先月、家族葬の打ち合わせで「父の遺言書、どこにあるか分からなくて」と泣きそうな顔で相談された喪主さんがいました。50代の長女。父親の相続について、母とも兄弟ともまだ何も話せていない。葬儀の最中に銀行口座の凍結、不動産の名義、保険金の請求、次々と現実が押し寄せて、ご本人は完全にキャパオーバーでした。
こういう場面、年間100件以上の葬儀を担当していると本当に多いです。葬儀社の私たちは相続の専門家ではないので、税理士や司法書士につなぐしかない。でも遺族はまず「誰に相談すればいいか」が分からない。そのギャップを埋める入口の役割を担うのが、今回テーマにする相続診断士という資格です。
「合格率90%超で簡単すぎる」「役に立たない」という声もネットには転がってます。一方で、保険営業や葬祭スタッフが取ると実務に直結するという評価もある。実際のところどうなのか。私自身、業界仲間で取得した人を10人以上見てきた立場から、難易度・試験対策・本当に役立つ場面を正直に書いていきます。
相続診断士とはどんな資格か
相続診断士は、一般社団法人相続診断協会が認定する民間資格です。2011年に創設され、2024年時点で累計取得者は約4万5000人を超えています。「相続の入口の専門家」という位置づけで、税理士や弁護士のように相続税申告や遺産分割協議の代理をするものではありません。
役割は、相続でトラブルになりそうな家庭を早い段階で見つけ出し、適切な専門家へ橋渡しすることです。協会の理念は「笑顔相続の実現」。生前のうちに家族で相続について話し合うきっかけを作り、争続(あらそうぞく)を防ぐことを目的としています。
上位資格との関係
相続診断士の上に「上級相続診断士」があります。さらに専門特化型として、不動産相続を扱う「相続診断士+不動産」など派生資格もあります。一般的にはまず相続診断士で土台を作り、実務で必要を感じたら上級へ進む流れです。
注意したいのは、相続診断士は独占業務がない資格だという点です。税理士の独占業務である税務相談、弁護士の独占業務である法律相談、司法書士の独占業務である登記申請、これらは相続診断士の名前で行えません。あくまで一般的な情報提供と、適切な士業へのつなぎ役です。
難易度と合格率のリアル
結論から言うと、相続診断士は資格試験のなかではかなり易しい部類に入ります。合格率は公表されている範囲で90%前後、年度によっては95%を超えることもあります。受験資格に制限はなく、誰でも申し込めます。
「90%受かるなら意味あるの?」という疑問は当然出てきます。私の同僚も最初そう言ってました。でも実際の試験範囲を見ると、民法・相続税法・贈与税・遺言・生命保険・不動産・年金まで、相続にまつわる基礎知識が一通り詰まっています。合格率の高さは「内容が薄い」のではなく、「受験者の多くがしっかり対策して臨むから」というのが実態に近いです。
| 項目 | 相続診断士 | 上級相続診断士 | FP2級(参考) |
|---|---|---|---|
| 合格率 | 約90% | 約60% | 約40% |
| 試験時間 | 60分 | 180分 | 計5時間 |
| 受験料 | 38,500円(税込) | 88,000円(税込) | 11,700円 |
| 受験資格 | なし | 相続診断士合格者 | FP3級合格等 |
| 勉強時間目安 | 30〜50時間 | 80〜120時間 | 150〜300時間 |
| 形式 | CBT方式60問 | 記述式 | 学科+実技 |
FP2級と比べると勉強時間は3分の1以下です。受験料は38,500円とやや高めですが、これには公式テキスト・動画講座・受験料がパックで含まれています。独学用の市販テキストはほぼ流通していないので、協会の教材を使うのが基本ルートになります。
実際に落ちる人の特徴
9割受かる試験で落ちる1割は、たいてい次のどれかに当てはまります。動画講座をほぼ見ずに試験に臨んだ人、相続税の計算問題を捨てた人、民法の法定相続分の計算を覚えきれなかった人。逆に言えば、教材を一通り消化していれば落ちる試験ではありません。
試験対策の具体的な進め方
申し込みから受験まで、推奨される学習期間は1〜2ヶ月です。私の周りの葬祭スタッフは、シフトの合間に1ヶ月半くらいで仕上げる人が多かったです。具体的なステップを書きます。
- 協会に申し込み、公式テキストと動画講座のIDを受け取る
- 動画講座(全17時間程度)を1.5倍速で2周視聴する
- テキストを片手にチェックテストを章ごとに解く
- 巻末の模擬問題を最低3回繰り返す
- CBT会場の予約は受験準備が整ってから取る
動画講座が想像以上に丁寧で、税理士・弁護士・FPなど現役の専門家が章ごとに解説してくれます。倍速で見ても十分頭に入ります。テキストだけで独学しようとすると相続税の計算でつまずきやすいので、動画→テキスト→問題演習の順番が効率的です。
特に出題される頻出論点
