額の目安
| 葬儀形式 | 葬儀社費用 | 実費・お布施込み総額 | 参列者目安 |
|---|---|---|---|
| 直葬(火葬式) | 15〜25万円 | 20〜40万円 | 0〜10名 |
| 一日葬 | 30〜50万円 | 50〜80万円 | 10〜30名 |
| 家族葬 | 50〜80万円 | 80〜130万円 | 20〜40名 |
| 一般葬 | 80〜150万円 | 150〜250万円 | 50名〜 |
| 市民葬・区民葬 | 15〜35万円 | 30〜60万円 | 家族中心 |
払えない時の鉄則は、「形式を下げる」「使える制度を併用する」の2軸で考えること。一般葬の予算がないなら家族葬、家族葬も難しいなら一日葬や火葬式(直葬)という選択肢に切り替える。これが現実解です。
対処法①:葬祭扶助制度(自己負担0円で送る公的支援)
まず最初に検討すべきは、葬祭扶助です。生活保護法18条に基づく制度で、条件を満たせば葬儀費用の全額を自治体が負担します。自己負担は原則ゼロ。
対象は2パターンあります。ひとつは、故人が生活保護受給者で、遺族にも葬儀費用を払う経済力がない場合。もうひとつは、故人は生活保護を受けていなかったけど、葬儀を行う方(喪主)が生活保護受給者または同等の困窮状態にある場合。後者は意外と知られてません。
支給額は地域によって異なりますが、大人で20万6000円前後(2025年現在)。この金額の範囲内で、火葬式(直葬)を行います。お通夜・告別式はできませんが、棺・搬送・火葬・骨壺はすべて含まれます。詳しい申請手順や条件は生活保護受給者の葬儀ガイドでまとめてるので合わせて読んでみてください。
申請のタイミングが命取り
絶対に守ってほしいルールが1つあります。葬儀を行う「前」に、住んでる市区町村の福祉事務所(生活保護課)に申請すること。葬儀を済ませた後に「お金がないから出してほしい」と言っても、原則認められません。「払う能力があったから葬儀ができた」と判断されるからです。
うちで担当した80代女性のご家族は、息子さんが申請を後回しにして火葬まで済ませてしまい、20万円の自己負担が消えませんでした。亡くなったその日のうちに、福祉事務所か葬祭扶助に対応している葬儀社に電話を入れる。これだけは外さないでください。
対処法②:市民葬・区民葬の活用
葬祭扶助の対象にはならないけど、お金は厳しい。そういう方には市民葬・区民葬をおすすめしてます。自治体と葬儀社が提携して提供する、定額制の格安プランです。
東京23区の区民葬だと、火葬料込みで20〜30万円台のプランがあります。横浜市の市民葬「やすらぎ葬」も同程度。地域住民であれば誰でも申し込めて、所得制限もありません。
申込み方法はシンプルで、お住まいの市区町村役場の窓口、または提携葬儀社に直接連絡するだけ。死亡届を出すついでに窓口で「市民葬を利用したい」と伝えれば、案内パンフレットをくれます。
市民葬の落とし穴
ただし注意点もあります。プランに含まれる物品は最低限。棺は布張りの安価なもの、祭壇も簡素。オプションをつけ始めると一般プランと値段が変わらなくなります。「最低限で良い」と割り切れる方向けです。
あと、料理や返礼品、お布施は別途。提携葬儀社が決まってるので、葬儀社を比較検討できない点もデメリット。それでも「公的に承認された安心感」と「定額の透明性」は大きな魅力です。
対処法③:葬儀ローン・メモリアルローンを使う
葬儀社の多くが提携している「葬儀ローン」。アプラスやセディナ、オリコなどの信販会社が提供してます。金利は年5〜15%、借入額は10〜500万円、返済期間は最長10年程度。
例えば100万円を金利10%・36回払いで借りると、月々の返済は約32,000円、総支払額は約116万円。16万円の利息がかかる計算です。決して安くはないけど、「今すぐ現金がない」という状況なら現実的な選択肢になります。
申込みは葬儀社の窓口で完結。本人確認書類と源泉徴収票や給与明細があればOK。審査は最短30分、即日決定が一般的です。亡くなった当日、打ち合わせと同時に申し込んで、その日のうちに承認が下りるケースが多い。
審査に通らない時の代替策
正直なところ、葬儀ローンの審査は他のローンより少し緩めです。「葬儀」という人生で1回しかない出費だから、信販会社も配慮してる印象。それでも、過去にクレジット事故がある方、年金収入のみで返済能力に不安がある方は審査落ちすることもあります。
その場合は、銀行のフリーローン(金利低め・審査やや厳しめ)か、消費者金融のカードローン(金利高め・審査早い)が代替になります。あとで詳しく触れますが、優先順位は「葬儀ローン → 銀行フリーローン → カードローン」の順で検討してください。
対処法④:銀行の仮払い制度で故人の預金を使う
