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身寄りがない人の葬儀費用は誰が払う?|行政による火葬・無縁仏の流れと生前準備

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白い花と静かな窓辺、ひとりの終活を思わせる情景 葬儀の基礎知識・用語集
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去年の秋、市役所の福祉課から電話が入りました。「アパートで70代の男性がお亡くなりになりまして、身寄りがどうしても見つからない。火葬をお願いできますか」。現場に向かうと、部屋には未開封の年賀状が数枚と、几帳面に整理された通帳が残されていました。家族の写真は、一枚もありません。

身寄りのない方の葬儀を、私は年に十数件担当しています。20年前は「特殊なケース」でしたが、今は日常業務の一部です。厚労省の統計では、引き取り手のないご遺体は年間6万件を超えました。10年前の倍以上のペースで増えています。

この記事では、身寄りがない方が亡くなった時に費用を誰が払うのか、行政の火葬はどう進むのか、無縁仏になるまでのタイムラインを、現場の実務からお伝えします。ご自身のこととして考えている方、遠い親戚の連絡を受けて戸惑っている方、どちらにも役立つ内容にしました。

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身寄りがない人の葬儀費用は、まず誰が負担するのか

結論から書きます。身寄りがない方が亡くなった場合、費用の負担者は次の順番で決まっていきます。第一に本人の遺した財産、第二に扶養義務のある親族、第三に自治体(行政)です。この順番が現場では非常に重要で、順番を飛ばして進めることはできません。

本人の口座に貯金があれば、そこから葬儀費用が支払われます。ただし口座は死亡が銀行に伝わった時点で凍結されるため、実際には遺留金として自治体が保管し、後日精算する形になることが多いです。凍結された口座の解除については、以前まとめた銀行口座凍結の解除手続きガイドも参考になります。

次に確認されるのが親族です。「身寄りがない」といっても、戸籍を辿ればどこかに親族が見つかるケースは実は多い。私が担当した例でも、故人が「兄弟とは20年以上絶縁している」と言っていた方の戸籍を役所が調べたら、名古屋に姪御さんが見つかった、ということがありました。

扶養義務者の範囲はどこまでか

民法上、扶養義務があるのは配偶者、直系血族(親・子・孫)、兄弟姉妹です。家庭裁判所が認めれば、三親等以内の親族(叔父叔母、甥姪など)まで広がります。役所は戸籍を遡って、この範囲の親族を探します。

見つかった親族には「引き取りますか」と連絡が入ります。ただし、法律上の扶養義務があっても、実際には拒否できます。数十年会っていない兄弟や、疎遠になった甥姪に「費用を全額払え」と強制することは事実上できません。この点は遺体の引き取り拒否は可能かで詳しく書いた通りです。

親族が全員拒否した、あるいは戸籍を辿っても誰も見つからなかった。ここで初めて、自治体が動きます。

行政による火葬(墓地埋葬法9条)の流れ

身寄りがなく、費用を負担する人が誰もいない場合、自治体が火葬を行います。根拠法は墓地埋葬法9条。「死体の埋葬又は火葬を行う者がないとき、又は判明しないとき」に市町村長が火葬を行うと定められています。俗に「9条火葬」「行政火葬」と呼ばれるものです。

これは生活保護受給者向けの葬祭扶助とは別の制度です。葬祭扶助は「葬儀を執り行う喪主」がいて、その人が生活困窮している場合の扶助。9条火葬は「そもそも執り行う人がいない」場合の行政処置です。

実際の流れを時系列で

アパートや自宅で亡くなっているのを発見された場合、まず警察が入ります。事件性の有無を確認する検視です。事件性がなければ、死体検案書が発行されます。ここまで発見から半日〜数日。ご遺体は警察署の霊安室か、委託業者の安置施設に運ばれます。

並行して、警察と役所が戸籍調査を進めます。本籍地を辿り、親族を探す。この期間が最短で3日、長ければ2週間ほどかかります。この間、ご遺体は冷蔵保存されます。夏場は特に、時間との勝負になる。

親族が見つからない、または全員が引き取りを拒否した場合、自治体が火葬を執行します。市町村が契約している葬儀社に依頼が入り、簡素な火葬式が行われる流れです。読経や式典は基本的にありません。棺、骨壷、火葬料金のみ。費用は約15〜25万円が相場で、これを自治体が立て替えます。

期間行われること担当
発見〜1日検視・死体検案書の発行警察・監察医
1〜14日戸籍調査・親族探索警察・自治体福祉課
親族拒否確定後 数日以内行政火葬の執行自治体委託葬儀社
火葬後 5年間遺骨の一時保管自治体または委託寺院
5年経過後無縁塚への合祀自治体

遺留金からの精算

自治体が立て替えた費用は、本人の遺した財産(預金、現金、不動産の売却益など)から後日回収されます。もし遺留金だけで足りれば、自治体の実質負担はゼロ。足りない部分は税金で補われます。

私が関わったケースでは、通帳に80万円ほど残っていて、火葬費用20万円を差し引いた60万円が最終的に相続財産として処理されました。相続人が見つからなければ、その残金は最終的に国庫に帰属します。

