受付に立っていて、思わず目で追ってしまう参列者がいます。明るすぎる髪色、後ろで揺れる巻き髪、ツヤの強すぎる男性の前髪。ご本人は気づいていないけれど、ご遺族や周りの参列者からは「あの方、ちょっと…」と小声で話題になることがあります。私が現場に出るようになって20年、髪型のことで気まずい思いをされた方を何人も見てきました。
服は喪服を買えばなんとかなる。でも髪型は、その日の自分の状態がそのまま出てしまう。だからこそ、事前に「何がセーフで何がアウトか」を知っておくと、当日慌てずに済みます。
この記事では、ロングヘアの方の具体的なまとめ方、髪色のトーンの限界線、男性のワックスやジェルの選び方まで、現場で実際に見てきた事例をもとにお伝えします。読み終わるころには、当日の朝に鏡の前で迷わずに済むはずです。
お葬式の髪型で守るべき大原則は「控えめ・清潔・耳より下」
細かいルールに入る前に、まず押さえておきたい大原則が3つあります。この3つさえ守れば、よほど奇抜なことをしない限り失礼にはなりません。
1つ目は「控えめであること」。華やかさやおしゃれ感は完全に抜きます。結婚式と真逆だと思ってもらえば分かりやすい。2つ目は「清潔感」。寝癖、ベタついた頭皮、フケ。これらは喪服以上に印象を左右します。3つ目は「耳より下でまとめる」。お辞儀や焼香で頭を下げたときに髪が顔にかからない高さ、それが耳より下です。
逆に言えば、この3つに反する髪型はすべてマナー違反になり得ます。ポニーテールを高い位置で結ぶのも、お団子を頭のてっぺんに作るのも、巻き髪をふわっと垂らすのも、全部アウト。理由は「お祝いごとを連想させるから」です。
なぜ「耳より下」なのか
慶事の髪型は高い位置で華やかに、弔事は低い位置で控えめに。これは昔から日本の冠婚葬祭で守られてきた区別です。位置を低くすることで「悲しみに沈む心」を表現する、という意味合いがあります。
もう一つ実用的な理由もあって、焼香のときに前かがみになると、高い位置のお団子は崩れやすく、ポニーテールは前に流れて邪魔になる。低い位置でしっかりまとめておけば、所作も美しく見えます。
葬儀全体の流れを事前に把握しておきたい方は、通夜から初七日までの完全な流れをまとめた記事も合わせて読んでおくと、当日の動きがイメージしやすくなります。
ロングヘアのまとめ方|低めシニヨンの作り方を手順で解説
肩につく長さ以上の方は、必ずまとめてください。「結ぶだけじゃダメ?」と聞かれることが多いですが、ポニーテールはNGです。理由はさっき書いた通り、高さの問題と慶事を連想させるから。やるべきは「シニヨン」と呼ばれる、うなじのあたりでまとめるお団子スタイルです。
手順はシンプル。まず髪全体をブラシでとかし、耳より下、首の付け根あたりで一つに結びます。結んだ毛束を根元にぐるぐる巻きつけて、Uピンかアメピンで固定。表面の毛が浮いていたら、ヘアスプレーで軽く押さえます。鏡を見て、横から見たときに後頭部から後ろにぴょこっと出ていなければ完成です。
使うヘアアクセサリーの選び方
シニヨンを留めるアイテムは、黒に統一します。シュシュも黒。バレッタも黒のマット仕上げ。一番無難なのは「黒のネット付きバレッタ」で、毛束をネットにくるんでから留めるタイプです。これなら崩れにくく、見た目もきっちり整います。
避けるべきは、リボン付き、ビジュー付き、光沢のあるサテン素材、レース、ヒョウ柄。装飾があるものは基本的にすべてアウトです。「ちょっとくらい大丈夫かな」と思うベージュやネイビーも、葬儀の場では浮きます。
前髪と後れ毛の処理
前髪が目にかかる方は、焼香で頭を下げたときに顔に流れてきます。これがけっこう見苦しい。サイドに流して耳にかけるか、黒のアメピンでサイドに留めてしまうのが確実です。
後れ毛をわざと残すスタイリングも避けてください。ヘアサロンで結婚式用に教わるような「ふわっと感を出す技」は、葬儀ではすべてNG。きっちり、ぴたっと、まとまっている状態が正解です。
髪色のOK/NGライン|何トーンまでなら大丈夫か
これが一番相談を受ける質問です。「茶色いんですけど、染め直したほうがいいですか?」「明日通夜なんですけど、間に合わないんです」。電話口で焦った声を何度聞いたか分かりません。
結論から言うと、目安は「7トーン以下」です。美容師さんが使うレベルスケールで7番、つまり日本人の地毛より少し明るいくらいまでなら、葬儀の場でも許容範囲。8トーン以上の明るい茶色、いわゆる「外国人風カラー」「アッシュベージュ」などは、本来は黒く染め直すべきです。
| 髪色レベル | 見た目 | 葬儀での可否 | 対処法 |
|---|---|---|---|