「父の口座には預金があるけど、銀行に死亡を伝えたら凍結されて引き出せない」。この相談、本当に多いです。2019年の民法改正で、相続人が単独で一定額を引き出せる「預貯金の仮払い制度」が新設されました。これ、知らない方が9割です。
引き出せる金額は、「相続開始時の預金額 × 1/3 × 法定相続分」または「1金融機関あたり150万円」のいずれか低い方。例えば父の預金が900万円、相続人が母と子2人なら、子1人が引き出せる上限は「900万円 × 1/3 × 1/4 = 75万円」。これだけあれば、家族葬の費用は十分まかなえます。
申請には故人の戸籍謄本、相続人全員の戸籍謄本、印鑑証明書、銀行所定の書類が必要。詳しい手順は銀行口座凍結の解除手続きガイドでまとめてます。亡くなった直後でも申請できるので、葬儀費用に充てるには最適です。
対処法⑤:香典で立て替え、後日精算する
家族葬や一般葬で参列者がある程度見込めるなら、香典収入を葬儀費用の精算に充てる方法があります。意外と現実的な選択肢です。
例えば故人が会社員で、職場の同僚や取引先が30名参列するとして、平均香典5000円なら15万円。親族10名で1人2万円なら20万円。合計35万円。家族葬の葬儀社費用60万円のうち、半分以上を香典でまかなえる計算です。
多くの葬儀社では、葬儀後10日〜2週間程度の支払猶予を設けてます。「香典が集まってから払いたい」と最初に相談すれば、対応してくれるところがほとんど。私が担当する現場でも、半数以上のご家族がこのパターンです。
香典に頼る時の落とし穴
ただし、香典返し(返礼品)に半額〜3分の1を使うのが一般的なので、満額が手元に残るわけじゃありません。15万円の香典なら、5万円〜7万円程度が返礼品に消えます。実質的に手元に残るのは6〜7割と見ておく方が安全。
あと、家族葬で「香典辞退」を明示してしまうと当然この方法は使えません。費用が厳しいなら、最初から香典辞退の伝え方を選ばずに、参列者からの香典をお受けする方向で考えるのも合理的です。「気持ちだから」と言って受け取らずに自己破綻するより、ありがたく頂戴して父を送る方が、きっと故人も喜びます。
対処法⑥:分割払い・後払いに対応する葬儀社を選ぶ
対処法⑥:分割払い・後払いに対応する葬儀社を選ぶ
最近、独自に分割払いを受け付ける葬儀社が増えてます。信販会社を通さず、葬儀社が直接2〜6回程度の分割を認めるケース。手数料無料か、信販ローンより低めの金利設定が多いです。
大手だと「小さなお葬式」「よりそうお葬式」「公益社」などが分割や後払いに柔軟。地域密着型の葬儀社でも、長年地元で営業しているところは融通を利かせてくれます。
葬儀社選びの段階で、必ず「支払い方法の選択肢」を聞いてください。一括前払いしか認めない葬儀社は、お金が厳しい遺族には向きません。電話で問い合わせる時、「分割払いに対応してますか」「後払いは何日まで可能ですか」を最初に確認するのが鉄則です。
病院搬送の段階で葬儀社を選ばない
病院で亡くなると、「提携葬儀社を呼びますか」と聞かれることがあります。ここで安易にOKすると、後で葬儀費用が高額になる傾向があります。病院提携の葬儀社は搬送だけ依頼して、葬儀本体は別の葬儀社に依頼することも可能です。詳しくは葬儀社の手配手順と病院指定業者の断り方を参考にしてください。費用が厳しい時こそ、業者選びで妥協しないこと。
後から戻ってくるお金もある:国民健康保険の葬祭費
支払い対処法と並んで重要なのが、「後から戻ってくる給付金」を取りこぼさないこと。これも見落としが多い。
故人が国民健康保険または後期高齢者医療制度の加入者だった場合、市区町村から「葬祭費」が支給されます。金額は自治体によりますが、東京23区は7万円、横浜市5万円、大阪市3万円が一般的。申請期限は葬儀の翌日から2年以内。
故人が会社の健康保険(協会けんぽ・健保組合)加入者だった場合は「埋葬料」として5万円が支給されます。これも申請期限は2年以内。
申請に必要な書類は、葬儀社の領収書、喪主の振込先口座、故人の保険証、死亡を証明する書類など。死亡届を出す時に役所の窓口で「葬祭費の申請もしたい」と伝えれば、案内してくれます。「あとで」と思って忘れる方が本当に多いので、その場で一緒に済ませてください。
どの対処法を選ぶ?フローチャートで判断する
ここまで6つの対処法を説明してきましたが、自分の状況だとどれが最適なのか迷うはずです。判断軸を整理します。
- 遺族・喪主が生活保護受給者または同等の困窮 → 葬祭扶助(対処法①)
- 遺族にも収入はあるが手元に現金がない → 故人の預金仮払い制度(対処法④)+ 葬儀ローン(対処法③)
- 形式は最低限でいい、地元の制度を使いたい → 市民葬・区民葬(対処法②)
- 参列者が一定数見込めて香典が期待できる → 香典立替+後払い(対処法⑤+⑥)
- 定年退職後で年金収入のみ、ローン審査が不安 → 直葬+葬祭費給付の組み合わせ
