先月、47歳のお客様の葬儀を担当しました。突然の心筋梗塞で、お子さんはまだ高校生。残されたご家族が一番困っていたのは葬儀費用ではなく、ご主人のスマホのパスワードでした。ネット銀行の口座、契約していたサブスク、保険の証券PDF。全部スマホの中。結局、解約手続きだけで半年以上かかりました。
この話をすると「終活って70代からじゃないの?」と言われます。私もそう思ってた時期がありました。でも年間100件以上の現場に立っていると、40代50代の急逝が想像以上に多い。そして残された家族が困るポイントが、昔とは完全に変わってきてます。
そこで最近広まりつつあるのが「プレ終活」という考え方です。本格的な終活の前段階として、40代のうちから少しずつ身辺を整えておく。重く構えず、引っ越しの荷造りくらいの感覚で始められるのが特徴です。この記事では、現役の葬祭ディレクターとして、また小学生の子を持つ40代の母として、私自身が実際にやっていることを含めて整理の進め方をまとめます。
なぜ40代から「プレ終活」が必要なのか
厚生労働省の人口動態統計を見ると、40代の死亡者数は年間約4万人。そのうち心疾患・脳血管疾患・がんを合わせた急性疾患による死亡が約6割を占めます。つまり、ある日突然倒れて、家族に何も伝えられないまま逝ってしまうケースが少なくないということです。
現場で「これは大変だな」と感じるのは、亡くなった方が現役世代のとき。住宅ローンが残っている、子どもの教育費がこれから、共働きで配偶者も仕事の全容を把握していない。こうした条件が重なると、遺族は悲しみに浸る間もなく事務手続きに追われます。
70代の方の場合、本人も家族もある程度「いずれその日が来る」という心の準備があります。書類の場所も配偶者が把握してることが多い。でも40代だと、本人にもまだ実感がない。だからこそ、元気なうちに最低限の情報をまとめておく価値があります。
「終活」と「プレ終活」は別物
本格的な終活は、お墓選び・葬儀社の決定・遺言書作成など、人生の締めくくりを具体的に設計する作業です。一方プレ終活は、もっと手前の段階。「もし今、自分に何かあったら家族が困らないか」を点検する作業に近いです。
具体的には、不要なモノを減らす、デジタル情報を整理する、資産の全体像を可視化する、この3つが軸になります。お墓の話まで踏み込まなくていい。子育てや仕事で忙しい40代でも、週末に少しずつできる範囲のことから始めます。
もう少し本格的な話に踏み込みたい方は、30代・40代からの遺言書の書き方も参考にしてみてください。プレ終活の延長線上で、法的効力のある書面を残す選択肢も視野に入ります。
40代で始めるメリット
体力と判断力があるうちにやれるのが最大の利点です。70代になってから「30年分のモノを整理する」のは本当にしんどい。実家の片付けを経験した方なら分かると思います。物量に圧倒されて、結局手をつけられないまま時間が過ぎていく。
もう一つ大きいのは、子どもの存在です。40代は子育て真っ最中の方も多い。親に万が一のことがあったとき、未成年の子どもに残せるものを整理しておくのは、親としての最後の責任だと私は思ってます。
プレ終活の3つの柱を比較する
プレ終活でやることは大きく3つに分けられます。それぞれ性質が違うので、自分が今どこから手をつけるべきか、まず全体像を把握してから取りかかるのが効率的です。
| 分野 | 目的 | 所要時間の目安 | 緊急度 |
|---|---|---|---|
| 断捨離(モノの整理) | 遺族の物理的負担を減らす | 半年〜1年(継続) | 中 |
| デジタル遺品の整理 | パスワード・アカウントの可視化 | 1〜2週間 | 高 |
| 資産整理 | 口座・保険・負債の一覧化 | 1ヶ月程度 | 高 |
個人的におすすめなのは、緊急度の高いデジタル遺品と資産整理から手をつけることです。断捨離は時間がかかるし、判断疲れも起きやすい。先にデジタルと資産を1ヶ月で片付けてしまうと、達成感が出て次に進みやすくなります。
逆に「とにかく身軽になりたい」というモチベーションが強い人は、断捨離から始めるのもアリ。モノが減ると不思議と頭の中も整理されていきます。順番に正解はないので、自分が続けられそうな方から始めるのが一番です。
断捨離の進め方|捨てる基準と判断のコツ
40代の断捨離で一番のハードルは、思い出の品の扱いです。子どもの保育園の制作物、結婚式の引き出物、独身時代の趣味のコレクション。捨てるべきか残すべきか、判断に迷うものが山のようにあります。
