「葬祭扶助と葬祭費、どっちがもらえるんですか?」窓口で遺族からこう聞かれることが月に何度かあります。名前がそっくりなので混同されがちですが、この2つは全く別の制度です。片方は生活保護の受給者向け、片方は国保や社保に入っていた人が亡くなったときの給付金。もらえる金額も、申請する場所も、申請できる人も違います。
私が担当したある家族葬でも、故人が国保に入っていて生活保護は受けていなかったのに、遺族が「葬祭扶助を申請できると聞いた」と勘違いされていて、結局申請すべきだったのは葬祭費のほうだった、というケースがありました。5万円の給付を受け損ねるところだったんです。
この記事では、この2つの制度の違いを整理しつつ、どっちを申請すべきか、併用できるのか、実際にいくらもらえるのかを、現場で20年見てきた立場から具体的に書きます。
葬祭扶助と葬祭費は「まったく別の制度」です
まず一番大事なところを最初に。葬祭扶助と葬祭費は、根拠になっている法律も、目的も、対象者も、金額も全部違います。似ているのは「葬祭」という言葉が入っていることだけ。
葬祭扶助は「生活保護法」に基づく制度で、生活保護を受けていた人が亡くなったときに、その葬儀費用を国と自治体が代わりに払ってくれる仕組み。目的は「経済的に葬儀が出せない人でも、最低限のお見送りができるように」という福祉的な救済。
一方の葬祭費は「国民健康保険法」や「健康保険法」に基づく給付金です。故人が生前、国保や社保、後期高齢者医療制度に加入していた場合、その保険から遺族に支払われるお金。目的は「保険料を払ってきた人への還元」で、生活保護のような困窮救済とは性格が違います。
名前が似ているのに中身が違う理由
「葬祭」という単語が両方に入っているせいで混乱するのですが、そもそも管轄する省庁も違います。葬祭扶助は厚生労働省の生活保護担当、葬祭費は同じ厚労省でも医療保険の担当部署。窓口も、生活保護なら福祉事務所、葬祭費なら市区町村の国保窓口か勤務先の健康保険組合、と分かれています。
私の経験では、故人が生活保護を受けていない一般家庭の遺族が「葬祭扶助」の3文字だけを聞きかじってきて、「うちも申請できますよね?」と言ってこられるパターンが本当に多いです。生活保護を受けていない人には葬祭扶助は絶対に出ません。ここを最初に整理しておきます。
2つの制度を比較する早見表
まず全体像を表で押さえてください。数字は2024年時点の一般的な水準で、自治体や保険組合によって多少変動します。
| 比較項目 | 葬祭扶助 | 葬祭費(国保) | 埋葬料(社保) |
|---|---|---|---|
| 根拠法 | 生活保護法 | 国民健康保険法 | 健康保険法 |
| 対象になる人 | 生活保護受給者が亡くなったとき | 国保・後期高齢者医療の加入者が亡くなったとき | 会社の健康保険加入者が亡くなったとき |
| もらえる金額 | 大人約20万円前後(自治体差あり) | 3万円〜7万円(自治体差あり) | 一律5万円 |
| 申請先 | 福祉事務所 | 市区町村役場の国保窓口 | 健康保険組合または協会けんぽ |
| 申請できる人 | 葬儀を執り行う人(親族・民生委員など) | 喪主・葬儀を執り行った人 | 生計を維持されていた家族 |
| 申請期限 | 葬儀を行う前(原則) | 葬儀後2年以内 | 亡くなった翌日から2年以内 |
| お金の流れ | 自治体から葬儀社へ直接支払い | 遺族の口座に振込 | 遺族の口座に振込 |
この表を見てもらうと、金額の桁が違うのがわかります。葬祭扶助は葬儀そのものを丸ごとカバーする20万円前後、葬祭費や埋葬料は葬儀後の負担軽減として数万円を渡すお金。性格が違います。
葬祭扶助でもらえる金額と使い道
葬祭扶助の支給額は、大人でおおむね20万6000円以内、子ども(12歳未満)で16万4800円以内が基準額です。ただしこれは国が定める上限で、実際は自治体ごとに細かい運用が違います。東京都特別区は上限に近い金額が出ますが、地方の小さな自治体だと18万円前後になることもあります。
この金額の中でカバーされるのは、遺体の搬送、棺、骨壷、火葬料、ドライアイス、簡素な祭壇、必要最小限の人件費まで。通夜や告別式はできません。いわゆる直葬(火葬式)の一番シンプルな形になります。以前生活保護受給者の葬儀「葬祭扶助」について詳しく整理した記事でも書きましたが、あくまで「最低限のお見送り」の範囲です。
