先月の火曜日、午前10時。地元の総合病院の霊安室で、私は納棺師の田村さん(仮名・入社8年目)と一緒に、82歳で亡くなられたお父様のご遺体と向き合っていました。ご長女が「父は生前おしゃれな人だったから、いつものジャケットを着せてほしい」と震える声で言われた。田村さんは黙って頷き、そこから2時間半かけて、遺体処置・清拭・整髪・死化粧・着替え・納棺までを丁寧に進めていった。作業が終わったとき、ご長女は棺の中の父親を見て、「まるで生きているみたい。今にも起き上がりそう」と、初めて泣かれた。
この光景を、私は葬祭ディレクターとして20年間、数え切れないほど見てきました。年間で担当する葬儀は約100件、そのうち納棺の儀に立ち会うのは9割以上。でも、いまだに毎回、納棺師の仕事の重みに背筋が伸びる思いがします。
映画『おくりびと』が公開されたのが2008年。あれから17年が経ち、納棺師という職業の認知度は確かに上がりました。ただ、その仕事の中身を正確に理解している人は、いまも本当に少ない。「故人に着物を着せる人」「お化粧をする人」というイメージだけが独り歩きしている。実際は、その何倍もの工程と技術と気配りが詰まった専門職なんです。
この記事の要点
- 納棺師の仕事は「着せ替え」だけではなく、遺体処置・清拭・整髪・死化粧・着替え・納棺・副葬品確認までの一連工程で、所要時間は平均2〜3時間
- ご遺体の処置には医学的な知識(死後硬直・死斑・体液漏出への対処)と、感染防止の衛生管理が必須で、専門教育を受けた上で現場に出る
- 死化粧は「生前の顔に近づける」ためのメイクで、闘病でやつれた頬にコットンを含ませたり、黄疸を隠すオレンジ系下地を使うなど、通常のメイクとは全く別の技術体系
- 納棺師の平均年収は300万〜450万円、経験10年以上の熟練者やフリーランスで500万〜700万円が現実的なライン
- 湯灌(ゆかん)は納棺前に故人の全身を洗い清める儀式で、専門業者が2名体制・約90分で行うのが一般的、費用は8万〜15万円が相場
納棺師の仕事は「着せ替え」ではなく「一連の処置と儀式」である
結論から言うと、納棺師の仕事は着せ替えだけではありません。ご遺体を清め、処置し、故人の尊厳を保った状態で棺に納めるまでの、8〜10工程からなる専門作業です。所要時間は平均2〜3時間、湯灌を含む場合は3〜4時間かかることもあります。
私が新人ディレクターだった22歳の頃、初めて納棺に立ち会ったとき、正直「ここまでやるのか」と衝撃を受けました。当時の先輩納棺師は、ご遺体の口腔内に脱脂綿を詰め、鼻腔にも綿を入れ、両手の爪をやすりで整え、そして最後にご遺族が持ってきた愛用の口紅を、亡くなられたお母様の唇に丁寧にのせていった。そのお母様は、生前は化粧が大好きな方だったそうです。娘さんが「母らしい顔になった」と言われた瞬間、先輩の目にも光るものがあった。
なぜ「着せ替え屋」というイメージが広まったのか
映画『おくりびと』の影響が大きい。あの映画は納棺師の存在を世に知らしめた素晴らしい作品でしたが、映像として印象に残るのは「所作の美しさ」「着物の着せ替え」の場面。裏でどれだけの処置や準備が行われているかは、尺の関係で描き切れなかった。
実際の現場では、着せ替えに入る前に、まず衛生的な処置と身体の整えが行われます。ここが省略されると、ご遺体の状態が悪化して、通夜・告別式のご対面でご遺族が悲しい思いをすることになる。だから納棺師の仕事の本質は、目に見えない前半戦にあるとも言えます。
納棺師と葬祭ディレクター・エンバーマーの違い
混同されやすいので整理しておきます。葬祭ディレクター(私のような立場)は、葬儀全体の企画・進行・打ち合わせを担う総合職。納棺師は、ご遺体の処置と納棺の儀式を専門に行う技術職。エンバーマーは、防腐処置(エンバーミング)という医学的処置を施す国際資格保持者で、日本国内には2024年時点で約230名しかいません。