多くのご家族は、これらを単独ではなく組み合わせて使います。例えば「故人の預金から30万円仮払い+香典15万円+葬祭費7万円=合計52万円」で家族葬を組む、というパターン。私が担当した80代のお父様の家族葬は、このパターンで自己負担ほぼゼロでした。
「無理して見栄を張る」のが一番の地獄
20年現場に立ってきて、心の底から言いたいことがあります。葬儀費用が払えない時に一番やってはいけないのは、「親戚の目を気にして見栄を張ること」です。
「家族葬じゃ恥ずかしい」「直葬なんてかわいそう」と周りに言われて、無理して一般葬を組んで、残されたご遺族が借金返済に追われる。そんなケースを何度も見てきました。お父様、お母様は、自分の葬儀で子や孫が借金を背負うことを望むでしょうか。私は、絶対に望まないと思ってます。
形式を下げることは恥ずかしいことじゃありません。火葬式(直葬)でも、ご家族が手を合わせて、故人にきちんと別れを告げれば、それは立派な葬儀です。「金額」と「想い」は比例しません。
父の直葬を選んだ時、最初は「親不孝じゃないか」と悩みました。でも実際にお別れの時、家族だけで父の好きだった歌を歌って送ったんです。父はきっと、これで満足してくれたと思ってます。
父の直葬を選んだ時、最初は「親不孝じゃないか」と悩みました。でも実際にお別れの時、家族だけで父の好きだった歌を歌って送ったんです。父はきっと、これで満足してくれたと思ってます。
これは、去年担当したご長男さんの言葉です。葬儀費用は確かに重い問題ですが、お金がないことを理由に、故人とのお別れを諦める必要はないんです。
よくある質問
Q1. 葬祭扶助は生活保護を受けていなくても使えますか?
はい、可能なケースがあります。故人が生活保護受給者でなくても、葬儀を行う方(喪主)が生活保護受給中、または保護に準ずる困窮状態と認められれば申請できます。判断は各自治体の福祉事務所が行います。年金収入のみで貯金もほぼなく、葬儀費用を捻出できない状況なら、まず福祉事務所に相談してください。「申請してみないと分からない」というのが正直なところです。
Q2. 葬儀ローンの審査に通らなかった場合、どうすればいいですか?
選択肢は3つあります。1つ目は、銀行のフリーローン(金利低めだが審査やや厳しい)。2つ目は、消費者金融のカードローン(金利は高いが審査が早い)。3つ目は、葬儀の形式を直葬や市民葬に変更して、必要金額そのものを下げる。私の経験上、3つ目が最も健全です。借金は葬儀後何年も尾を引きます。まず形式の見直しを考えてから、それでも足りない分だけ借りるのが鉄則です。
Q3. 故人の預金から仮払いで葬儀費用を使った場合、相続放棄はできなくなりますか?
ここは法律的に微妙なので、慎重に。原則として、故人の財産を使うと「相続を承認した」とみなされ、相続放棄ができなくなる可能性があります。ただし、社会通念上相当な範囲の葬儀費用への充当は、相続放棄を妨げないという判例もあります。明らかに故人に借金が多くて相続放棄を検討している場合は、預金仮払いを使う前に必ず弁護士か司法書士に相談してください。判断を誤ると、故人の借金まで背負うことになります。
Q4. 葬儀社に「お金がない」と正直に伝えても大丈夫ですか?
絶対に伝えてください。むしろ伝えないと、葬儀社側も予算に合わせた提案ができません。私たち葬祭ディレクターは、ご遺族の経済状況に合わせてプランを組むのが仕事の一部です。「30万円までしか出せない」と最初に言ってもらえれば、その範囲で送る方法を全力で考えます。隠して契約して、後で支払いに困る方が、葬儀社にとってもご遺族にとっても不幸です。良心的な葬儀社ほど、予算の話に真摯に向き合います。
Q5. 「お布施が払えない」場合、お寺に相談してもいいですか?
菩提寺がある場合は、正直に住職に相談してください。意外と多くのお寺が、事情を汲んで金額を調整してくれます。私が担当した家庭で、住職が「気持ちだけで結構です」と言ってくださったケースも何度もあります。菩提寺がない、または僧侶を呼ばない選択肢もあります。最近は無宗教葬や直葬で僧侶を呼ばないご家族も増えてます。お布施30万円が浮けば、その分を他の必要経費に回せます。
Q6. 葬儀費用は誰が払う義務がありますか?
法律上、葬儀費用の負担者は明確に定められていません。慣習的には喪主が立て替えて、後で相続財産から精算するか、相続人間で分担するのが一般的です。長男だから払う、というルールも法律上はありません。兄弟姉妹で話し合って、収入や状況に応じて分担するのが現実的。話し合いがこじれそうなら、葬儀前にざっくり「香典は喪主が管理して費用に充てる、不足分は相続財産から精算」と決めておくとトラブルが減ります。
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