葬儀社に直接お金が入る仕組み
葬祭扶助の大きな特徴は、遺族に現金が渡るのではなく、福祉事務所から葬儀社に直接支払われることです。だから遺族は「葬儀費用を立て替える」必要がありません。手持ちのお金がゼロでも葬儀ができる、というのがこの制度の一番の意義です。
ただし、これには順番があります。「葬儀の前に」福祉事務所に申請して承認を取ることが原則。葬儀を先に済ませてから「あとでください」と言っても、原則として認められません。私が現場で見てきたトラブルの多くはここで、生活保護受給者の親族が亡くなったと聞いてすぐ葬儀社に依頼したものの、葬祭扶助の申請を後回しにして自腹を切ることになった、という例です。
申請できるのは誰か
葬祭扶助を申請できるのは、葬儀を執り行う立場の人。故人の親族が一般的ですが、身寄りがない場合は民生委員や大家さん、施設の職員などが申請することもあります。申請者自身も経済的に困窮していることが条件で、資産や収入がある親族が「めんどうだから」と使うことはできません。
身寄りがない場合の複雑なケースについては、身元引受人がいない生活保護受給者の葬祭扶助申請の流れを別記事で解説していますので、状況が近い方はそちらも読んでみてください。
葬祭費(国民健康保険)の金額は自治体で全然違う
次に葬祭費。故人が国民健康保険や後期高齢者医療制度に加入していた場合、喪主や葬儀を執り行った人に対して市区町村から給付されるお金です。金額は3万円〜7万円と、自治体によって幅があります。
参考までにいくつかの自治体の実例を挙げると、東京都23区は一律7万円、横浜市は5万円、名古屋市は5万円、大阪市は5万円、札幌市は3万円。都市部が高めで、地方は3万〜5万円が多い印象です。後期高齢者医療制度からの葬祭費は、都道府県の広域連合が運営しているのでまた金額が変わり、東京都だと7万円、多くの県で5万円というのが目安。
申請しないともらえない
ここで一番大事なこと。葬祭費は「申請主義」です。誰かが自動で振り込んでくれるものではなくて、遺族が自分で市区町村の窓口に行って書類を出さないと1円も出ません。しかも申請期限は葬儀後2年。うっかり忘れて2年経つと権利が消えます。
私の担当した遺族でも、悲しみとバタバタで手続きを後回しにしているうちに1年半が過ぎて慌てて申請、というケースがありました。5万円は決して小さくない金額なので、葬儀が落ち着いた四十九日前後で必ず動いてほしいところです。葬祭費・埋葬料の申請方法を国保・社保別に詳しくまとめた記事もあわせて確認してみてください。
申請に必要な書類
申請時に一般的に必要になるものは以下。自治体で若干違うので、事前に電話で確認するのが確実です。
- 故人の保険証(返却も兼ねる)
- 会葬礼状または葬儀費用の領収書(喪主の名前が確認できるもの)
- 喪主の身分証明書
- 喪主の印鑑
- 振込先の口座情報
- 死亡診断書のコピー(自治体によっては不要)
領収書は捨てないで必ず保管しておいてください。葬儀社発行の領収書か会葬礼状が「喪主が葬儀を行った証拠」になります。
埋葬料(社会保険)は一律5万円
故人が会社員で、健康保険(協会けんぽまたは健康保険組合)に加入していた場合は「埋葬料」という別の名前の給付があります。金額は全国一律で5万円。国保の葬祭費のように自治体差はありません。
受け取れるのは、故人によって生計を維持されていた家族。配偶者、子、親、兄弟姉妹などが該当します。同居していなくても、仕送りを受けていたような場合は対象になります。
「埋葬費」との違いにも注意
埋葬料と似た言葉で「埋葬費」というのもあります。これは、故人に生計維持関係の家族がいない場合に、実際に葬儀を行った人(友人や遠い親族など)に対して支払われるもの。金額は上限5万円で、実際にかかった葬儀費用の範囲内で支給されます。
つまり社保の場合、家族がいれば「埋葬料」5万円、家族がいなくて他人が葬儀を出したら「埋葬費」で実費5万円まで、という2段構えになっています。似た名前が並んでややこしいですが、覚えておくと役立つ場面が来ます。
併用できるのか?重要なルールをまとめます
ここが多くの人が知りたいポイントだと思います。結論から言うと、葬祭扶助と葬祭費(または埋葬料)は原則として併用できません。