| 4〜6トーン | 地毛〜こげ茶 | 問題なし | そのままでOK |
| 7トーン | 暗めの茶色 | 許容範囲 | まとめ髪で目立たなくする |
| 8〜9トーン | 明るい茶色 | 本来は要染め直し | 黒染めスプレーで対応可 |
| 10トーン以上 | 金髪・ハイトーン | NG | 黒染めスプレー必須、できれば美容院 |
| インナーカラー・メッシュ | 部分的に明るい | NG | まとめ髪で隠す+黒染めスプレー |
急なお通夜で染める時間がないときの対処法
訃報は突然きます。前日の夜にお通夜の連絡を受けて、翌日は仕事を早退して駆けつける、というケースがほとんど。美容院に行く時間なんてありません。
そんなときに頼れるのが「黒染めスプレー」です。ドラッグストアで1000円前後で買えます。「ヘアカラースプレー 黒」で検索すると複数のメーカーが出てきますが、私が現場でよく見るのはサロンドプロやビューティーラボ。スプレーして10分ほど置けば、当日だけ黒髪に見せられます。シャンプーで落ちるタイプなので、後日のメンテナンスも不要です。
注意点が2つ。1つは、ムラなく塗るために少しずつ重ねること。一気にかけると黒い液が首や耳に垂れます。2つ目は、当日の朝に「手や首についていないか」を必ず鏡で確認すること。お焼香のときに手が黒ずんでいたら、それはそれで悲しい目立ち方をします。
インナーカラー・メッシュの隠し方
最近多いのが、耳の後ろや襟足だけ明るい色を入れているインナーカラー。これはまとめ髪にすると逆に目立つことがあります。シニヨンを作るときに、明るい部分が表に出てこないよう、内側に巻き込むようにまとめてください。
それでも見えてしまう部分には、黒染めスプレーをピンポイントで使います。襟足の数センチだけなら、ほんの少し吹きかけるだけで十分カバーできます。
男性の髪型マナー|整髪料のOK/NGライン
男性の方も、髪型は意外と見られています。特に焼香のために前に出てきたときの後頭部、お辞儀したときの分け目。後ろに座っている参列者からは、男性参列者の頭頂部がよく見えるんです。
基本ルールは女性と同じで「控えめ・清潔・短めに整える」。これに「整髪料はマット系」が加わります。
ワックスとジェル、どちらを選ぶか
結論を言うと、葬儀の場ではマットタイプのワックスが最適です。ツヤを出すジェルは原則NG。理由はシンプルで、ツヤツヤした髪は「華やかさ」を演出するアイテムだから。葬儀で求められるのは真逆の「落ち着き」です。
| 整髪料の種類 | 仕上がり | 葬儀での可否 |
|---|---|---|
| マットワックス | ツヤなし、自然 | ◎ 推奨 |
| クリームタイプ | 軽い束感、控えめなツヤ | ○ OK |
| ファイバーワックス | 束感が強い | △ 量を控えめに |
| ジェル(ハードジェル) | 強いツヤ、固める | × NG |
| グリース・ポマード | 強いツヤ、七三分け系 | × NG |
| ヘアスプレー(ツヤ出し) | 表面に光沢 | × NG |
普段ジェルでガチガチに固めている方は、葬儀のときだけマットワックスに切り替えてください。コンビニでも買えるので、急なときは出先で調達できます。
分け目と前髪の整え方
男性の場合、サイドはすっきりと、前髪は目にかからないように。ビジネスシーンの清潔感ある髪型をイメージしてもらえれば、ほぼ正解です。
避けたいのは、ツーブロックで刈り上げ部分が目立ちすぎるスタイル、アシメ(左右非対称)、立ち上げすぎたソフトモヒカン、寝癖のままの天パ。気になる方は、葬儀の前日か当日朝にバーバーで軽く整えてもらうと安心です。10分カット系のお店でも、「明日葬儀があるので、サイドだけ整えてください」と伝えれば対応してもらえます。
男性の髪色について
男性も基本は黒髪。茶髪のサラリーマンも増えましたが、葬儀のときは黒染めスプレーで対応する方が無難です。特に喪主や親族として立つ場合は、しっかり黒く整えてください。一般参列者なら7トーン程度までは黙認されることが多いですが、明るい茶髪は浮きます。
白髪染めについては逆に、無理に染め直す必要はありません。年配の方の自然な白髪は、むしろ落ち着いた印象を与えます。気になる方だけ、当日の朝に白髪隠しのスプレーで根元を整える程度で十分です。
場面別の髪型|お通夜・告別式・四十九日で違いはあるか
「お通夜は仕事帰りに駆けつけるから、髪型もそこまで整えなくていい」と聞いたことがあるかもしれません。確かに昔はそうでした。でも今は、お通夜こそ参列者が多く、よりきちんとした装いが求められる場面になっています。