親族に「支払え」と請求が来ることはあるのか

ここが読者の方から一番よく聞かれる質問です。「疎遠だった叔父が亡くなったと市役所から連絡が来た。費用の請求が来るのが怖い」。この不安、現場で本当によく耳にします。

結論から言えば、拒否すれば強制されないケースがほとんどです。役所は「引き取りますか」「費用を負担しますか」と打診します。「無理です」と答えれば、それ以上の追及はまずありません。行政火葬に切り替わります。

ただし例外があります。故人と同居していた、直近まで金銭的な援助をしていた、生活保護の申請時に扶養照会で「支援可能」と答えていた、こうしたケースでは扶養義務を強く問われる可能性があります。同居していた成人した子が「私は関係ない」と主張しても、通らないことが多い。

親族が引き取る場合の選択肢

「疎遠だったけど、火葬だけは自分たちで」と決めた場合、選べる葬儀の形は主に3つ。直葬(火葬式)、一日葬、家族葬です。身寄りが乏しい方の場合、直葬を選ぶご家族が9割以上。費用は15〜25万円で済みます。

費用が払えない、でも自分たちで見送りたい。この場合に検討したいのが葬祭扶助です。喪主が生活保護受給者、あるいは生活保護に近い困窮状態にあれば、自治体が葬儀費用を支給します。詳しくは低所得者向け葬儀費用の減免・貸付制度にまとめています。

無縁仏になるまでの5年間

行政火葬で焼かれたご遺骨は、すぐに無縁仏として合祀されるわけではありません。多くの自治体では5年間、遺骨を保管します。この間に親族が見つかれば引き渡す、というルール。

保管場所は自治体によって違います。役所内の遺骨保管室、委託先の寺院、公営納骨堂などさまざま。名古屋市の場合は八事霊園に保管され、5年経過後に無縁塚へ合祀されます。私が担当した方の遺骨も、5年後にそこへ移されました。

合祀されると、個別に取り出すことはできなくなります。他の無縁仏の方々と一緒に、大きなお墓に納められる形。血縁の方が「やっぱり引き取りたい」と後から名乗り出ても、遺骨の返還は不可能になります。この5年という猶予は、意外と短い。

無縁仏になるとどうなるのか

合祀後は自治体が定期的に法要を営みます。年に一度、僧侶を招いての読経が一般的。個別の墓標はありませんが、無縁塚全体が供養の対象となる形です。この供養の在り方は無縁仏になるとどうなるかで詳しくまとめました。

「無縁仏になるのは寂しい」と感じる方もいますが、私の感覚では、行政も委託寺院もきちんと供養しています。放置されているわけではない。ただ、名前が刻まれた個別のお墓ではなく、共同のお墓に入る、という事実は変わりません。

生前にできる準備|「行政まかせ」を避けるために

ここからは、ご自身のこととして読んでいる方向けの話。「自分は身寄りがない、あるいは家族に迷惑をかけたくない」と感じている方は、生前にできる準備がいくつもあります。行政に丸投げされるのを避けたい、自分の希望する形で送られたい、この気持ちがあるなら、動くのは今です。

死後事務委任契約を結ぶ

身寄りがない方に最も強くおすすめするのが、死後事務委任契約です。行政書士や司法書士、あるいはNPO法人と契約を結び、「亡くなった後の葬儀・火葬・納骨・役所手続き・遺品整理をお願いします」と生前に依頼しておく方法。

費用は契約時に30〜50万円、実際の葬儀費用として別途50〜100万円を預託金として預けるのが一般的。合計100〜150万円ほど。決して安くはないけれど、これがあれば「自分の希望通り」に送ってもらえます。無宗教葬にしたい、海洋散骨にしたい、こうした具体的な希望も書面に残せます。

生前契約を葬儀社と結ぶ

葬儀社と直接、生前契約を結ぶ方法もあります。「私が亡くなったら、この内容で火葬してください」と契約書を交わし、費用を前払いするか、預託する形。互助会の積立とは違い、個別契約なので契約内容が明確です。

ただし葬儀社の倒産リスクがあるため、預託金の管理体制は必ず確認してください。信託銀行に預ける仕組みがある会社を選ぶこと。事前相談のポイントは葬儀社の選び方を参考にしてほしいです。

エンディングノートは必須

正式な契約書ではないけれど、エンディングノートの効果は絶大です。特に身寄りがない方の場合、行政や委託業者が「この人はどんな人だったのか」を知る唯一の手がかりになります。

書いておきたい項目は、本籍地、本人の希望する葬儀形式、菩提寺の有無、遺骨の希望する行き先、加入している保険、銀行口座、連絡してほしい知人の連絡先。私が担当した方で、几帳面なエンディングノートを残していた方がいました。「散骨希望」「戒名不要」「葬儀は簡素に」と明記されていて、行政の担当者もそれを尊重してくれました。

遺骨の行き先を決めておく

お墓を持たない方が増えているので、遺骨の行き先の選択肢も広がっています。永代供養墓、樹木葬、海洋散骨、寺院の合祀墓。生前に契約できるところが多く、費用も5〜30万円と幅広い。

