先月、20代の男性から問い合わせをもらいました。「火葬場で働きたいんですけど、どこに応募すればいいか分からなくて」。葬儀社で5年働いた経験はあるものの、火葬場の求人だけがどうしても見つからないと言うんです。気持ちはよく分かります。火葬場の職員募集は、ハローワークや求人サイトを眺めていてもなかなか出てこない。出たとしても年に1〜2人の枠で、しかも倍率は10倍を超えることが多い。
私自身、葬儀業界に20年いて、年間で100件以上のご葬儀を担当してきました。火葬場の職員さんとは毎日のように顔を合わせます。炉前で頭を下げ合う関係を続けてきて、彼らの仕事の重さも、給料の実態も、採用の難しさも、現場で見てきました。
この記事では、火葬場職員という仕事を選択肢に入れている人に向けて、知っておいてほしいことを全部書きます。公務員と民間の違い、給料の実額、試験の難易度、そして何より「大変なこと」。きれいごとは抜きで、現役の私が知っている範囲のリアルをお伝えします。
火葬場職員とは何をする仕事か
火葬場職員は、火葬炉の操作と運営に携わる職員のことです。正式には「火葬技師」「火葬業務員」などと呼ばれます。一般の方が「火葬場の人」と呼ぶ職種は、実は1つではなく、業務によって役割が分かれています。
大きく分けて、炉の操作と運転管理を担う火葬技師、ご遺族の案内や受付を担当する案内係、施設の維持管理や清掃を担う管理係、収骨ホールでお骨上げをサポートする収骨係に分かれます。中規模の火葬場では1人が複数を兼務するのが普通で、入職してから5〜10年かけて全業務を覚えていきます。
1日の流れをざっくり書くと、朝7時半に出勤して炉の点火準備、8時から打ち合わせと当日の予約確認、9時前後から火葬の受け入れが始まり、午後3時頃まで連続で炉を回します。1日に8〜15件をこなす火葬場が多く、都市部の大型施設では20件を超える日もあります。終業は16時〜17時ですが、最後の収骨が押すと18時を回ることも珍しくありません。
炉の操作は「ボタンを押すだけ」ではない
火葬炉の操作を「ボタン1つで終わる仕事」と思っている人がたまにいますが、実態は全然違います。故人の体格、棺の大きさ、副葬品の量、季節による炉の温度、前の火葬からの稼働時間。これらを全部加味して、火力と時間を細かく調整します。
火力が強すぎるとお骨が灰になってしまい、収骨でご遺族にお渡しできなくなる。弱すぎると焼き上がりに時間がかかり、後ろの予約に響く。喉仏や頭蓋骨の形をきれいに残すには、職人技と呼んでいいレベルの調整が必要です。骨上げで喉仏が重要視される理由を知っていれば、火葬技師がどれだけ繊細な仕事をしているかが見えてきます。
公務員か民間か、雇用形態で何が違うのか
火葬場職員になる道は、運営主体によって大きく2つに分かれます。市区町村が運営する公営火葬場の職員になる道と、民間企業が運営する火葬場に就職する道です。日本の火葬場の8割以上は公営で、残り2割が民間運営。地域によって偏りがあり、東京23区や横浜市は民間が中心、地方は公営がほとんどというのが現状です。
公営の場合、市区町村の正規職員として採用されるケースと、業務委託先の会社から派遣されるケースの2パターンがあります。最近は委託化が進んでいて、純粋な公務員として火葬業務だけを担当するポジションは減ってきました。とはいえ、施設長クラスや行政事務担当はまだ公務員枠が残っています。
公務員枠と民間枠の比較表
| 項目 | 公務員枠(市区町村職員) | 民間枠(業務委託会社) |
|---|---|---|
| 初任給 | 18〜20万円(高卒・大卒で差) | 20〜23万円 |
| 30代年収 | 400〜500万円 | 380〜480万円 |
| 40代年収 | 550〜650万円 | 450〜550万円 |