納棺師の中にも、湯灌専門・処置専門・化粧専門と得意分野が分かれることがあります。私が普段仕事を発注している納棺業者(愛知県内)には、社員が12名いて、そのうち湯灌を主担当できる技術者は4名だけ。それだけ湯灌は特殊な技術です。
| 職種 | 主な仕事内容 | 資格・教育 | 年収目安 |
|---|---|---|---|
| 納棺師 | 遺体処置・清拭・死化粧・納棺 | 専門学校または業者内研修(無資格でも可) | 300〜500万円 |
| 葬祭ディレクター | 葬儀全体の企画・進行・遺族対応 | 葬祭ディレクター技能審査(民間資格) | 350〜700万円 |
| エンバーマー | 遺体の防腐処置(薬剤注入) | IFSA認定資格(2年間の専門課程) | 400〜700万円 |
納棺師の詳しいなり方については、以前まとめた納棺師になる方法・資格・年収の実情で、専門学校ルートと業者内研修ルートの違いを解説しています。
遺体処置の実際:ご遺体を「休ませてあげる」ための下準備
納棺の最初の工程は、遺体処置です。ここが最も専門性が問われる部分で、医学的な知識と衛生管理の徹底が求められます。
亡くなられた直後、病院ではエンゼルケアという簡易的な処置が看護師によって行われます。ただし病院のエンゼルケアは、あくまで「病院を出るまで」の応急処置。ここから通夜・告別式までの2〜4日間、ご遺体の状態を保つには、納棺師による本格的な処置が必要になります。
口腔・鼻腔・耳への詰め物処置
亡くなると、筋肉の弛緩によって体液が漏れ出ることがあります。特に口・鼻・耳・肛門からの漏出は、ご遺族が最も動揺する場面。これを防ぐため、納棺師は脱脂綿やコットンを使って詰め物処置を行います。
単純に見えて、実は繊細な技術です。詰めすぎると顔の形が不自然になり、少ないと漏出を防げない。私が知っている熟練納棺師の平山さん(仮名・キャリア18年)は、「頬のふくらみを見て、生前の顔立ちに近づくよう詰める量を調整する」と話していました。
死後硬直への対処
亡くなってから2〜3時間で始まり、6〜8時間でピークを迎え、24〜48時間かけてゆっくり緩解する。これが死後硬直です。
硬直中は関節が動かない。腕を組ませるにも、手を胸元に置くにも、力を入れて関節をゆっくり緩めていく必要があります。乱暴に扱えば、皮膚が傷つく。私が経験した中で最も苦労したのは、亡くなった直後の若い男性で、まだ硬直が始まっていない状態のご遺体を、翌日の葬儀まで自然な姿勢で保つために、納棺師が2時間かけて丁寧に位置を整えた現場でした。
感染防止の徹底
納棺師は必ず手袋・マスク・防護エプロンを着用します。ご遺体には様々な感染リスクがあり、B型肝炎・C型肝炎・HIVなどの血液感染のリスクを想定した上で作業する。2020年以降のコロナ禍では、防護服を着用しての処置も一般化しました。
この衛生管理を軽く見る納棺師はいません。自分の身を守ることは、ご遺族と次のご遺体を守ることでもあるから。
湯灌(ゆかん)の儀式:全身を洗い清める伝統的な工程
湯灌とは、納棺前に故人の全身を温かいお湯で洗い清める儀式で、専門業者が2名体制・約90分で行うのが一般的です。費用は8万〜15万円が相場で、葬儀プランに含まれる場合と別料金の場合があります。
湯灌の起源は仏教の「灌頂(かんじょう)」という儀式にあると言われていて、日本では平安時代から行われてきた記録があります。現代では、宗派を問わず、ご遺族が希望されれば実施できます。浄土真宗のお葬式でも湯灌を行うご家庭は少なくありません。
湯灌車と自宅湯灌の違い
現代の湯灌は、専用の湯灌車(お風呂設備を搭載した車両)を斎場や自宅の駐車場に停めて行う方式と、簡易的な設備を屋内に持ち込んで行う方式があります。