私が現場で多くのご遺族を見てきて感じるのは、残された家族が一番困るのは「判断できないモノ」だということ。本人にとっては大切でも、家族から見ると「捨てていいのか、残すべきなのか分からない」状態のモノが大量にあると、整理が止まります。
だから40代のうちにやっておきたいのは、完璧に捨てることではなく、残すモノに優先順位をつけておくことです。「これは絶対残してほしい」「これは処分してOK」が分かるようにラベリングしておくだけで、遺族の負担は劇的に減ります。
まず取りかかる5つのカテゴリ
- 衣類(クローゼットの3分の1を目標に処分)
- 書類(公共料金・保険・契約書を分類)
- 本・雑誌(読まない本は売却または寄付)
- キッチン用品(使ってない調理器具・食器)
- 趣味の道具(過去5年間使ってないもの)
この5カテゴリを順番に攻めていくと、最初の3ヶ月でかなり家の中がスッキリします。一気にやろうとせず、週末に1カテゴリずつ。「全部完璧にやる」より「8割減らす」くらいの気持ちでちょうどいいです。
「3年使ってないものは手放す」のルール
判断に迷ったときの基準として、3年ルールが有効です。「いつか使うかも」と思って取っておいたモノの大半は、3年経っても使ってません。これは私自身、自宅でやって実感したことです。
ただし冠婚葬祭の礼服や、season性のあるアウター類は別枠です。年に1〜2回しか使わなくても必要なものはあります。「3年ルール+用途で例外を作る」が現実的なやり方だと思います。生前整理の段階的な進め方については生前整理はいつから始めるかのガイドにも詳しくまとめられているので、本格的にやるなら一読の価値があります。
写真と思い出の品の扱い
40代が一番悩むのが、自分や子どものアルバム類です。私の家にも、自分の子ども時代のアルバムが10冊以上ありました。これ全部、私が亡くなった後に夫や子どもが処分するのは申し訳ない。
解決策としてやったのは、紙のアルバムから本当にお気に入りの100枚だけ選んで1冊にまとめ、残りはスキャンしてHDDに保存。物理的なアルバムは1冊だけ残しました。これだけで本棚が一段空きます。
デジタル遺品の整理|放置すると遺族が詰む
冒頭で触れた47歳のお客様のケースに戻ります。ご遺族が困ったのは、スマホのロックを解除できなかったことでした。指紋認証で生前は使えていたけど、亡くなった本人の指では当然認証できない。Appleにも問い合わせましたが、本人確認ができないため開示できないと回答が来ました。
結果、メインバンクとしていたネット銀行の口座は、相続手続きが完了するまで何ヶ月も凍結状態。住宅ローンの引き落とし口座だったため、ご遺族が一時的に立て替えることに。さらに月額3万円分くらいのサブスクが解約できず、引き落とされ続けていました。
40代以下の世代は、生活の大半がスマホとクラウドに集約されてます。だからこそデジタル遺品の整理は、紙の書類整理よりも優先度が高いと現場では感じてます。
最低限まとめておくべきデジタル情報
| 情報の種類 | 具体例 | 家族への伝え方 |
|---|---|---|
| 端末のロック解除 | スマホ・PC・タブレットのパスコード | 紙のノートに記載・封印 |
| 金融系 | ネット銀行・証券口座・暗号資産 | ID・口座番号の一覧表 |
| サブスク | 動画配信・音楽・クラウドストレージ | 解約用のID・引き落とし口座 |
| SNS | X・Instagram・Facebook | 追悼アカウント化の希望を明記 |
| クラウド | Google Drive・iCloud・Dropbox | 写真データの扱いの希望 |
パスワードの安全な残し方
パスワードを紙にそのまま書いて家に置いておくのは、防犯上リスクがあります。私がおすすめしているのは、パスワード管理アプリ(1PasswordやBitwardenなど)を導入して、そのマスターパスワード1つだけを家族に共有する方法です。
マスターパスワードは、エンディングノートとは別の場所に保管した封筒に入れる。封筒の存在と場所だけ配偶者に伝えておく。これで生前は誰にも見られず、万が一のときだけ家族がアクセスできる状態が作れます。
SNSアカウントの「見せ方」も決めておく
意外と見落とされがちなのがSNSです。亡くなった後もアカウントが残り続け、誕生日に「お祝いメッセージを送ろう」と通知が飛んで、家族が辛い思いをするケースを何度も見ました。