「お墓はいらない」派の選択肢はさまざまで、詳しくはお墓はいらない派の供養方法にまとめました。生前に契約書を交わし、その控えをエンディングノートと一緒に保管しておけば、行政も対応してくれます。

身寄りのない方への行政サポート

「自分は身寄りがない」と気づいた瞬間、不安になるのは自然なことです。でも、行政のサポートは意外と手厚い。使える制度を知っておくだけで、心の余裕が違います。

地域包括支援センターへの相談

65歳以上の方なら、地域包括支援センターが窓口になります。介護保険の相談だけでなく、終活の相談、成年後見制度の紹介、死後事務委任契約の相談まで、幅広く対応してくれます。無料。

私の担当した70代の一人暮らしの方は、地域包括支援センター経由で社会福祉協議会と契約し、月1回の安否確認と、死後の火葬・納骨まで面倒を見てもらう仕組みを作っていました。費用は初期契約30万円と、月々3000円ほど。合理的な選択だと感じました。

自治体の終活支援事業

横須賀市の「エンディングプラン・サポート事業」を筆頭に、身寄りのない方向けの終活支援を独自に行う自治体が増えてきました。低所得者向けに、葬儀費用の預託・執行を市が直接サポートする仕組みです。

横須賀、綾瀬、大和、豊島区、千葉市。少しずつ広がっていますが、まだ全国では例外的な事業。お住まいの自治体で似た制度がないか、役所の福祉課か地域包括支援センターに問い合わせてみてください。

現場から見えた「準備しておいてよかった」実例

最後に、私が現場で「この方は本当に準備が万全だった」と感じた実例を紹介します。80代の女性、一人暮らし、ご主人を10年前に亡くされて、お子さんはなし。

この方は70代のうちに、司法書士と死後事務委任契約を結び、うちの葬儀社と生前契約を交わしていました。契約書のコピーは玄関の見えるところに封筒で貼り、封筒には「私に何かあったらこれを開けてください」と大きな字で書かれていた。エンディングノートも冷蔵庫に貼ってあった。

亡くなられた時、発見した大家さんが封筒を開け、司法書士に連絡。司法書士から私たちに連絡が入り、24時間以内に葬儀の段取りがすべて動き出しました。行政が介入する必要はなく、彼女の希望通り、無宗教の直葬で、遺骨は樹木葬に。生前に選ばれた海の見える霊園に、静かに眠っておられます。

準備というのは、家族への贈り物であると同時に、自分自身への贈り物だなと、あの現場で強く感じました。「私はどう送られたいか」を書き残しておくこと。それだけで、最後の時間の意味が変わってきます。

よくある質問

疎遠だった親戚が亡くなったと連絡が来ました。断れますか?

基本的には断れます。役所からの「引き取り依頼」は法的強制力を持たないので、電話や書面で「対応できません」と伝えれば、それ以上追及されることはほとんどありません。行政火葬に切り替わります。ただし、同居や生活費援助など具体的な扶養関係があった場合は事情が異なるので、判断に迷う場合は市区町村の福祉課か弁護士に確認してください。

行政火葬でも遺骨は返してもらえますか?

火葬後5年以内であれば、多くの自治体で返還を受けられます。名乗り出た親族が本人との関係を戸籍で証明できれば、遺骨は引き渡されます。5年を過ぎて無縁塚に合祀されてしまうと、他の方の遺骨と混ざるため、個別の返還は不可能になります。もし引き取りを検討している場合は、できるだけ早めに自治体の福祉課に連絡してください。

行政火葬にはお経や式典はありますか?

基本的にはありません。棺に納めて火葬場に運び、火葬して収骨する、これだけです。読経も戒名もなし。ただし委託される葬儀社によっては、火葬前に短い黙祷の時間を設けたり、担当スタッフが手を合わせたりする場面はあります。故人を粗末に扱うわけではなく、儀式としての式典が省略されるという意味です。

死後事務委任契約はいくらかかりますか?

契約する専門家や範囲によって幅がありますが、契約時の報酬が30〜50万円、実際の葬儀・納骨費用の預託金として50〜100万円、合計100〜150万円が一般的です。行政書士、司法書士、NPO法人、社会福祉協議会などで扱っています。お住まいの地域包括支援センターに相談すれば、信頼できる窓口を紹介してもらえます。

身寄りがなくても、自分の希望する葬儀はできますか?

できます。生前に死後事務委任契約を結び、葬儀社と生前契約を交わし、エンディングノートで希望を明記しておけば、無宗教葬、海洋散骨、樹木葬、どんな形でも実現可能です。準備なしで亡くなった場合は行政火葬になり、希望を反映する余地はほぼありません。「自分らしく送られたい」と願うなら、生前準備が唯一の方法だと思ってます。

預貯金がある場合、行政火葬でも本人のお金が使われますか?

はい。本人の遺留金(預金・現金)があれば、そこから火葬費用は精算されます。自治体は立て替えた費用を、本人の財産から回収します。余った財産は相続人に渡され、相続人がいなければ最終的に国庫に帰属します。相続財産管理人の選任手続きを経ることも多いです。

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