私が担当した2023年10月の一件は、100歳で天寿を全うされた祖母のために、ご家族全員が湯灌に立ち会いたいと希望された。湯灌車を自宅前に停め、リビングに移動式の浴槽を組み立てて、孫や曾孫まで13人が見守る中で行われました。90分の間、家族全員が祖母の身体を撫でながら、思い出話を交わしていた。あれは湯灌が単なる清拭ではなく、家族の別れの時間そのものだと実感した現場でした。
逆さ水(さかさみず)のしきたり
湯灌の水は、通常とは逆に、水を先に入れてから湯を足して温度を調整します。これを「逆さ水」と呼び、日常とは反対の作法で行うことで、死の世界と生の世界を区別する意味があるとされています。
納棺師の作業手順にも同じ思想が息づいています。着物は左前に着せ、帯は縦結び、足袋は逆に履かせる。これらは葬儀の逆さ事の意味と全一覧にまとめた「逆さ事」と呼ばれる伝統作法で、ひとつひとつに理由があります。
湯灌は必ず必要か
結論から言えば、必須ではありません。近年は湯灌を省略して、清拭(しっかり拭き上げるだけ)で済ませるご家庭が全体の6割程度に増えている印象があります(愛知県の私の担当エリアでの体感値)。理由は費用面と、簡素な葬儀を希望する傾向。
ただ、闘病生活が長かった故人や、事故で汚れが残っている場合は、湯灌をおすすめしています。ご遺族が最後にきれいな姿で送り出せたと感じられることが、後々のグリーフケアにもつながる。
死化粧の実際:生前の顔を取り戻すための技術
死化粧は「生前の顔に近づける」ためのメイクで、通常のメイクとは全く別の技術体系です。納棺師の技術の中でも、最も差が出る工程だと私は思っています。
亡くなった直後の顔は、生前とはかなり違って見えます。頬がこけ、顔色は青白く、口元が引き締まる。これを、ご遺族が「生前の顔だ」と感じられる状態まで戻すのが死化粧の役割。
頬のふくらみを戻す
闘病生活でげっそりとやつれた頬には、脱脂綿やコットンを口腔内に含ませて、外からのふくらみを作り直します。これがなかなかの技術で、多すぎると膨れて見え、少ないとやつれた印象のまま。
納棺師の田村さんは、こう言っていました。「生前のお写真を必ず1枚見せてもらいます。そこに写っている頬のふくらみを見て、どのくらい詰めるかを決める」。写真の重要性がここにある。
肌の色を整える下地作り
亡くなった直後の肌は、血液の循環が止まるため、青みがかった白色になる。ここに一般的なファンデーションをのせても、ただ塗ったような不自然さが残る。
プロの納棺師は、まず肌の色調に合わせた下地を選ぶ。肝臓疾患で黄疸が出ているご遺体には、オレンジ系のコントロールカラーを薄く重ねて黄色みを打ち消し、その上にファンデーションをのせる。青みの強い肌には、ピンク系の下地を使う。これは、生きている人へのメイク技術とは全く逆のアプローチが必要な場面もある。
生前の面影を取り戻す仕上げ
眉を描き、頬紅を薄く入れ、唇に色をのせる。ここで大事なのは「その方らしさ」。派手な化粧が好きだった方には少し華やかに、素朴な方には自然に。
2024年の春、私が担当した70代の女性のケースでは、娘さんが「母が愛用していた口紅を使ってほしい」とシャネルの口紅を持参されました。納棺師はその口紅を丁寧に唇にのせ、娘さんが「母の顔になった」と嗚咽された。あの瞬間、私は納棺師という仕事の意味を改めて思い知った気がします。
男性への死化粧
男性でも死化粧は必要です。ただしメイクをする、というより「顔色を整える」という考え方。髭を整え、髪を撫でつけ、頬にほんのり血色を戻す。私が見てきた中では、男性の死化粧の方が難しいと語る納棺師も多い。過剰にすると不自然、控えめすぎると顔色が悪いままだから。
着替えの工程:死装束か普段着か
身体を清め、化粧を整えた後、いよいよ着替えの工程に入ります。ここで大きな選択肢があります。伝統的な死装束を着せるか、ご遺族が希望する普段着や愛用品を着せるか。
