先月、大家さんから電話が入った。「アパートの一室で、70代の男性が倒れているのを警察が発見しました。身内が誰もいないみたいで、こちらでどうしたらいいか分からず…」。声が震えていた。私はその日、ケースワーカーと警察官と大家さんの3者を葬儀場のロビーに集めて、これから何が起きるのかを2時間かけて説明した。
20年この仕事をしてきて、身寄りのない方のお見送りに関わったのは年間で20件を超える年もあった。2023年に厚生労働省が発表したデータだと、65歳以上の一人暮らしは約742万世帯。この数字は10年前の1.4倍だ。孤独死は今や、他人事ではなくなっている。
この記事では、身寄りがない方が亡くなった時に実際に何が起きるのか、行政の対応、無縁納骨堂への流れ、そして生前にできる備えとしての死後事務委任契約まで、現場で見てきたことを全部書きます。読み終える頃には、自分自身の備えと、周りの高齢者への声かけの手がかりが見えているはずです。
この記事の要点
- 身寄りのない方が亡くなると、まず警察の検視が入り、その後「墓地埋葬法9条」または「行旅法」に基づいて自治体が火葬する(葬儀は行わない)
- 火葬費用は自治体が一時負担するが、後日親族が見つかれば請求される。2024年の相場は1件あたり15万〜25万円
- 遺骨は原則5年間、自治体の無縁納骨堂で保管された後、合祀墓に納められる
- 「行旅死亡人」は身元不明で亡くなった方を指す法律用語で、官報公告で身元判明を待つ制度がある
- 生前に「死後事務委任契約」を結んでおけば、葬儀・納骨・遺品整理を第三者に託せる。相場は50万〜150万円
身寄りがない人が亡くなった直後、現場で何が起きるのか
結論から言うと、警察による検視から始まる。自宅で亡くなっているのが発見された場合、かかりつけ医がいない限り、まず警察に連絡が入る。事件性の有無を確認するためだ。これは絶対に飛ばせない手順で、遺族がいる場合でも変わらない。
2022年の初夏、私が担当した事例。都営アパートの3階、独居の68歳男性が発見されたのは死後およそ2週間経ってからだった。管理会社が家賃滞納を不審に思って警察を呼び、そこから検視、司法解剖なし、死体検案書の発行と進んだ。夏場だった。搬送時のご遺体は、20年の現場でも記憶に残るほど傷んでいた。
警察が親族を探す期間は平均3〜7日
警察は戸籍を辿って親族を探す。マイナンバーと住民票、戸籍謄本を横断して、配偶者・子ども・両親・兄弟姉妹・甥姪までは基本的にチェックする。ここで見つかれば、その人に遺体引き取りの連絡がいく。
ただ、親族が見つかっても「疎遠だから引き取れない」と拒否されるケースが実際にはとても多い。私の実感で言うと、10件のうち4件ぐらいは拒否される。法律上、遺体の引き取り義務は誰にもない。断ってもいい。だから警察も無理強いはしない。
親族が見つからない、あるいは全員が拒否した場合、いよいよ自治体の出番になる。ここからが「身寄りのない人の葬儀」の本題です。
遺体の安置は警察の霊安室か民間安置所
親族が見つかるまでの間、ご遺体は警察署の霊安室か、警察が委託している民間の安置施設に置かれる。安置日数の上限は明確に決まっていないが、感染症の関係と保管容量の問題で、だいたい1週間以内に自治体へ引き継がれる流れだ。
この期間、ドライアイスや保冷装置の費用が発生するけれど、身寄りのないケースではこれも自治体負担になる。都内のある区の担当者に聞いたところ、1日あたり8,000〜12,000円が保冷費用の相場。1週間で7〜8万円、これも後で税金から支出されている。
「墓地埋葬法9条」と「行旅法」の使い分け
自治体が身寄りのない方を火葬する時の根拠法は、実は2種類ある。この違いは、遺族が後から名乗り出た時の対応が変わってくるので大事な話です。
身元が判明している場合は「墓地埋葬法9条」
亡くなった方の氏名・住所・本籍がはっきり分かっていて、ただ引き取り手がいないという場合。この時に使われるのが「墓地、埋葬等に関する法律」の第9条です。条文はこう書かれている。「死体の埋葬又は火葬を行う者がないとき又は判明しないときは、死亡地の市町村長が、これを行わなければならない」。
実務としては、市区町村の生活福祉課が窓口になる。委託先の葬儀社が搬送・火葬までを担う。通夜も告別式もなし。棺に納めて、直接火葬場へ運ぶ「直葬(火葬式)」の形式です。棺は最も安い合板の白木、副葬品はほぼなし。読経も基本的にはなし。
身元不明の場合は「行旅法(行旅病人及行旅死亡人取扱法)」
