先月担当した家族葬で、80代のお父様を見送る娘さんが、湯灌の途中でぽつりと言いました。「父の顔、10年ぶりに見た気がする」。認知症で入院していた父親と、コロナ禍で数年間ほとんど会えなかったそうです。納棺師が丁寧にお顔の産毛を剃り、頬の血色を整えていく20分ほどの間、娘さんは声を殺して泣いていました。
納棺師の仕事は、遺体を清めて棺に納めるだけの作業じゃない。あの日の娘さんのように、家族が「もう一度この人と向き合う時間」をつくる仕事です。
私は葬祭ディレクター20年目、年間100件以上の現場に立ってきました。納棺師と組む機会も月に20〜30件あります。この記事では、映画『おくりびと』のイメージだけでは分からない、給料・資格・湯灌の手順・独立して月80万稼ぐ道筋まで、業界の中の実数と体験で書きます。
この記事の要点
- 納棺師の平均年収は280〜420万円(未経験1年目は月給18〜22万円、5年目で月28〜32万円が現場実感)
- 必須資格はなし。ただし「厚生労働省認定 おもてなし規格認証」やIFSA遺体衛生保全士の資格保有者は昇給ペースが1.5倍速い
- 湯灌の儀式は所要60〜120分・スタッフ2名体制が標準で、費用相場は8〜15万円(式場・出張により変動)
- 独立した納棺師(フリーランス)は1件2〜4万円の外注単価で、月20〜25件受注できれば月商50〜80万円が現実的なライン
- 体力的にきついのは湯灌時の中腰姿勢と、深夜・早朝出動が月8〜12回入ること。逆に「感情労働」を苦にしないタイプには天職になりやすい
納棺師の仕事内容を1日の流れで見る
納棺師の1日は、故人と向き合う時間と、次の現場への移動時間の繰り返しです。単独で動くフリーランスと、葬儀社の専属チームでは動き方が違うので、両方見ておきたい。
私がよく組んでいる納棺師の女性、40代前半のIさんの1日を例に取ります。彼女は東京都内の納棺専門会社に所属していて、担当エリアは23区の西側。朝9時に会社を出て、1件目の湯灌現場(80代女性・自宅安置)に10時到着。準備20分、儀式60分、片付け20分で12時に離脱。移動して13時から2件目(90代男性・葬儀式場)。夕方17時までに3件、間に昼食は車の中でおにぎり1個。深夜1時に緊急コールが入って病院からの搬送先で処置、帰宅は4時。翌日は昼から出勤。
これが平均的な繁忙期の動き。冬場(12月〜3月)は依頼が2倍近く増えるので、1日4〜5件になる日もあります。
主な業務は「6つの工程」に分かれる
納棺師の仕事を細かく分けると、以下の6工程になります。1件あたりの所要時間は式場か自宅かで変わりますが、平均90分前後。
| 工程 | 所要時間 | 内容 |
|---|---|---|
| 1.事前準備・打ち合わせ | 10〜15分 | ご遺族への挨拶、故人情報の確認、副葬品の確認 |
| 2.遺体の状態確認 | 5〜10分 | ご遺体の硬直度・損傷の有無・化粧の必要度をチェック |
| 3.湯灌または清拭 | 30〜60分 | 専用浴槽での洗身、または蒸しタオルでの拭き清め |
| 4.死化粧・整容 | 15〜30分 | 髭剃り・化粧・髪型整え・血色補正 |
| 5.死装束の着付け | 15〜20分 | 経帷子または故人の希望の服への着替え |
| 6.納棺・副葬品の配置 | 10〜15分 | 棺への納め、家族との最後の対面時間の演出 |
この6工程のうち、私が「納棺師の腕の差」が一番出ると感じているのは、実は工程4の死化粧です。20年見てきた中で、化粧の上手い納棺師は、故人が生きていた頃の写真を1枚だけ家族から借りて、それを横に置いて仕上げる。同じ人物とは思えないほど、生前のその人の表情が戻ってきます。
葬儀社スタッフと納棺師の役割分担