死装束(経帷子)の伝統
仏式葬儀での伝統的な死装束は「経帷子(きょうかたびら)」と呼ばれる白い着物で、旅支度の装いです。六文銭が入った頭陀袋、手甲、脚絆、白足袋、草鞋。これはあの世への旅の身支度を意味します。
着物の合わせは左前、帯は縦結び、これも逆さ事の作法です。死装束の着せ方と左前の理由を以前詳しくまとめましたが、なぜこの装いなのかという意味を、納棺師はご遺族に丁寧に説明しながら着せていく。
普段着や愛用品を着せる選択
近年増えているのが、故人が愛用していた服を着せる選択です。私の体感で、家族葬の6割程度は普段着を選ばれる。着物、スーツ、ゴルフウェア、和服、着物、時にはユニフォーム。生前愛用していた服を着せることで、ご遺族の心が慰められる場面を何度も見てきました。
2023年12月、90代の元教師の男性のケースでは、ご家族が「父は40年間、あのスーツを着て学校に通った」と、色褪せた紺色のスーツを持参されました。納棺師が丁寧にそのスーツを着せると、遺影の顔とそっくりの佇まいになった。教え子だった方々が弔問に訪れ、「本当に先生の姿だ」と口々に言われていました。
着替えの技術的な難しさ
ご遺体に服を着せる作業は、生きている人の着替えとは全く違う難しさがあります。関節が動きにくい、体重を支えられない、皮膚が傷つきやすい。
納棺師は2名体制で、ご遺体を優しく持ち上げながら着替えを進めます。ボタンを留める、袖を通す、ネクタイを結ぶ、それぞれに繊細な手技が必要。特にご高齢の方の場合、皮膚が非常にデリケートで、少しの摩擦でも内出血の跡が残ってしまうことがある。だから納棺師は、常にご遺体に負担をかけない動線で作業する。
納棺の儀式:棺への収め方と副葬品
すべての処置と着替えを終えると、いよいよ棺にお納めする「納棺の儀」に入ります。この場には、ご遺族全員に立ち会っていただくのが一般的です。
棺の中の整え方
棺の底には白い綿の敷き布団が敷かれ、その上にご遺体を丁寧に収めます。頭の下には枕、手は胸元で組み、数珠を持たせる(仏式の場合)。顔の周りには白い布を配置して、顔だけが見えるように整えます。
この時、納棺師は必ずご遺族に「お顔を見てあげてください」と声をかける。多くのご遺族が、この瞬間に初めて故人の変貌ぶり(きれいに整えられた姿)を目の当たりにして、静かに涙を流されます。
副葬品として棺に入れられるもの・入れられないもの
副葬品は、故人が愛用していた品や、あの世で使ってほしいものを一緒に納める習慣です。ただし、火葬時に燃えにくいものや有害物質が出るものは入れられません。
| 入れられるもの | 入れられないもの |
|---|---|
| 手紙・写真(少量) | 金属製品(時計・アクセサリー) |
| 愛読していた本(薄いもの) | ガラス製品(メガネ・食器) |
| 好きだったお菓子(少量) | プラスチック製品 |
| 造花・生花(少量) | 爆発の恐れがあるもの(ライター等) |
| 愛用の衣類・スカーフ | 厚みのある革製品・分厚い書籍 |
詳しくは棺の種類と副葬品の制限を参考にしてください。火葬場によって微妙に判断が違うこともあるので、迷ったら葬儀社に事前確認するのが確実です。
私が忘れられないのは、2022年秋、幼くして亡くなった6歳のお子様の納棺の場面です。ご両親が「大好きだったぬいぐるみを一緒に入れたい」と言われた。ぬいぐるみは中の綿が燃え残る可能性があったので、火葬場と相談して、小さめのぬいぐるみに絞って納めることになった。ご両親はそのぬいぐるみをお子様の手にそっと握らせて、「これで淋しくないね」と何度も言われていました。
花入れの儀式
納棺の最後に行われるのが、生花を棺に入れる花入れの儀式です。ご遺族一人一人が、故人の周りに花を手向けていく。この場面が、多くのご遺族にとって「最後の別れ」を実感する瞬間になる。