Facebookには「追悼アカウント」機能、Instagramにも同様の仕組みがあります。Googleは「アカウント無効化管理ツール」で、一定期間ログインがないと指定した人にデータを共有または削除する設定が可能です。これらの希望をエンディングノートに書いておくだけでも、遺族の判断が楽になります。
資産整理|全体像を1枚にまとめる
資産整理と聞くと「相続税対策」みたいな大きな話に聞こえるかもしれませんが、40代のプレ終活でやることはもっとシンプルです。自分の財産が今どこに、いくらあるのかを家族が把握できる状態にしておくこと。これだけです。
現場でよく聞くのが「夫が亡くなった後、どこに口座があるか分からなくて、通帳を家中探し回った」という話。最近は通帳レス口座も増えてるので、紙の通帳すら存在しないケースも珍しくありません。
資産一覧表に書くべき項目
- 銀行口座(メガバンク・ネット銀行すべて)
- 証券口座・投資信託・iDeCo・NISA
- 生命保険・医療保険・学資保険
- 不動産(自宅・実家・投資物件)
- 住宅ローン・カードローン・奨学金などの負債
- クレジットカード(年会費の発生するもの)
- 会社の財形貯蓄・持株会・退職金規定
金額まで細かく書く必要はありません。金額は変動するので、書類の保管場所と問い合わせ先が分かれば十分です。「○○銀行△△支店、通帳は寝室の机の引き出し」くらいの粒度でOK。
忘れがちな「負債」の情報
意外と書き漏らされるのが負債です。住宅ローンには団体信用生命保険が付帯していることが多く、契約者が亡くなれば残債が一括返済されますが、家族がそれを知らずに払い続けてしまうケースもあります。
カードローンや奨学金など、団信が付かない負債は相続の対象になります。財産だけでなく負債も含めて把握しておかないと、相続放棄するか単純承認するかの判断ができません。隠したい気持ちが働きやすい項目ですが、ここは家族のために正直に書きます。
エンディングノートを活用する
資産情報をまとめるのに便利なのがエンディングノートです。市販のものは項目が整理されてるので、空欄を埋めていくだけで一覧ができあがります。書き方の詳細はエンディングノートの書き方のガイドにまとまっているので、何を書けばいいか分からない方は参考にしてみてください。
大事なのは、エンディングノートに法的効力はないということ。財産分与の希望や相続の指定をしたい場合は、別途遺言書を作る必要があります。エンディングノートはあくまで「家族へのメモ」と割り切って、気軽に書き始めるのが続けるコツです。
家族に伝える方法とタイミング
プレ終活で意外と難しいのが、家族への伝え方です。突然「終活始めたから」と言われると、配偶者は「何かあるの?」と動揺します。実際、私の友人は40代でプレ終活を始めたら、旦那さんに「病気でも見つかったの?」と本気で心配されたと言ってました。
角を立てずに伝えるコツは、「最近こういう記事を読んで」「会社の同僚が始めたらしくて」と外部のきっかけを引き合いに出すこと。重い話にせず、引っ越し前の片付けくらいの温度感で切り出すと、家族も構えずに済みます。
「保管場所だけ」を伝えるシンプルな方法
細かい中身を全部共有する必要はありません。「もし私に何かあったら、机の一番下の引き出しにファイルがあるから、それを見て」と一言伝えるだけで十分です。生前にパスワードや財産の中身まで明かす必要はない。
むしろプライバシーを守りつつ、いざというときに家族がアクセスできる状態を作るのが理想です。封筒に「私に何かあった時に開けてください」と書いて、配偶者にだけ場所を伝える。これくらいシンプルなほうが続きます。
年に一度の更新タイミングを決める
プレ終活で集めた情報は、放置すると陳腐化します。口座を新しく開設したり、保険を切り替えたり、引っ越したり。1年経つと情報の半分くらいは古くなっていることも珍しくありません。
私のおすすめは、自分の誕生月に1日だけ「プレ終活の日」を作ること。1年に1回、半日くらいかけて情報を見直す。これを習慣化すると、常に最新の状態が保てます。健康診断と同じ感覚で、年に1回の点検と考えると気が楽です。
プレ終活でやってはいけない3つのこと
現場で「これは逆に家族を困らせてる」と感じるパターンがいくつかあります。良かれと思ってやったことが裏目に出るので、最初に知っておきたいNG行動を整理します。
1. 家族の同意なく勝手にモノを処分する
断捨離に火がつくと、配偶者や子どものモノまで「いらないでしょ」と勝手に捨ててしまう人がいます。これは確実にトラブルの種です。自分のモノだけ整理する、家族のモノは本人に判断を委ねる、この線引きは絶対に守ったほうがいい。