| 賞与 | 年4.5ヶ月分前後 | 年2〜3ヶ月分 |
| 退職金 | 2000万円超(定年時) | 500〜1000万円 |
| 採用試験 | 地方公務員試験(筆記+面接) | 書類選考+面接 |
| 倍率 | 10〜30倍 | 3〜8倍 |
| 異動 | あり(他部署転属の可能性) | なし(火葬業務専任) |
| 定年 | 60〜65歳 | 60歳が多い(再雇用あり) |
表を見て分かる通り、生涯年収では公務員枠のほうが有利です。特に退職金と賞与の差が大きい。ただし公務員は「火葬場専任」とは限らず、市役所の他部署に異動する可能性があります。一生火葬業務を続けたいなら、民間枠のほうが専門性を磨きやすい面もあります。
給料の実額と手当の中身
「火葬場職員は給料が高い」と聞いたことがある人もいるかもしれません。半分本当で、半分は誤解です。基本給だけ見ると、特別高いわけではありません。公務員なら一般行政職と同じ給料表が適用されますし、民間でも葬儀社の社員と大きくは変わりません。
ただ、特殊勤務手当が付くケースが多い。これは「精神的・身体的負担が大きい業務」に支払われる加算で、自治体によって月1万円〜5万円ほど上乗せされます。さらに早朝出勤手当や火葬件数に応じた成果手当を出す民間会社もあり、月収ベースで葬儀社より2〜3万円高い、というのが一般的な相場感です。
葬儀業界全体の給与水準と比べたい人は、以前まとめた葬儀屋の年代別・役職別年収のリアルと合わせて読むと、相場感がつかめます。火葬場職員は葬儀社の営業職より基本給は低めですが、夜勤がない分、生活リズムが安定するというメリットがあります。
年代別の年収シミュレーション
20代後半で年収350〜400万円、30代で450〜520万円、40代で550〜620万円、50代の管理職で650〜750万円というのが、公営火葬場職員のおおよその年収カーブです。役職に就かない場合でも、勤続年数が長いと600万円台後半までは到達します。
民間の場合はもう少し抑えめで、20代後半で320〜380万円、30代で400〜480万円、40代で500〜560万円といったところ。会社規模や地域によって幅があり、東京や横浜の大手民間火葬場は公務員に近い水準を出すところもあります。
採用試験の難易度はどれくらいか
結論から言うと、公務員枠は地方公務員試験の中でもかなりの難関です。理由は単純で、募集枠が極端に少ないから。中規模の市で年に0〜2人、大都市でも5人前後しか採らない年がほとんどです。ある政令指定都市の火葬場職員採用では、過去に120人が応募して合格したのが4人、倍率30倍という実績があります。
試験内容は自治体によって違いますが、一次試験は教養試験(高卒・大卒程度の一般常識)と作文、二次試験で個別面接と健康診断、三次で集団面接という流れが標準的です。技術職としての専門知識を問う筆記はなく、人物本位の選考になる傾向があります。
面接で見られるポイント
採用面接で問われるのは、知識よりも「人柄」と「動機の本気度」です。なぜこの仕事を選んだのか、ご遺体やご遺族と向き合う覚悟があるか、ストレス耐性があるか。この3点を、いろんな角度から繰り返し聞かれます。
志望動機で「公務員になりたい」「安定しているから」と答えてしまうと、ほぼ落ちます。逆に「葬儀社で働いていて、火葬の最前線で故人を見送りたいと思った」「祖父の火葬で職員さんの丁寧な対応に救われた」など、業界への具体的な接点を語れる人が強い。実際、葬儀社や納棺の現場で経験を積んでから転職する人が一定数います。
民間枠の採用試験は公務員ほど狭き門ではありません。書類選考と面接2回程度で、未経験者でも採用されるケースがあります。ただし「人手不足だから誰でも入れる」というわけではなく、長く続けられるかを慎重に見られます。3ヶ月の試用期間中に辞める人が一定数いるため、企業側も慎重なんです。