過去問は非公開ですが、出題傾向はある程度パターン化されています。法定相続人の範囲と相続分、遺留分の計算、基礎控除額(3000万円+600万円×法定相続人の数)、生命保険金の非課税枠(500万円×法定相続人の数)、小規模宅地等の特例。この5つは確実に押さえておきたい論点です。
遺言の方式についても出ます。自筆証書遺言・公正証書遺言・秘密証書遺言の違い、それぞれの要件と検認の要否。遺言書の書き方を整理した解説と内容が重なるので、実務に直結する勉強になります。
保険営業にとってのメリット
相続診断士の取得者を職業別に見ると、もっとも多いのが生命保険の営業職です。協会の公表データでは取得者の約4割が保険業界に属しています。なぜ保険営業がこの資格を取るのか。理由は明快で、相続対策と生命保険が直結しているからです。
生命保険金は受取人固有の財産として扱われ、相続放棄しても受け取れます。さらに「500万円×法定相続人の数」の非課税枠があるため、現金で残すより税金面で有利になるケースが多い。この説明を、根拠となる相続税法の条文を踏まえて語れるかどうかで、お客様の信頼度がまったく変わります。
具体的な営業シーンでの活かし方
保険営業の友人が話していたのは、契約面談の冒頭で相続診断チェックシート(協会公式のヒアリングツール)を使うようになって成約率が上がったという話でした。シートに沿って家族構成・資産状況・遺言の有無を聞いていくと、お客様の頭の中で相続の課題が整理されていく。その流れで「ここは生命保険で備えられますね」という提案が自然に入る。
もちろん税務相談には踏み込めないので、税理士パートナーを必ず確保しておく必要があります。協会では全国の士業ネットワークを紹介する仕組みもあり、これも保険営業にとっては大きな武器になります。
士業・金融機関にとってのメリット
税理士・司法書士・行政書士などの士業がこの資格を取るケースも増えています。彼らはすでに相続実務の専門家ですが、相続診断士を持つ理由は2つあります。1つ目は、自分の専門外の領域(例えば税理士なら登記、司法書士なら税務)の基礎を体系的に押さえられること。2つ目は、相続診断協会のネットワークを通じて他士業との連携先が増えることです。
金融機関、特に地方銀行と信用金庫の渉外担当者にも取得が広がっています。顧客の高齢化に伴って遺言信託や相続関連商品の案内機会が増え、基礎知識がないと門前払いされるケースが目立つようになったからです。私のお客様の中にも、地銀の担当者から相続診断シートを渡されて初めて家族の相続について考え始めた、という方が何人もいました。
| 職業 | 主な活用シーン | 取得後の効果 |
|---|---|---|
| 生命保険営業 | 相続対策としての保険提案 | 成約単価アップ、富裕層開拓 |
| 税理士・行政書士 | 専門外領域の補完 | ワンストップ対応、紹介増 |
| 地銀・信金渉外 | 遺言信託・資産承継商品の案内 | 顧客の信頼獲得、預かり資産増 |
| 不動産仲介 | 相続不動産の売却提案 | 相続発生案件の早期把握 |
| 葬儀社・葬祭ディレクター | 遺族の生前相談・事前打ち合わせ | 事前契約の獲得、信頼関係構築 |
| 介護・終活関連事業者 | エンディングノート支援 | サービス付加価値の向上 |
葬祭業界・葬祭ディレクターにとってのメリット
うちの会社でも、ここ5年ほどで相続診断士を取得するスタッフが増えました。きっかけは、家族葬や直葬が主流になるなかで「葬儀後の手続き相談」がご遺族の最大のニーズになっていることに気づいたからです。葬儀そのものは1日か2日で終わりますが、相続手続きはそこから10ヶ月以上続きます。
葬儀社が相続のプロでなくていい。でも、遺族が次に何をすべきか道筋を示せる存在であることは、これからの葬儀業界では大きな差別化要因になります。死亡後の手続きリストに沿ってご案内できるスタッフがいる葬儀社と、葬儀だけで終わる葬儀社では、リピートや紹介の発生率が全然違います。
事前相談・生前契約での効果
もう一つの活用シーンは、生前相談です。終活セミナーで相続の基礎を話せるスタッフがいると、参加者の事前契約率が明らかに上がります。私の所属する地域でも、月1回の終活カフェで相続診断シートを使ったワークショップを開いてから、年間の事前契約数が1.5倍になりました。
関連資格である終活アドバイザーと相続診断士はセットで取る人も多いです。終活アドバイザーが「生前の暮らし方」を、相続診断士が「資産と家族関係の整理」を担当する形でカバー範囲が補完し合います。
「役に立たない」と言われる理由と実情
ネット上には「相続診断士は意味ない」「肩書きだけ」という意見も多いです。これは半分正しくて半分間違っています。正しい点は、独占業務がないため、資格だけで仕事が舞い込むわけではないこと。間違っている点は、本業に組み合わせたときの実利を見落としている評価が多いことです。