とはいえ、突然の訃報で駆けつける場合の「お通夜の取り急ぎ感」は今でも認められています。完璧なまとめ髪じゃなくても、最低限ブラシで整えて、明らかな寝癖や乱れがなければ問題ありません。
| 場面 | 髪型の整え方 | 許容される範囲 |
|---|---|---|
| お通夜(一般参列) | 低めにまとめる、前髪は流す | 急な参列ならピンで留めるだけでも可 |
| 告別式 | シニヨンでしっかりまとめる | 取り急ぎ感は不可、きちんと整える |
| 喪主・親族として参列 | 美容院でセットしてもらうのが理想 | 黒のヘアアクセで完璧に |
| 四十九日・一周忌 | 告別式と同じ基準 | 三回忌以降はやや緩めても可 |
| 家族葬 | シニヨンが基本 | 身内のみなら多少カジュアル可 |
四十九日以降の法要については、回を重ねるごとに少しずつ装いが平服寄りになっていきます。七回忌の服装マナーをまとめた記事では、髪型も含めた「平服」の具体的な範囲を解説しているので、法要の予定がある方は確認しておくと安心です。
ショートヘア・ボブの方が注意すべきこと
「ショートだからまとめなくていいですよね?」と聞かれますが、ショートでもボブでも、注意すべきポイントがあります。
顎ラインのボブは、焼香で頭を下げたときに髪が顔の両側にバサッと垂れます。これが意外と気になる。耳にかけられる長さなら、ピンで両サイドを留めておくのがおすすめです。アメピンと呼ばれる細い黒ピンを左右1〜2本ずつ、サイドの髪を耳の後ろで留めるだけで、所作が見違えます。
ショートカットの方は、寝癖と分け目の乱れだけ整えれば基本OKです。ただ、ボリュームを出すスタイリング、毛先を遊ばせる束感、立ち上げ系のセットは避けてください。普段おしゃれを楽しんでいる方ほど、葬儀の日は「いつもより地味に」を意識してもらえると、場に馴染みます。
中途半端な長さ(肩ぐらい)の処理
一番悩むのが肩につく程度の長さ。結べないことはないけど、シニヨンには毛量が足りない、というレングス。こういう方には「ハーフアップではなく、低い位置で一つ結びにして、毛先を内側に巻き込む」やり方をおすすめしています。
具体的には、首の付け根あたりで一つ結びにしたあと、毛束を結び目の上から内側に押し込んで、上からピンで留める。「夜会巻き風」の簡易版です。これなら毛量が少なくても上品にまとまります。
子どもの髪型マナー|学校行事と同じ感覚でOK
うちにも小学生の子どもがいるので、よく分かります。子どもの髪型まで完璧にしようとすると、朝の準備が間に合いません。
子どもの場合は「学校の制服を着るときと同じ髪型」で大丈夫です。女の子なら、長い髪は黒や紺のゴムで一つ結びか、低めの二つ結び。男の子は前髪を整えて、寝癖だけ直せば十分。整髪料も基本的に不要です。
避けたいのは、カラフルなヘアゴム、キャラクター付きのヘアピン、リボン、髪飾り。普段使っているおしゃれアイテムは、その日だけお休みです。100均で黒のシンプルなヘアゴムを買い置きしておくと、いざというときに便利ですよ。
祖父母の葬儀に孫として参列する場合の全体的なマナーは、祖母の葬式に参列するときのガイドで香典相場や忌引休暇まで含めて解説しているので、子ども連れで悩んだら参考にしてみてください。
パーマ・くせ毛・薄毛の方への現実的なアドバイス
「パーマがかかっているんですが、ストレートに戻すべきですか?」「天パで膨らみやすいんです」「薄毛なので隠したい」。こういう相談も多いです。
パーマヘアはまとめれば問題なし
パーマがかかっていても、シニヨンにまとめてしまえば気になりません。ゆるふわパーマで「降ろしておきたい」というのはNGですが、結んでしまえばカール感は隠れます。スタイリング剤はマットなクリームタイプを少量、毛束のうねりを抑える程度に使ってください。
くせ毛で膨らむ場合
梅雨時期や雨の日は、特に膨らみが気になります。出かける前にヘアアイロンで軽く伸ばすか、ストレートタイプのスタイリング剤を使うと落ち着きます。完璧にストレートにする必要はなく、「広がりすぎないレベル」まで抑えられれば十分です。
薄毛が気になる男性へ
薄毛を気にされる男性は多いですが、葬儀の場では薄毛を隠すこと自体が目的ではなく、清潔感が大事です。バーコード状にサイドから持ってくる、いわゆる「バーコードヘア」は逆に目立ちます。短く整えて、自然な状態で参列されるほうが、はるかに好印象です。
増毛スプレーや黒色パウダーは使っても問題ありませんが、汗をかいたときに首や襟元に色が落ちないよう、当日の天候と気温に合わせて判断してください。夏場の葬儀は、控えたほうが無難です。
よくある質問
Q1. 黒染めスプレーで染めた髪は、お焼香のときに手についたりしませんか?