身元がまったく分からない、あるいは所持品に手がかりがない場合。この時に登場するのが明治32年(1899年)制定の「行旅病人及行旅死亡人取扱法」。長い名前ですが、通称「行旅法」と呼ばれる。
「行旅死亡人(こうりょしぼうにん)」とは、旅先で亡くなった方や、身元不明で亡くなった方を指す法律用語です。今でも年間600〜700件ほど発生している。この場合、自治体は火葬した後、身元判明の手がかりを求めて「官報」に公告を出す義務がある。
官報公告には、身長・体重・所持品・発見場所・推定年齢・服装まで詳しく書かれる。私が3年前に見た公告では「推定70歳前後、身長165cm、灰色のジャンパー、内ポケットに『山田』と書かれた手帳」と記載されていた。この記述を頼りに、数ヶ月後に山口県から親族が名乗り出たと聞いた。
両者の違いをまとめる比較表
| 項目 | 墓地埋葬法9条 | 行旅法 |
|---|---|---|
| 対象 | 身元判明・引き取り手なし | 身元不明 |
| 担当窓口 | 市区町村の福祉部門 | 市区町村の福祉部門+警察 |
| 官報公告 | 不要 | 必須 |
| 費用負担 | 自治体が一時負担・後日親族に請求可 | 都道府県が最終負担 |
| 遺骨保管 | 原則5年 | 原則5年 |
| 年間件数(2023年推計) | 約4万件 | 約650件 |
両方に共通するのは、通夜・告別式なしの直葬形式で、宗教儀式は原則行われないという点。もし特定の宗派の信者だと分かっている場合は、担当ケースワーカーの判断で読経を手配してくれることもある。ただ、その費用は自治体が持たない。生前に本人が積み立てていた場合か、寺院が慈善で行う場合に限られる。
火葬費用は誰が払うのか、実際の金額
結論。第一義的には自治体が立て替える。ただし、後で親族が見つかれば、その人に請求がいく。私が現場で見てきた実額を書きます。
都内23区の場合、身寄りなしの火葬にかかる費用は1件あたり15〜25万円。内訳は搬送費(3〜5万円)、安置費用(5〜8万円)、棺と骨壷(2〜3万円)、火葬料(区民料金で数千円〜、区外だと6〜7万円)、書類関係の実費(1万円前後)というのが目安。
地方だと少し安くて、10〜18万円ぐらい。火葬料が公営で数千円のところが多いため。ただ、遺体搬送の距離が長いと逆に高くなることもある。私が担当した長野県のあるケースでは、山間部の集落から市街地の火葬場まで50km以上あって、搬送費だけで12万円請求された。
後日親族が見つかった時の請求
ここが誤解されやすい点です。「身寄りがないから自治体が全部やってくれた」と思っていても、後で親族が判明すると請求書が送られてくる。民法877条の扶養義務、そして墓地埋葬法9条2項の規定によって、費用を負担する義務が発生する場合がある。
実例。3年前、私が関わったある事例では、亡くなった方の弟さんが半年後に判明した。福岡から連絡が来て、区役所から18万円の請求が届いたと相談を受けた。「10年以上会っていない兄なのに、なぜ払わないといけないんですか」と困惑されていた。
結論として、故人に遺産(預貯金や不動産)があれば、そこから支払える。もし遺産がゼロで、親族が「相続放棄」の手続きをしていれば、支払い義務は消える。相続放棄は死亡を知ってから3ヶ月以内が原則。この期限を過ぎると単純承認扱いになって、借金も葬儀費用も引き継がれる。この判断は葬祭費用単独では収まらないので、後で振り返るためにも、親が亡くなった後にやるべき手続き一覧と合わせて確認しておくといい。
生活保護受給者だった場合は「葬祭扶助」が使える
亡くなった方が生活保護を受けていた場合、話が変わる。「葬祭扶助制度」を使えば、自己負担0円で火葬まで行える。ただし、これは葬祭を行う人(喪主)が生活保護受給者または低所得者である場合、あるいは故人に葬祭費用を支払える遺産がない場合に限られる。
身寄りがない生活保護受給者の場合は、身元引受人がいなくてもケースワーカーが手続きを進めてくれる。詳しくは身元引受人がいない生活保護受給者の葬儀の流れにまとめてあるので、該当する方は参照してほしい。
遺骨はどこへ?無縁納骨堂と合祀の実態
火葬が終わった後の遺骨は、自治体の無縁納骨堂に納められる。ここが多くの人が知らない部分です。「無縁仏になる」という言葉は聞いたことがあっても、実際にどこでどう保管されているかを見た人は少ない。
2019年、私は東京都のある区の無縁納骨堂を見学させてもらった。地下の一室に、金属製のロッカーが天井近くまで並んでいた。ロッカーの中には小さな骨壷が2〜3個ずつ入っていて、それぞれに「令和元年○月○日 山田○○」と札が貼られていた。冷たい印象を持たれるかもしれないが、担当者は毎月お花を替えて、お盆と彼岸には合同で読経の時間を設けていた。