ここ、意外と誤解されがちなポイント。私たち葬祭ディレクターがやるのは、葬儀全体の進行管理と遺族対応。納棺師はあくまで「納棺の儀」というピンポイントの専門職です。
例えば病院からの遺体搬送、安置室の管理、通夜・告別式の司会進行、火葬場との調整、これらは全部葬儀社側の仕事。納棺師が呼ばれるのは、遺体安置後から出棺前までの、実質2〜3時間だけ。だからこそ、その短時間で家族の心を動かせるかどうかが、この仕事の全てになる。
そうそう、納棺師と混同されやすい職種に「エンバーマー」がありますが、これは別物。エンバーマーは遺体の防腐処置や修復を専門とする職種で、必要な技術と資格が全く違います。詳しい違いは納棺師とエンバーマーの仕事内容・給料の比較記事で整理していますので、キャリアを考える方は目を通しておいてください。
湯灌(ゆかん)の儀式手順を工程別に解説
湯灌とは、納棺前に故人の身体を洗い清める儀式で、現代では専門業者が2名体制・約60〜90分で行うのが一般的です。仏教では「この世の穢れを洗い流し、来世への旅立ちに備える」という意味があり、宗派によっては欠かせない儀式とされています。
私が現場で見てきた湯灌には、大きく分けて「古式湯灌」と「現代式湯灌」の2種類があります。古式は昔ながらのたらいと逆さ水で行う方式、現代式は移動可能な専用浴槽をご自宅や式場に持ち込んで行う方式。今主流なのは現代式で、私の担当エリアだと9割以上がこちら。
湯灌の具体的な流れ(60〜120分)
浄土真宗本願寺派のご家庭で先週行った湯灌を例に、実際の流れを書きます。故人は78歳の女性、長い在宅介護の末に自宅で亡くなられた方でした。
- 10:00 納棺師2名到着。ご家族4名と打ち合わせ(10分)
- 10:10 専用移動浴槽をリビングに設置、ブルーシートで養生(15分)
- 10:25 逆さ水を用意(水を先に張り、後からお湯を注ぐ)
- 10:30 ご遺体を浴槽へ移動、家族が最初に足元にひしゃくで水をかける「儀式」の時間
- 10:35 洗髪・洗身(30分・家族も参加可、この日は次女さんが手を貸されました)
- 11:05 タオルで拭き上げ、浴槽を撤収
- 11:20 死化粧・爪切り・髭剃り・整髪(30分)
- 11:50 経帷子への着せ替え(20分)
- 12:10 納棺、副葬品の配置、遺族との最後の対面時間
- 12:30 儀式終了、退室
この日、次女さんが「母のお風呂、10年ぶりに一緒に入ったみたい」とつぶやいたのが忘れられない。介護の最後の何年かは、体が動かせず訪問入浴だけだったそうです。湯灌には、そういう「取り戻す時間」の側面がある。
宗派による湯灌の違い
意外と知られていないんですが、湯灌は宗派によって扱いが結構違います。私の担当地域で言うと。
| 宗派 | 湯灌の扱い | 特徴 |
|---|---|---|
| 浄土真宗本願寺派・大谷派 | 行うことが多い | 「洗身」の意味合いを重視、逆さ水は使わない場合も |
| 浄土宗 | 標準的に行う | 古式に近い形式が残る |
| 曹洞宗・臨済宗 | 行うことが多い | 禅宗系は身を清める意味が強い |
| 日蓮宗 | 行う | 形式は葬儀社に一任のことが多い |
| 真言宗・天台宗 | 行う | 密教的な意味合いで念入りに |
| 神道 | 行わないことが多い | 「清め」の思想は別の作法で表現 |
| キリスト教 | 行わない | エンバーミングを選ぶ家庭が増加 |
宗派関連は浄土真宗本願寺派と大谷派の作法比較でも詳しく整理しています。納棺師を目指すなら、担当地域の主要宗派の作法は最低限頭に入れておいたほうがいい。
湯灌の費用相場と葬儀社への支払いの内訳
湯灌1件あたりの費用は、遺族側が葬儀社に支払う総額で8〜15万円。地域と葬儀社によって差はあるけど、これが現場感覚。うちの葬儀社だと平均12万円で提案しています。
