納棺師の仕事は「着せ替え」だけじゃない?遺体処置から化粧まで一連の流れを徹底解説
納棺師の仕事は「着せ替え」だけじゃない?遺体処置から化粧まで一連の流れを徹底解説
映画『おくりびと』の影響もあり、「納棺師」という職業は広く知られるようになりました。しかし、多くの人がイメージするのは「故人に着物を着せて、棺に納める人」という、「着せ替え」の部分だけではないでしょうか。
実際には、納棺師の仕事はもっと多岐にわたり、医学的な知識を要する「遺体の処置」から、遺族の悲しみを癒やす「グリーフケア」までを含んだ、極めて専門性の高いプロフェッショナルな領域です。
本記事では、納棺師が行う実際の業務フローを細部まで掘り下げ、「なぜその処置が必要なのか」「どのような想いで行われているのか」を徹底解説します。
目次
- 1. 納棺師とは?葬儀社スタッフとの違い
- 2. 「着せ替え」の前に行う重要な「処置」の世界
- 3. 納棺の儀:一連の流れと手順
- 4. 湯灌(ゆかん)と清拭(せいしき)の違い
- 5. 「死化粧」が持つ本当の意味
- 6. 遺族へのグリーフケアとしての役割
- 7. まとめ:納棺師は「最期の思い出」を創る仕事
1. 納棺師とは?葬儀社スタッフとの違い
まず前提として、納棺師と葬儀社のスタッフ(セレモニースタッフ)の違いについて明確にしておきましょう。
専門技術に特化した「技術職」
葬儀社のスタッフは、葬儀全体の手配、進行、参列者の対応など「式典の運営」が主な業務です。一方、納棺師は「ご遺体のケア」に特化した専門職です。
近年では葬儀社のスタッフが納棺を行うケースもありますが、遺体の状態変化が激しい場合や、専門的な復元処置が必要な場合は、プロの納棺師(納棺専門業者)に依頼されることが一般的です。
納棺師に求められるスキル
- 遺体衛生保全の知識:死後硬直や腐敗の進行を遅らせる知識。
- 復元技術:事故や長期間の闘病で変化したお顔を、生前の姿に近づける技術。
- 着付け・メイク技術:死後硬直したお体に対して、服を脱がせたり着せたりする特殊な着付け技術。
- 接遇マナー:悲しみの中にいる遺族に対する、配慮の行き届いた所作と言葉遣い。
2. 「着せ替え」の前に行う重要な「処置」の世界
納棺師の仕事の中で、一般の方の目に触れにくいものの、最も重要と言えるのが「遺体の処置」です。着せ替えを行う前に、ご遺体の状態を確認し、適切なケアを施します。
死後硬直の解きほぐし
人は亡くなると、数時間で筋肉が固まる「死後硬直」が始まります。硬直したままでは、服を着せ替えることが難しく、また無理に動かすと皮膚を傷つけてしまう恐れがあります。
納棺師は、関節のマッサージを行いながら優しく硬直を解き、お体を柔らかい状態に戻してから着せ替えを行います。
含み綿(ふくみわた)と顔貌の整え
長い闘病生活で頬がこけてしまったり、義歯を外しているために口元が落ち窪んでしまうことがあります。納棺師は、口の中や頬の内側に適量の「綿」を含ませることで、ふっくらとした生前の表情を取り戻します。
この「含み綿」の技術は非常に繊細で、入れすぎると違和感が出てしまうため、ミリ単位の調整が行われます。
体液漏出の防止処置
死後、体内の腐敗ガスなどの影響で、口や鼻、耳などから体液や血液が漏れ出ることがあります。これを防ぐために、各開口部に脱脂綿や詰め物をする処置を行います。
これは衛生面だけでなく、「綺麗な姿で送り出してあげたい」という遺族の心情を守るためにも不可欠な工程です。
3. 納棺の儀:一連の流れと手順
ここでは、実際に納棺師が遺族の目の前で行う「納棺の儀」の一般的な流れを解説します。所要時間は通常40分〜1時間程度です。
STEP 1:末期の水(まつごのみず)
儀式の最初に、故人の口元を水で湿らせます。「あの世で喉が渇かないように」という願いが込められています。
STEP 2:清拭・湯灌(せいしき・ゆかん)
アルコールを含ませた脱脂綿でお体を拭き清めるか、専用の浴槽を使ってお湯で洗い清めます。現世の汚れや苦しみを洗い流すという意味があります。
STEP 3:死化粧・整髪