納棺師はここで、ご遺族の様子を静かに見守りながら、花の配置を整えていきます。過剰に演出せず、ご遺族の思いが最も伝わる形に。
納棺師になるためのルートと年収の実情
納棺師の平均年収は300万〜450万円が現実的なラインで、経験10年以上の熟練者やフリーランスで500万〜700万円が上限。ただし、これは地域と勤務形態で大きく変わります。
2つの入職ルート
納棺師になるには、大きく2つのルートがあります。ひとつは葬祭系の専門学校(東京や大阪に数校あり、学費は年間90万〜120万円が相場)で学び、卒業と同時に納棺業者や葬儀社に就職する道。もうひとつは、未経験で葬儀社や納棺業者に採用され、社内研修で技術を身につけていく道。
私の実感では、後者の未経験入職ルートの方が多い。専門学校卒は全体の3割程度で、残り7割は他業界からの転職や新卒未経験入社です。理由はシンプルで、専門学校の数が少ないから。
研修期間と一人前になるまで
未経験で入職した場合、一人で現場を任されるまでには最低2〜3年かかります。最初の半年は先輩のアシスタントとして道具運びや準備を担当し、次の半年で簡単な処置を手伝い、その後1年かけて死化粧や着替えの技術を習得する。
「湯灌を主担当できるようになるまでは、5年はかかる」と、私が知る複数の熟練納棺師が同じことを言っていました。それだけ技術と経験の蓄積が必要な世界です。
年収の内訳と地域差
愛知県内の私の担当エリアでの体感値ですが、新人納棺師の初任給は月給20万〜23万円、経験5年で月給28万〜32万円、経験10年で月給35万〜40万円あたり。ボーナスは会社によって差が大きく、年間2〜4ヶ月分が中心です。
東京・大阪の都市部では、これに1〜2割上乗せされる印象。地方は逆に1〜2割下がる。フリーランスの納棺師で年収600万円超という方も知っていますが、これは1件2〜3万円の単価で月に30〜40件を担当している計算。相当な体力と経験が必要です。
納棺師の一日:現場のリアルな時間の流れ
納棺師の勤務時間は、葬儀の予定に大きく左右されます。標準的な一日を紹介すると、こんな感じです。
朝8時に事務所に集合。当日の予定確認と道具の準備で30分。9時に1件目の納棺現場へ向かい、9時30分から11時30分まで納棺の儀を実施。その後、事務所に戻って昼食を挟み、午後は2件目の現場へ。夕方までに2〜3件の納棺を担当するのが一般的です。
ただし、この予定は突然の依頼で崩れることがしょっちゅう。深夜に病院から搬送依頼が入り、翌日の朝一で急遽納棺を行うこともある。葬儀業界の勤務体系と休日事情で書いたように、シフト制で対応するのが一般的ですが、緊急対応は避けられない仕事です。
身体的にきつい場面
納棺師の仕事で最もきついのは、体重の重いご遺体を持ち上げる場面。100kg超のご遺体を2名で棺に納める作業は、腰への負担が相当なもの。私が知る納棺師の3人に1人は、腰痛の慢性化に悩まされています。
もうひとつは真夏の湯灌車内の作業。エアコンが効きにくい設備で、防護服を着ての90分作業は、汗だくになる。冬場は逆に、湯灌後の身体を冷やさないよう、暖房を効かせた中での作業になります。
精神的にこたえる場面
お子様のご遺体を扱う現場は、何年経ってもこたえます。私自身、小学生の子どもがいるので、同世代のお子様の納棺現場は、正直に言うと帰宅後にお酒に頼ってしまうこともある。納棺師の田村さんも「あれだけは慣れない」と言っていました。
それでも、この仕事を続ける理由がある。ご遺族が「ありがとうございました」と深々と頭を下げてくださる瞬間。故人と最後に向き合う場を、心を込めて整えられたという実感。他の仕事では得られない重みがあります。
よくある質問
Q1. 納棺師の仕事は資格が必要ですか?