この内訳が、外部の人には見えにくい部分。実は葬儀社は納棺師(または納棺専門会社)に外注しているケースが多く、外注単価は1件2〜4万円が相場。差額の6〜11万円は葬儀社のマージン、というわけです。ここが、後述する「独立して稼ぐ」話につながってきます。
納棺師の給料・年収の実態
「納棺師 年収」で検索すると、300万から600万まで幅広い数字が出てきて混乱すると思う。私が20年見てきた実感で言うと、雇用形態と経験年数でここまで違います。
| 雇用形態・経験 | 月給の目安 | 年収の目安 |
|---|---|---|
| 葬儀社正社員・未経験1年目 | 18〜22万円 | 250〜300万円 |
| 葬儀社正社員・3〜5年目 | 25〜30万円 | 320〜400万円 |
| 葬儀社正社員・10年目以上 | 30〜38万円 | 400〜500万円 |
| 納棺専門会社の熟練者 | 32〜42万円 | 420〜550万円 |
| フリーランス(安定して受注できる場合) | 50〜80万円 | 600〜900万円 |
正社員だと、10年やっても年収500万を超えるのはかなり厳しい。うちの会社で言うと、10年目の正社員納棺師は年収430万円くらい。夜間出動手当が月2〜3万円ついても、それが限界。
年収を上げる3つのルート
じゃあ、納棺師として600万、800万を狙うにはどうするか。現場で見てきたパターンは3つ。
- 1つ目、大手互助会や葬儀チェーンの管理職ルート。関東圏だとベルコ、セレモニー、公益社などの大手に入って、5〜7年で納棺チームのリーダーに昇格すると年収500〜580万円。ただし管理業務が増えて、現場で施術する時間は減る
- 2つ目、IFSA認定の遺体衛生保全士(エンバーマー資格)を取得して、より高単価な業務を担う。エンバーミング1件あたり15〜30万円の高付加価値サービスに移行できて、年収600万円台に届く人もいる
- 3つ目、独立してフリーランスに。これが一番リターンが大きいけど、後述するように営業と信用構築が肝
ちなみに、業界全体の給与構造については葬儀業界の年収ランキングと給与明細のリアルにまとめてあるので、他職種との比較検討にはこちらも役立ちます。
未経験からのスタートで最初にぶつかる現実
未経験で入ってくる若い子、うちの会社にも毎年2〜3人います。1年目の月給18万円台で、そこから残業と夜勤手当を含めても手取り19〜21万円がやっと。都内の一人暮らしだと、正直生活はカツカツ。
「思ってたより給料低い」で辞めていく子が、私の記憶だと4割くらい。1年以内に。ただ、逆に3年続いた子は、そこから急に伸びます。指名がつき始めるから。
納棺師になるための資格とルート
結論から言うと、納棺師には国家資格も必須資格もありません。誰でも「今日から納棺師です」と名乗ることができる仕事です。ただ、実際に採用されて仕事を得るには、いくつかのルートがあります。
3つの主要な入り方
私が知っているだけで、納棺師になる道は3つ。
- ルートA、葬儀社に就職して社内で研修を受けながら現場で覚える。最短ルートで、未経験でも入りやすい
- ルートB、納棺専門会社(ディパーチャーズ・ジャパン、燦ホールディングスグループなど)に就職する。ここは納棺だけを専門にやっているので、技術が深く身につく
- ルートC、葬祭系の専門学校(日本ヒューマンセレモニー専門学校、駿台トラベル&ホテル専門学校の葬祭ディレクター科など)に1〜2年通ってから業界に入る
コストと時間のバランスで言うと、20代前半ならCの専門学校ルートがおすすめ。学費は年間100〜150万円かかるけど、卒業後に納棺師として即戦力扱いされる。20代後半以降で転職を考えるなら、AかBで飛び込んだほうが早い。