2. パスワードを平文でクラウドに保存する
「忘れないようにGoogle Keepにメモしておこう」というのは絶対にやめてください。クラウドが乗っ取られたら一気に全資産が流出します。パスワード管理は専用アプリを使う、紙に書いて物理的に保管する、このどちらかにします。
3. 自分だけで抱え込んで完璧を目指す
プレ終活を「自分の責任」として一人で背負い込むと、続きません。「ここまでできた」を配偶者に共有しながら、一緒に進めるくらいがちょうどいい。完璧にやろうとせず、6割できれば及第点。これくらいの気持ちでいると、長く続きます。
プレ終活を始めるための1ヶ月プラン
「どこから手をつければいいか分からない」という方のために、私が実際にすすめている1ヶ月プランを紹介します。土日が休みの方向けに、週末を使って進める想定です。
| 週 | 取り組む内容 | 所要時間 |
|---|---|---|
| 1週目 | エンディングノートを購入・基本情報を記入 | 2〜3時間 |
| 2週目 | 金融資産・保険の一覧化 | 3〜4時間 |
| 3週目 | デジタル情報の棚卸し・パスワード整理 | 4〜5時間 |
| 4週目 | 家族への共有・保管場所の決定 | 1〜2時間 |
断捨離はあえて1ヶ月プランに入れていません。モノの整理は長期戦になるので、デジタルと資産の整理を先に終わらせて、達成感を得てから始めるのがおすすめです。最初の1ヶ月で土台ができれば、断捨離は週末の30分から始めても問題ありません。
急に体調を崩したり、突然の事故に巻き込まれたり。現場にいると、人生はいつ何が起きるか本当に分からないと痛感します。でもだからといって、毎日不安に怯えて生きる必要はない。1ヶ月かけて土台を作っておけば、あとは安心して今の人生を楽しめる。プレ終活って、実は「未来の安心のために、今を軽くする」作業なんだと思ってます。
よくある質問
Q1. プレ終活と本格的な終活の違いは何ですか?
プレ終活は「もし今、自分に何かあったら家族が困らないか」を点検する作業で、断捨離・デジタル遺品整理・資産の可視化が中心です。一方、本格的な終活はお墓選び・葬儀社の決定・遺言書作成など、人生の締めくくりを具体的に設計する段階です。40代から始めるのはプレ終活で十分で、本格的な終活は60代以降に検討する方が多い印象です。
Q2. 独身の40代でもプレ終活は必要ですか?
独身の方こそ必要だと現場では感じます。配偶者がいない場合、万が一のときに連絡が行くのは親や兄弟姉妹です。普段の生活を把握していない親族が、突然あなたの口座や住居の片付けをすることになります。むしろ既婚者より情報の共有先が少ない分、書面で残しておく重要性が高いです。
Q3. 子どもが小さいうちにエンディングノートを書いても意味がありますか?
大いに意味があります。子どもが未成年のうちに親に何かあった場合、後見人選びや教育費の確保など、配偶者が一人で判断することになります。学資保険の情報、教育方針の希望、信頼できる親族の連絡先などをまとめておくと、残された家族が判断しやすくなります。子どもへのメッセージを書いておくのもおすすめです。
Q4. デジタル遺品の整理で、業者に依頼することはできますか?
近年、デジタル遺品整理を専門に行う業者が増えています。費用は対象端末1台あたり3万〜10万円程度が相場です。ただし生前の整理であれば、専用アプリと自分の作業で十分対応できます。業者に頼むのは「家族が亡くなった後にロック解除できず困った場合」のケースが多いので、生前のうちに自分でやっておくのがコスト面でも安心です。
Q5. プレ終活を始めると気持ちが暗くなりませんか?
始める前は「死を意識するなんて怖い」と感じる方が多いですが、実際にやってみると逆の感想を持つ方がほとんどです。「いつ何があっても大丈夫」という安心感が生まれて、むしろ今の生活を前向きに楽しめるようになったという声をよく聞きます。私自身もエンディングノートを書き終えた後、不思議と肩の力が抜けた感覚がありました。
Q6. プレ終活の費用はどれくらいかかりますか?
基本的にほぼ無料で始められます。エンディングノートが1,000〜2,000円程度、パスワード管理アプリが月額数百円程度。不要品の処分で粗大ごみ代がかかる場合がありますが、メルカリやリサイクルショップで売却すればプラスになることも。本格的な終活と違って、お墓や葬儀社の契約金は発生しないので、お金の心配は不要です。




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