理由はシンプルで、生活保護受給者は保険料を払っていないから。生活保護に入ると国民健康保険からは脱退させられ、代わりに医療扶助でカバーされる仕組みになっています。だから「国保に入っていない=葬祭費の対象にならない」ということになるんです。
後期高齢者医療のケースは要確認
ただし、後期高齢者医療制度に関しては、生活保護受給者でも加入している場合があります。75歳以上で生活保護になった人は後期高齢者医療から脱退するのが一般的ですが、自治体によって運用に違いがあり、葬祭費が支給されるケースもゼロではありません。故人が75歳以上で生活保護を受けていた場合は、念のため市区町村に確認したほうがいいです。
社保の埋葬料と葬祭費は当然併用不可
故人が国保と社保に同時に加入するというケースはそもそもありません。会社を辞めて国保に切り替えたばかりのタイミングで亡くなった、という場合は、どちらから給付を受けるか判断が必要になります。基本的には「亡くなった時点で加入していた保険」から給付されると考えてください。
ただし退職後3ヶ月以内に亡くなった場合は、退職前の健康保険から埋葬料が支給される特例があります。この特例は意外と知られていないので、退職直後にご不幸があったご家族には必ず伝えるようにしています。
現場でよく起きる勘違いパターン3つ
20年やってきて、遺族が窓口や葬儀社の相談で勘違いされるパターンはだいたい決まっています。3つ紹介します。
勘違い1: 「収入が少ないから葬祭扶助が使える」
年金だけで生活している高齢の遺族から「うちは収入が少ないから葬祭扶助でお願いします」と言われることがあります。でも葬祭扶助は「故人が生活保護受給者」または「葬儀を出す人が生活保護受給者」であることが原則条件。単に収入が少ないだけでは対象になりません。
低所得だけど生活保護までは受けていないという方には、低所得者向けの葬儀費用の減免・貸付制度という別ルートがあります。生活福祉資金貸付制度など、状況に合わせた選択肢を知っておくと安心です。
勘違い2: 「葬祭扶助と葬祭費、両方申請すればお得」
これは前述の通り、併用不可です。生活保護受給者は国保から抜けているので葬祭費の対象外。故人が生活保護を受けていたなら葬祭扶助のみ、生活保護じゃなかったら葬祭費または埋葬料のみ、と考えてください。
勘違い3: 「葬儀を先に済ませてから申請すればいい」
葬祭費や埋葬料は葬儀後の申請でOKですが、葬祭扶助は違います。原則、葬儀を執り行う前に福祉事務所に相談して承認をもらう必要があります。「先に葬儀を済ませてしまってからお金を請求する」やり方では通らないことが多い。ここは絶対に間違えないでほしい部分です。
もし故人が生活保護を受けていた可能性があるとわかったら、まず葬儀社に連絡する前でも構わないので、故人の住まいの管轄の福祉事務所に電話を入れるといいです。夜間や休日でも自治体には対応窓口があります。
申請の実務フロー:ケース別の動き方
実際に手続きを進めるときの流れを、3つのケースに分けて整理します。自分がどれに当てはまるか照らし合わせてみてください。
ケースA: 故人が生活保護受給者だった場合
1. 死亡が確認されたら、まず故人の住民票がある自治体の福祉事務所に連絡。担当ケースワーカーがいるはずなので、その人に「亡くなった、葬儀を出したい」と伝える。
2. 福祉事務所から葬祭扶助の申請書を受け取り、葬儀を出す人(申請者)の資産・収入状況を申告する。
3. 承認が下りたら、葬祭扶助に対応している葬儀社に依頼。自治体が推奨する葬儀社リストを持っている場合もあります。
4. 葬儀後、葬儀社から福祉事務所に請求書が回り、自治体から直接支払われる。遺族の懐は動かない。
ケースB: 故人が国保加入者だった場合
1. 葬儀は通常通り自分たちで手配し、費用を支払う。
2. 葬儀後、四十九日前後を目安に市区町村の国保窓口へ。故人の保険証、喪主名義の会葬礼状か領収書、身分証、印鑑、口座情報を持参。
3. 申請書に記入して提出。多くの自治体で1〜2ヶ月後に指定口座へ振込。
ケースC: 故人が社保(会社員)だった場合
1. 故人が加入していた健康保険組合、または全国健康保険協会(協会けんぽ)に連絡し、埋葬料の申請書を取り寄せる。会社の総務部が代行してくれるケースも多い。
2. 死亡診断書のコピー、事業主の証明、生計維持関係を示す書類などを添えて申請。
3. 審査を経て、およそ1〜2ヶ月後に5万円が振込。
よくある質問
Q1. 葬祭扶助を受けると通夜や告別式はできませんか?