火葬場職員の大変なこと・きついこと
正直に書きます。この仕事は、想像以上にきつい場面があります。求人広告には書かれていない部分を、現場で見てきた範囲でお伝えします。
遺体と向き合うことの重さ
当然ですが、毎日ご遺体と向き合います。穏やかにお亡くなりになった高齢の方ばかりではなく、事故や自死、小さなお子さんのご遺体もあります。特に子どもの火葬は、何年やってもこたえる、と複数の職員さんから聞きました。1人の職員さんは「自分の子と同じ年頃の小さなお棺が来ると、その日は家に帰ってお酒を飲まないと眠れない」と話してくれました。
身寄りのない方の火葬も精神的にきます。誰も見送る人がいない中で、職員だけが手を合わせる。身寄りがない方の葬儀の実態を知ると、火葬場職員の仕事の重さがより分かるはずです。
身体的な負担と労働環境
炉の前は夏場で40度を超えます。冬でも炉の周辺は暑く、火葬中は粉塵も舞うので、体力がない人にはきつい環境です。ご遺体の搬送やお骨上げの介助で前かがみになる時間が長く、腰痛持ちになる職員さんも少なくありません。
勤務時間そのものは葬儀社よりずっと健全です。基本は8時〜17時の日勤で、夜勤はありません。土日祝も友引で火葬場が休業になる日があるため、葬儀社よりも休みが取りやすい。ただし火葬予約の集中する週明けや友引明けは、息つく暇もないほど忙しくなります。
遺族対応のプレッシャー
悲嘆の極みにいるご遺族と接するのは、言葉以上に神経を使います。お骨上げの場面で泣き崩れる方を支えたり、宗派による作法の違いを丁寧に説明したり、時には怒りをぶつけられたりもします。「なぜ早く焼かないのか」「お骨が思ったより少ない」といったクレームの矢面に立つのは、現場の職員です。
感情を表に出さず、淡々と業務をこなしつつ、ご遺族には寄り添う。この両立は、慣れるまでに数年かかります。私の知る限り、3年目までに辞める人の理由のほとんどがメンタル面です。
それでも続けている人がいる理由
大変な仕事だと書きましたが、20年30年と続けるベテラン職員さんもたくさんいます。続けている理由を聞くと、答えは意外と共通しています。
1つは「人の最後を確実に見送れる」という実感。葬儀社の場合、お通夜や告別式で関わって、火葬場でお別れして終わりですが、火葬場職員は「火葬」というプロセスの最終工程を担います。故人がこの世から旅立つ最後の場面に立ち会う仕事には、他では得られない重みがある、と多くの職員さんが言います。
もう1つは、生活リズムの安定。夜勤がなく、土日に休める日もあり、家族との時間が取れる。葬儀社から転職してきた人ほど、この点を高く評価します。葬儀社時代に夜中の搬送で家庭が壊れかけたという人も、火葬場に移ってからは子どもの運動会に毎年行けるようになった、と笑っていました。
そして「公務員としての安定」。これは正規職員に限った話ですが、生涯年収・退職金・年金を含めた経済的な安心感は、民間の葬儀業界では得られない大きなメリットです。
どうやってこの仕事に就くか
まず情報収集の方法から。公務員枠を狙うなら、住んでいる市区町村の広報誌や採用ホームページを定期的にチェックします。「火葬場職員」という名前ではなく、「環境衛生職」「火葬技師」「公営斎場業務員」など、自治体によって呼び方が違うので、火葬場の管轄部署(多くは生活環境課や市民課)の採用情報を見るのが確実です。
民間枠は、火葬場運営会社のサイトをこまめに見るか、葬儀業界の専門求人サイトに登録するのが早道です。東京博善、関東美装、東京葬祭などの大手は自社採用ページを持っています。地方の場合は、地域の葬儀社が火葬場業務を委託で請け負っていることもあるので、葬儀社経由で探すパターンも有効です。