正しく使えば手につくことはほぼありません。スプレー後に10分ほど乾かして、表面を軽くタオルで押さえて余分な液を取ってください。心配な方は、外出前に手でそっと触れて、手が黒くならないか確認してから出かけると安心です。汗をかきやすい夏場は、首筋にハンカチを当てておくとさらに安全です。
Q2. 美容院でセットしてもらうのはやりすぎですか?
喪主や親族として参列するなら、むしろ推奨されます。ただし「弔事用に控えめにお願いします」と必ず伝えてください。何も言わないと、結婚式用のような華やかなセットになることがあります。美容師さんに「葬儀用、低めシニヨンで、装飾なし」と具体的に伝えれば、適切に仕上げてもらえます。料金は3000〜5000円程度が相場です。
Q3. アクセサリーは何もつけてはいけませんか?
髪につけるヘアアクセは「黒のシンプルなゴム」「黒のバレッタ」「黒のネット付きシニヨンピン」までです。一粒パールのバレッタなど、結婚式で使えそうなものは葬儀ではNG。耳のピアスやネックレスとは別の判断基準なので、注意してください。とにかく「光るもの」「装飾のあるもの」は髪元には避ける、と覚えておけば失敗しません。
Q4. ハイトーンカラーで黒染めスプレーじゃ間に合わないとき、ウィッグでもいいですか?
ウィッグも選択肢の一つです。ドンキホーテやネット通販で黒のショートウィッグが3000円前後で手に入ります。ただし、自然に見える質のものを選ぶこと、そして必ず事前にかぶってみて違和感がないか確認してください。一度も試さずに当日ぶっつけ本番でかぶると、ズレたり浮いたりして余計に目立ちます。時間に余裕があるなら、美容院で1回だけの黒染めをお願いするほうが確実です。
Q5. 仕事帰りに直接お通夜に行く場合、髪型はどこまで整えればいいですか?
お通夜の「取り急ぎ駆けつけた」感は、髪型にもある程度許容されます。トイレで黒のゴムで低い位置に一つ結びにする、サイドの乱れをピンで留める、これだけでも十分です。完璧なシニヨンを作る時間がなくても、「整えようとした努力」が見える状態であれば失礼にはなりません。バッグに黒のヘアゴム1本と黒のアメピン3本を常備しておくと、いざというときに本当に助かります。
Q6. 男性で長髪なんですが、まとめたほうがいいですか?
肩より長い男性は、女性と同じく低い位置で一つに結んでください。黒のゴムで首の付け根あたりにまとめます。結ばずに垂らしておくと、焼香のときに前に流れて見苦しいです。男性のまとめ髪に違和感を持つ方は今ではほとんどいませんので、堂々と結んで参列してください。
Q7. 喪服に合わせて帽子をかぶってもいいですか?
屋外での葬列や、医療的な理由がある場合を除き、原則として葬儀会場内では帽子は脱ぎます。日傘や帽子は屋外移動中のみ使用し、会場に入る前に外してください。医療上の理由で常時帽子が必要な方は、黒や濃紺の無地のものを選び、事前に葬儀社や喪主の方に一言伝えておくと安心です。
最後に、現場から伝えたいこと
髪型のマナーって、調べれば調べるほど「あれもダメ、これもダメ」となって、当日の朝に混乱してしまう方が多いんです。でも本質はシンプルで、「故人とご遺族への敬意を、自分の見た目で表す」、これだけ。
完璧にできなくても大丈夫。明るい髪色の方が黒染めスプレーで頑張ってきてくれた、ロングの方が慣れない手つきでシニヨンを作ってきてくれた。その努力は、ちゃんとご遺族にも伝わります。逆に「面倒だから普段のまま行こう」と思って、巻き髪のまま参列されると、それは見ている側にも分かってしまう。
故人を見送る最後の場で、自分の見た目で気を遣わせない。それが大人のマナーだと思ってます。この記事が、いざというときに鏡の前で迷わないための助けになれば嬉しいです。




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