基本的にはできません。葬祭扶助でカバーされるのは「火葬に必要な最低限」の範囲で、通夜・告別式・戒名料・宗教者へのお布施などは対象外です。もし遺族が自腹でこれらを追加したい場合は、その部分は全額自己負担になります。ただ、実務では葬祭扶助の範囲内で僧侶に読経だけお願いする、といった工夫をする葬儀社もあります。
Q2. 香典をもらった場合、葬祭費の申請に影響しますか?
葬祭費や埋葬料の申請では、香典の額を申告する必要はありません。葬儀費用の総額から香典を引いた実費、みたいな計算はしないので、香典が多かろうが少なかろうが給付額は変わらないです。葬祭扶助のほうは自治体によっては香典の状況を聞かれることがありますが、原則として葬祭扶助費の減額には結びつきません。
Q3. 家族葬や直葬でも葬祭費はもらえますか?
もらえます。葬儀の形式や規模は問われません。直葬(火葬式)で費用が10万円台に収まる場合でも、葬祭費の5万円〜7万円は満額出ます。ただし「葬儀を実際に行った」という証拠として葬儀社の領収書か会葬礼状が必要なので、火葬のみでも領収書は必ず取っておいてください。
Q4. 喪主以外の人が葬祭費を申請することはできますか?
基本は「葬儀を執り行った人」が申請者になります。喪主と実際に費用を払った人が違う場合、自治体によっては領収書の宛名の人が申請者になることもあります。夫が亡くなって喪主は長男だけど、葬儀費用は妻が払った、といったケースでは、事前に窓口に相談すると柔軟に対応してくれることが多いです。
Q5. 申請期限を過ぎたら本当にもらえなくなりますか?
葬祭費・埋葬料ともに、亡くなった翌日または葬儀を行った日から2年で時効になります。2年を1日でも過ぎると請求権が消滅するのが原則。ただ、正当な理由(遺族の入院や海外滞在など)があれば例外的に認められることもあるので、諦める前に窓口へ相談してみてください。私が見た中では、四十九日と一周忌のバタバタで気づいたら1年半経っていた、というケースが本当に多いので早めの手続きをおすすめします。
Q6. 生活保護受給者が亡くなって、遺族はお金を全く出さなくていいのですか?
基本的にはそうです。ただし遺族側に葬儀費用を出せるだけの資産・収入があると判断されると、葬祭扶助は下りません。あくまで「経済的に葬儀が出せない人」への救済制度なので、遺族が経済的に余裕がある場合は自費で葬儀を行うことになります。ここの判断は福祉事務所のケースワーカーが行います。
最後に、現場から伝えたいこと
制度の名前が似ているだけで、中身は全く別。この一点だけでも押さえておいてくれれば、いざというときに「どっちを使うんだっけ?」と迷わずに済みます。故人が生活保護なら葬祭扶助、国保なら葬祭費、社保なら埋葬料。この3択のうち、故人が加入していた制度からしか給付は出ません。
そして、葬祭費と埋葬料は「申請しないと1円も出ない」ということ。5万円、7万円は決して小さくないお金です。四十九日を過ぎたあたり、少し落ち着いた頃に、必ず市区町村の窓口か勤務先の健康保険組合に問い合わせてほしいなと思ってます。
大切な人を見送ったあとに、お金の手続きで頭を悩ませたくないというお気持ちはよくわかります。それでも、故人が生きているあいだに払ってきた保険料の「還元」として受け取れるものだから、遠慮せず、当然の権利として使ってほしい制度です。
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