法的に必要な資格はありません。無資格でも納棺師として働くことは可能です。ただし、多くの納棺業者や葬儀社が独自の研修制度を持っており、社内研修を経てから現場に出るのが一般的です。専門学校を卒業していると、就職時に有利になる場合があります。エンバーマー(遺体衛生保全士)は別で、こちらはIFSA認定の民間資格が必須です。
Q2. 納棺の儀にはご遺族全員が立ち会うべきですか?
できる限り立ち会うことをおすすめします。納棺の儀は、故人と最後にじっくり向き合える貴重な時間だから。特に湯灌を伴う場合、90分〜2時間かけて故人の身体を清めていく過程は、多くのご遺族にとって「別れの心の準備」の時間になります。ただし、幼いお子様やご高齢の方など、体調面で難しい場合は無理をしないでください。納棺師も「無理のない範囲でご参加ください」と必ず声をかけます。
Q3. 死化粧の費用はいくらくらいかかりますか?
死化粧単独の費用は、葬儀プランに含まれていることが多く、明確に別料金を提示されないケースが一般的です。湯灌とセットで頼む場合は8万〜15万円が相場。死化粧のみでの依頼は、3万〜5万円程度が目安です。ただし、闘病や事故で顔の損傷がある場合は、修復のための特殊技術が必要になり、追加費用が発生することがあります。事前に葬儀社に確認しておくと安心です。
Q4. 副葬品に入れられなかったものはどうすればいいですか?
火葬に耐えられないものは、棺には納められません。ただ、大切な品を故人と一緒に送りたい気持ちは自然なもの。私がよく提案するのは、写真を撮って棺に入れる方法。愛用のメガネや時計は、写真に撮って印刷し、その紙を棺に入れる。あるいは、葬儀後に自宅の仏壇や手元供養の場に飾って、故人の傍に置き続ける。物理的に一緒に送れなくても、心の中で共にあり続ける形はいくらでも作れます。
Q5. 納棺師になりたいのですが、女性でも大丈夫ですか?
もちろん大丈夫です。むしろ、女性の納棺師は現場で歓迎されています。私が仕事を発注している納棺業者12名のうち5名が女性納棺師で、女性のご遺体を担当する場面や、ご遺族が女性納棺師を希望される場面が実際にある。細やかな死化粧や着替えの気配りは、女性ならではの強みでもあります。ただし、体力仕事の面では、100kg超のご遺体を扱う場面もあるので、日頃の身体づくりは大事。私が知る女性納棺師の多くは、週2〜3回の筋トレを日課にしています。
Q6. 納棺師の仕事で最もやりがいを感じる瞬間はいつですか?
ご遺族が棺の中の故人を見て「本当にきれいにしていただいて、生前の顔に戻りました」と言われた瞬間、これに勝るやりがいはないと、私が知るすべての納棺師が口を揃えます。闘病でやつれた顔が、生前の穏やかな表情に近づいたとき。事故で損傷した箇所を、丁寧な修復で目立たなくできたとき。ご遺族の悲しみを、ほんの少しでも和らげられたという実感。それが、この仕事を続ける原動力です。




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