洗顔後、男性なら髭を剃り、女性なら産毛を剃ります。その後、ファンデーションや口紅で顔色を整え、髪をセットします。
STEP 4:着せ替え(旅支度)
白装束(経帷子)や、故人が生前愛用していた洋服・着物などに着せ替えます。肌を極力露出させないよう、タオルなどで隠しながら行う「逆さ着物」などの作法が用いられます。
STEP 5:納棺
お支度が整ったご遺体を、遺族と協力して(あるいは納棺師の手で)棺の中に納めます。
STEP 6:副葬品の封入・お顔合わせ
愛用品やお花、手紙などを棺に入れ、最後に整えられたお顔を見ていただき、ドライアイス等で保冷処置を行い完了となります。
4. 湯灌(ゆかん)と清拭(せいしき)の違い
「体を綺麗にする」という工程には、大きく分けて「湯灌」と「清拭」の2種類があります。納棺師に依頼する際、どちらを行うか選択することが多いです。
古式湯灌(清拭)
お湯やアルコールを含ませたガーゼやタオルで、お肌を拭く方法です。多くの納棺プランに含まれている標準的な方法です。
肌の露出を抑えつつ、布団の中で丁寧に行われます。
特殊湯灌(入浴)
専用の移動式バスタブ(湯灌車)を持ち込み、シャワーとボディーソープを使って全身を洗う方法です。シャンプーやトリートメントも行います。
「お風呂が好きだったから最後に入れてあげたい」「長期間お風呂に入れなかったのでさっぱりさせてあげたい」という遺族の希望で選ばれることが多いです。
ポイント:
湯灌は単なる洗浄ではありません。お湯をかける際、足元から胸元へと「逆さ」の手順で行うなど、葬送儀礼としての作法が厳格に守られています。
5. 「死化粧」が持つ本当の意味
納棺師の行うメイク(死化粧)は、生前のメイクとは目的が異なります。
「眠っているような」安らかな顔へ
亡くなると血液の循環が止まるため、顔色は青白く、あるいは土気色に変化します。また、乾燥により皮膚がくすんで見えることもあります。
死化粧では、専用のファンデーションを使って血色を補い、「まるで眠っているかのような」安らかな顔色を作ります。黄疸が出ている場合や、あざがある場合などは、カラーコントロール技術を駆使して目立たなくします。
男性へのメイクの重要性
メイクは女性だけのものと思われがちですが、男性のご遺体にも薄くファンデーションを塗り、眉を整え、唇に赤みを差すことで、生前の元気だった頃の面影に近づけることができます。
特に髭剃りは重要で、綺麗に剃ることで表情が驚くほど若返ることがあります。
6. 遺族へのグリーフケアとしての役割
納棺師の仕事の核心は、実は「ご遺体」だけでなく「ご遺族の心」に向き合うことにあります。
「死」という現実を受け入れるプロセス
大切な人を失った直後、遺族は混乱と深い悲しみの中にいます。納棺の儀式に参加し、自分の手で脚絆(きゃはん)を結んだり、清拭の手伝いをしたりすることは、辛い作業であると同時に、「死」を現実として受け止めるための重要なプロセスでもあります。
納棺師は、遺族が参加しやすい雰囲気を作り、「最後に何かしてあげられた」という満足感を感じてもらえるようサポートします。
「触れても大丈夫」な状態にすること
闘病の末に亡くなった場合、チューブが繋がれていたり、傷があったりして、家族であっても触れるのをためらってしまうことがあります。
納棺師が綺麗に処置をし、メイクを施すことで、遺族は恐れずに故人の頬に触れ、手を握ることができます。この「最後のスキンシップ」こそが、遺族の心の傷を癒やす第一歩となります。
7. まとめ:納棺師は「最期の思い出」を創る仕事
納棺師の仕事は、単に服を着せ替えることではありません。
それは、故人の尊厳を守り、生前の美しい姿を取り戻し、遺族が「良いお別れができた」と思えるような空間と時間を提供することです。
もし、葬儀の打ち合わせで納棺師(あるいは湯灌)を依頼するか迷った際は、ぜひ「最期の思い出づくり」として前向きに検討してみてください。
プロの手によって整えられた故人の姿は、悲しみの中にあるご家族にとって、一生忘れられない温かい記憶となるはずです。



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