「役に立たない」と感じる人の多くは、相続診断士を取れば独立して食えるようになると勘違いしてます。これは違う。この資格は、すでに保険・士業・金融・葬祭・不動産など何らかの本業を持っている人が、その本業に相続の引き出しを足すための補助資格です。0から1を作る資格ではなく、10を15に育てる資格と考えるのが現実的です。
取らない方がいい人の特徴
正直に書きます。受験料38,500円を払ってまで取らなくていい人もいます。本業と全く関係ない知的好奇心だけで取る人、独立開業のメイン武器にしようとする人、すでに税理士・FP1級など上位資格を持っている人。こういう方には、お金と時間に対する見返りが小さいです。
逆に明確に「取った方がいい」と言えるのは、保険・金融・士業補助・不動産・葬祭・介護に従事していて、お客様から相続の相談を受ける機会が月1回以上ある人です。この層には、間違いなく投資回収できる資格だと感じています。
取得後の更新と継続研修
相続診断士には2年ごとの更新制度があります。更新料は11,000円で、所定の継続研修(eラーニング)を受講することが条件です。研修内容は税制改正・民法改正・実務事例の更新など、現場で使える最新情報が中心です。
相続税法は毎年のように改正があり、2024年からは生前贈与加算の期間が3年から7年へ段階的に延長されるなど、大きな変更も入っています。資格を取りっぱなしにせず、研修で知識を更新していく姿勢が前提の資格です。
更新を続けると、協会主催の全国大会や地域勉強会への参加権が得られ、士業ネットワークも自然と広がっていきます。資格取得そのものより、取得後のコミュニティ参加に価値があるという声も多いです。
よくある質問
Q1. 相続診断士は独学で取れますか
受験料に公式テキストと動画講座が含まれているため、いわゆる「市販テキストだけで独学」というスタイルは取れません。協会から教材を受け取ってからの自己学習という意味では、十分独学可能です。動画講座が丁寧なので、予備校に通う必要はありません。学習時間は30〜50時間が目安です。
Q2. FPや行政書士と比べてどちらを先に取るべきですか
目的によります。お金回り全般を体系的に学びたいならFP、法律実務に踏み込みたいなら行政書士、相続だけに絞って短期間で知識を入れたいなら相続診断士が向いてます。保険営業の方は相続診断士→FP2級の順、葬祭スタッフは相続診断士→終活アドバイザーの順で取る人が多いです。
Q3. 試験はどこで受けられますか
全国のCBTテストセンター(プロメトリック社の試験会場)で受験できます。北海道から沖縄まで主要都市にあり、自分の都合に合わせて日時を予約できます。試験時間は60分、四肢択一の60問が基本構成です。受験準備が整ってから予約を入れる流れになります。
Q4. 主婦やシニア世代でも取れますか
受験資格に年齢や職業の制限はないので、誰でも挑戦できます。実際、60代以上の取得者も多く、自分の親や自分自身の相続準備のために学ぶ方も増えています。終活カフェや地域のセミナーで講師役を担う60代女性も、私の周りに何人もいます。
Q5. 相続診断士を名乗って報酬を受け取れますか
一般的な相続に関する情報提供や、相続診断シートを使ったヒアリング・専門家への橋渡しに対する報酬は受け取れます。ただし税理士・弁護士・司法書士の独占業務に該当する具体的な税額計算、法律相談、登記申請の代理は行えません。報酬を取る場合は、自分の業務範囲を明確に線引きすることが大切です。
Q6. 取得しても仕事に活かさない場合、更新する意味はありますか
趣味や自己啓発として取った場合、更新しないという選択も十分ありです。更新しなくても「相続診断士でした」という事実は残りますし、得た知識は自分の家族の相続準備に活かせます。本業で名刺に肩書きを載せて活動する方は、最新の税制を追うためにも更新を続けることをお勧めします。
取るか取らないかの判断軸
長くなったのでまとめます。相続診断士は、合格率90%超の取りやすい資格ですが、内容の薄さで合格率が高いわけではなく、教材が手厚いから合格率が高い資格です。受験料38,500円は決して安くないものの、保険・士業補助・金融・不動産・葬祭の本業を持つ人にとっては十分にペイする投資になります。
「相続診断士を取れば独立して食える」みたいな話に乗ってはいけない。でも「本業の引き出しを増やすため」「お客様の相談に1段深く応えるため」という目的なら、これほどコスパのいい資格は他にあまりないです。
私自身、20年葬儀の現場にいて、ご遺族の「次どうしたらいいの」という不安に何度も向き合ってきました。相続診断士の知識があるスタッフは、その不安を「では税理士の○○先生をご紹介します」と具体的な行動に変えてあげられる。これは資格証明書の話ではなく、目の前の遺族を救う実務の話です。本業を持ってる方は、一度真剣に検討してみる価値があると思ってます。




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