取っておくと有利な資格
必須ではないけど、これがあると採用でも独立でも有利、という資格を挙げておきます。
| 資格名 | 難易度 | 取得メリット |
|---|---|---|
| 葬祭ディレクター技能審査2級・1級 | 中〜高 | 業界内での信用が大きい、昇給の材料に |
| IFSA遺体衛生保全士(エンバーマー) | 非常に高 | 2年間の専門課程が必要、給与が跳ね上がる |
| おくりびとアカデミー修了 | 中 | 納棺実技に特化、独立志向の人に人気 |
| グリーフケアアドバイザー | 低〜中 | 遺族対応の質が上がる、指名獲得につながる |
葬祭ディレクター資格については葬祭ディレクター技能審査の試験内容と合格率の記事で詳しくまとめています。1級を持っていると、独立後の営業でも「1級持ちの納棺師」として差別化ができる。
それとエンバーマー志望なら、日本でエンバーマーになるための資格・専門学校・求人にルートを整理しています。学費300万円超と2年間の投資が必要ですが、その分リターンも大きい。
納棺師の仕事のやりがいときつさ、両面のリアル
この仕事、綺麗事だけじゃない。20年見てきて、確実に言えるのは「向き不向きがはっきり分かれる」ということ。私の周りで長く続いている納棺師の共通点と、辞めていった人の共通点を書きます。
現場でよく聞くやりがい
7年目のIさんに、なぜこの仕事を続けているのか聞いたことがあります。彼女の答えは「99%の家族が、湯灌の後に『ありがとう』を言ってくれるから」。
これは私も現場で感じます。他のサービス業だと、感謝されるのは10回に1回、いや20回に1回あればいいほう。納棺の現場では、ほぼ毎回、それも心の底からの「ありがとうございました」が返ってくる。
3年前に見送った、40代のがん患者さんの奥様の言葉が今も残っています。「主人の顔が、最後にこんなに穏やかになるとは思わなかった。この人と結婚してよかった、って改めて思えました」。納棺師の仕事は、家族に「この人と生きてきてよかった」と思わせる時間を作る仕事なんだと、あの日確信しました。
体力的にきついポイント
正直に書きます。この仕事、体はきつい。
- 湯灌時の中腰姿勢が30〜60分続く。腰痛持ちは3年で7割が発症するというのが、うちの労務データ
- 深夜1時、3時、5時の緊急コールが月8〜12回入る。冬場は倍
- 遺体の移動作業で1人30〜80kgを2人で持ち上げる、1日3〜4回
- 感染症対策で夏場でもマスク・ガウン・手袋、汗だくの現場が続く
Iさんは腰痛予防のため、週2回パーソナルトレーニングに通って体幹を鍛えています。「これは経費です」と笑ってた。それくらい体が資本の仕事。
精神的にきついポイント
体よりも、こっちのほうがきつい人が多い。私の後輩で、入社2年目で辞めた子が言い残した言葉。「毎日、誰かの一番悲しい瞬間に立ち会う仕事が、自分にはできないと分かりました」。
特にきついのは、若い方の看取り。20代、30代の突然死、事故死、自死。私も20年やってきて、子どもの納棺だけは何度立ち会ってもきつい。去年、6歳の男の子の湯灌をIさんと一緒に担当したとき、彼女は施術中は完璧なプロだったけど、駐車場に戻った瞬間に車のハンドルに突っ伏して、20分泣いていました。
感情労働の限界と向き合い続けることが、この仕事の一番の難しさ。だから、切り替えの上手さと、自分をケアする仕組みを持てるかどうかが分かれ道になる。
独立して稼ぐ納棺師になる道筋
ここが、この記事で一番書きたかった話。納棺師で年収600万、800万、1000万を目指すなら、独立フリーランス一択。ただし、簡単ではない。
独立の収益モデル
フリーランス納棺師の売上構造は、こんな感じ。