未経験から目指すなら
葬儀業界が初めての方は、まず葬儀社で2〜3年経験を積んでから火葬場を目指すのが現実的です。葬儀の流れを知っていて、ご遺族対応に慣れている人は、面接でも圧倒的に強い。葬儀屋への就職・転職方法を参考にして、まず業界に足を踏み入れるのも1つの戦略です。
20代なら未経験で直接火葬場の民間枠に応募してもチャンスはあります。30代以降は何らかの業界経験を持っていたほうが採用率が上がる傾向があります。年齢制限は公務員枠で35歳前後が上限のところが多く、民間は45歳前後まで採るところもあります。
向いている人・向いていない人
20年現場を見てきて、続く人と続かない人の違いがはっきり見えてきました。最後に、自分が向いているか確認できる材料をお伝えします。
向いているのは、感情のコントロールが上手な人。悲しみに飲まれず、しかし冷たくならず、淡々と業務をこなしつつ必要な時に温かく寄り添える人です。手先が器用で、機械の操作に苦手意識がない人も適性が高い。火葬炉は精密な制御が必要で、メンテナンスも自分たちで行うことが多いため、機械に強いと重宝されます。
逆に向かないのは、刺激や変化を求めるタイプ。ルーティンワークが続くことに耐えられない人は、3ヶ月で辞めるケースが多い。それと、死生観が固まっていない若い人。20代前半でこの仕事に飛び込むなら、「人の死に毎日触れる」ことを自分がどう受け止めるか、よく考えてから決めてほしいです。
よくある質問
Q. 火葬場職員になるのに資格は必要ですか
必須資格はありません。普通自動車免許があれば応募できる施設がほとんどです。入職後にボイラー技士や危険物取扱者の資格を取得すると手当がつく場合があります。葬祭ディレクター技能審査も持っていると有利に働きますが、必須ではありません。
Q. 女性でも火葬場職員として働けますか
働けます。実際、案内係や受付業務、収骨補助では女性職員が多く活躍しています。炉の操作やご遺体搬送など体力を使う業務もありますが、近年は機械化が進み、女性でも問題なく担当できる現場が増えました。ただし採用枠が少ないため、女性比率は1〜2割程度の施設がまだ多数派です。
Q. 心付けはもらえるんですか
原則として受け取りません。公営施設は公務員規定で禁止、民間でも会社方針で辞退するのが今のスタンダードです。ご遺族が差し出されても丁寧にお断りします。地域によっては慣習として渡される場合もありますが、現代では「お気持ちだけ頂戴します」と返すのが標準対応です。詳しくは心付けの相場と渡さない地域の事情でまとめています。
Q. 友引の日は休めるんですか
多くの火葬場が友引を定休日にしています。ただし都市部の一部火葬場は友引も営業しており、その場合はシフト制で休みを取ります。友引明けの火曜日は予約が集中して非常に忙しく、1日に20件近く火葬を回す施設もあります。年間休日は120日前後が平均的です。
Q. 中途採用でも入れますか
入れます。むしろ中途採用のほうが多いのが実情です。葬儀社、警察、自衛隊、介護福祉系からの転職が目立ちます。前職で「人の死」に触れた経験がある人は、面接でも採用後も馴染みやすい傾向があります。年齢的には40代前半までが採用されやすく、それ以降は管理職経験など特別な強みが求められます。
Q. 火葬場職員から葬儀社への転職はできますか
可能で、実例もあります。火葬の現場を知っている人材は葬儀社から重宝されます。逆方向(葬儀社→火葬場)のほうが圧倒的に多いですが、ライフステージの変化で「もっと営業や提案がしたい」と葬儀社に転身する人もいます。業界内の横移動は比較的スムーズです。




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