- 葬儀社からの外注案件、1件2〜4万円(相場は3万円前後)
- 月20〜25件受注できれば、月商50〜80万円
- 経費(車両維持・道具・保険・移動費)が月10〜15万円
- 手取りで月40〜65万円、年収換算で500〜780万円
実際、私が知っているフリーランスの納棺師、独立4年目のKさん(45歳男性)は、月26件受注で年商900万、手取り650万というのが直近の数字。彼が独立できたのは、10年間葬儀社で修行して、業界内に「あの人に頼めば間違いない」という信用を作ってから、というのがポイント。
独立で失敗する典型パターン
逆に、独立して2年以内に廃業した納棺師も、私は3人見てきました。共通点が3つあります。
- 1つ目、営業をしていない。技術に自信があっても、葬儀社に売り込みに行かないと仕事は来ない
- 2つ目、24時間対応の体制が組めない。夜間コールに出られないと、葬儀社は他の納棺師に流す
- 3つ目、遺族対応の品質が安定しない。技術だけあっても、コミュニケーションで1件クレームが入ると、その葬儀社からの発注が止まる
特に3つ目は、独立で一番怖い落とし穴。葬儀社の担当者は、遺族からのクレームを最も恐れるので、少しでも「あの納棺師は微妙」と噂が立つと、あっという間に発注が減る。うちの会社でも、過去に2名、そういう理由で発注を止めた納棺師がいます。
独立までのおすすめステップ
私が後輩に独立を勧めるとしたら、こう伝えます。
- ステップ1、葬儀社または納棺専門会社で最低5年、できれば7〜10年修行する。この間に、担当エリアの葬儀社担当者と個人的な信頼関係を作っておく
- ステップ2、葬祭ディレクター1級とグリーフケア関連資格を取得。差別化の材料になる
- ステップ3、独立の1年前から副業として週末だけフリー案件を受け始める。会社に相談できる関係を先に作っておく
- ステップ4、退職前に3〜5社の葬儀社から「独立したら発注する」の内諾を取る。これがないと独立は無謀
- ステップ5、車両・道具・法人設立の初期投資として300〜500万円を準備。運転資金は最低6ヶ月分
技術的な独立準備については、納棺師の遺体処置から死化粧までの一連の流れで工程を再確認しておくといい。手順が身体に染みついていないと、独立後に自分1人で全工程を回せない。
これから納棺師を目指す人へのアドバイス
20年やってきて、この仕事を目指す人に一番伝えたいのは、「死と向き合う覚悟」よりも「生きている遺族と向き合う覚悟」の方が大事、ということ。
遺体は、正直、慣れます。半年もすれば怖くなくなる。でも、遺族の悲しみと向き合い続けることに慣れる日は来ない。来ないほうがいい。慣れてしまったら、この仕事の意味がなくなる。
向いている人の3つの特徴
うちで長く続いている納棺師の共通点。
- 話すよりも聞くほうが得意。遺族の話をただ聞ける人
- 手先が器用。細かい作業を苦にしない。裁縫や料理が得意な人はほぼ適性あり
- 感情のスイッチが切り替えられる。現場では冷静、家では普通に笑える
逆に、正義感が強すぎる人、完璧主義の人、共感力が高すぎて自分を消耗させる人は、続きにくい印象。共感は必要だけど、共感しすぎて自分が潰れるタイプの人には、この仕事はきつすぎる。
最初の1歩の踏み出し方
興味を持ったら、まず葬儀業界のセレモニースタッフのアルバイトから始めるのを勧めます。これが一番リスクが低い。セレモニースタッフの仕事内容とパート時給相場の記事で書いた通り、現場の空気を数ヶ月体感してみて、それでもこの世界に入りたいと思ったら、正社員採用に進めばいい。
「向いてるかどうか分からない」で悩んでる時間は、正直もったいない。1回現場に立ってみたら、自分が続けられるかどうか、3ヶ月で分かります。
よくある質問
Q1. 納棺師は女性でも務まりますか?
むしろ女性のほうが向いているケースが多いです。私の担当エリアでは、納棺師の6割以上が女性。理由は3つあって、細やかな死化粧が得意な人が多いこと、遺族(特に女性遺族)からの安心感が高いこと、故人が女性の場合に指名されやすいこと。
体力面が心配される方もいますが、遺体の移動は必ず2人体制なので、単独で無理をする場面はほぼありません。ただ、深夜出動と長時間の中腰姿勢はあるので、体調管理は必須です。
Q2. 40代・50代からの転職でも間に合いますか?
間に合います。というより、40代以上の転職者は歓迎される傾向があります。理由は、遺族対応で「人生経験」がそのまま武器になるから。20代の納棺師が言う「お察しします」より、50代が言う「私も母を送りました」の一言のほうが、遺族の心に届くことがある。
ただし体力面で無理はきかないので、最初の2年は月給が20万前後になる覚悟は必要。3年目以降で経験を積めば、40代未経験入社でも年収400万円台は十分狙えます。
Q3. 湯灌と清拭(せいしき)の違いは何ですか?
湯灌は専用浴槽でお湯を使って全身を洗い清める本格的な儀式、清拭は蒸しタオルで拭き清めるシンプルな方式です。費用は湯灌が8〜15万円、清拭が3〜5万円と大きな差があります。
選び方の目安は、故人が生前お風呂好きだった方、家族が「最後にゆっくり湯につからせてあげたい」と願う方には湯灌が選ばれます。時間や予算の制約がある場合、または遺体の状態(感染症・損傷など)から湯灌が難しい場合は清拭を選びます。
Q4. 納棺師とエンバーマー、どちらを目指すべきですか?
目的によります。短期間で現場に立ちたい、遺族との交流を大切にしたいなら納棺師。技術を極めて高年収を目指したい、遺体の修復や長期保存の専門性を身につけたいならエンバーマー。
コストで比較すると、納棺師は最短6ヶ月〜1年で独り立ち可能、エンバーマーは専門学校2年+実務2年で計4年かかります。年収の伸び代はエンバーマーのほうが大きく、独立10年目で年収800〜1000万円も現実的です。
Q5. 独立するとどれくらいで元が取れますか?
初期投資300〜500万円(車両・道具・法人設立費・6ヶ月分の運転資金)に対して、順調に軌道に乗れば1〜2年で回収可能です。ただ、これは葬儀社との信頼関係が既にできている前提。ゼロから営業をスタートする場合、最初の1年は月商30〜50万円、2年目で60〜80万円まで持っていけると成功パターン。
失敗する人の共通点は、営業を軽視すること。技術があっても、葬儀社担当者との人間関係を作れない人は仕事が来ない。独立前の5〜10年の修行期間で、どれだけ社内外で信頼を積み上げたかが、独立後の成否を分けます。
Q6. 感情移入しすぎて疲れる時、どう対処していますか?
正直、20年やってても未だに完璧な答えはないです。私が周りの納棺師と共有している対処法を挙げると、現場から離れた瞬間に儀式的な切り替え動作を作ること(私は帰りの車内で必ず好きな音楽を1曲聴く)、月1回は業界外の友人と食事に行くこと、年に2回は3日以上の連続休暇を取ってリセットすること。
それでも辛いときは、社内カウンセラーや外部のグリーフケア専門家に相談する仕組みを、会社側にも作ってもらう必要があります。「弱音を吐ける環境」があるかどうかが、この仕事を10年続けられるかどうかの分岐点になる、と感じてます。




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