保管期間は原則5年、その後は合祀墓へ
遺骨は個別に、原則5年間保管される。この間に親族が見つかれば、遺骨を引き取ることができる。5年を過ぎると、市区町村が管理する「合祀墓(ごうしぼ)」に移される。合祀された後は、他の方の遺骨と混ざるため、二度と個別に取り出せない。
この「5年」というのはあくまで目安で、自治体によっては3年で合祀するところもあれば、10年保管するところもある。私が調べた限り、東京23区は5年が主流、大阪市は3年、京都市は10年だった。
合祀後に親族が見つかったらどうなる
これが辛い話なんですが、合祀された後に親族が名乗り出ても、その方の遺骨だけを取り出すことは物理的に不可能です。合祀墓は他の方の遺骨と物理的に混ざっているから。この事実を電話で伝えると、多くの方が言葉を失う。
代わりに、多くの自治体では合祀墓の場所を案内して、そこで手を合わせてもらう対応をしている。ある大阪の親族の方は、20年ぶりに叔父の消息を辿って合祀墓に来られ、「ようやくお参りできた」と静かに手を合わせておられた。それでも救われる部分はあるのだと、その時に思った。無縁仏になった後のお墓の処理についてはこちらに詳しく書いた。
「行旅死亡人」の官報公告、実際の中身
結論から言うと、官報の「行旅死亡人公告」は、身元不明の方の身元判明のために、今も毎日のように出されています。これは電子版の官報でも誰でも無料で見られる。
2023年10月のある日、私が確認した公告には次のような記載があった。「本籍及び住所不詳、氏名不詳、推定年齢60歳から70歳、身長158センチメートル、体重54キログラム、着衣は紺色ジャンパー、灰色ズボン、黒色運動靴、所持品は現金1,240円、電子タバコ、東京都営バス乗車券1枚、令和5年○月○日午後2時頃、△△公園ベンチにて発見」。
読んでいて、切ない気持ちになった。この方は、朝バスで公園まで行って、ベンチで一日を過ごすつもりだったのかもしれない。所持金1,240円と電子タバコが、この方の人生の最後に残ったもの。
身元判明の確率と方法
2022年に厚生労働省の資料によると、行旅死亡人として公告された方のうち、その後身元が判明するのは約35%。残り65%はそのまま無縁として合祀される。判明のきっかけは、DNA照合、指紋照合、所持品からの手がかり、そして家族が捜索願を出していたケースなど。
特に近年増えているのが、認知症の高齢者が徘徊中に行方不明になり、遠方で亡くなって行旅死亡人扱いになるケース。2022年の警察庁データでは、認知症関連の行方不明届は年間18,709件。このうち、翌年までに死亡が確認されたのが491件。
もし高齢のご家族が行方不明になったら、必ず警察に捜索願を出し、同時にDNA登録もしておく。この登録があるだけで、後日行旅死亡人として発見された時の照合が早くなる。
生前にできる備え:死後事務委任契約とは
ここからは、自分が「身寄りがない」立場になった時の備えの話。結論、「死後事務委任契約」を結ぶのが最も現実的な解決策です。
死後事務委任契約とは、自分が亡くなった後の手続き(葬儀・納骨・遺品整理・行政への届出など)を、生前に第三者に委任する契約のこと。契約相手は、司法書士・行政書士・弁護士・NPO法人・信託銀行など、多岐にわたる。
相場は50万〜150万円。ただ、これはあくまで「事務手数料」の話で、実際の葬儀費用(30万〜100万円)や納骨費用(5万〜30万円)は別途、生前に預けておく必要がある。合計すると150万〜300万円程度を用意しておくのが現実的です。
契約でカバーできる範囲
私が実際に見てきた契約書だと、次のような項目が含まれていることが多い。
- 死亡届の提出(親族以外でも同居人・大家・後見人などが提出可能)
- 葬儀・火葬の手配(希望の葬儀社・宗派・形式を事前指定)
- 納骨・お墓や納骨堂への安置
- 遺品整理・住居の明け渡し
- 公共料金・カード・携帯電話などの解約
- ペットの引き取り先手配
- SNSアカウントの閉鎖・デジタル遺品整理
- 友人・知人への訃報連絡
特に最近増えているのがSNSアカウントの整理依頼。60代・70代でもFacebookやInstagramを使っている方が多くて、「自分が死んだら閉じてほしい」という要望が増えている。
信頼できる委任先の選び方
ここが一番大事な部分。委任先が悪徳業者だと、生前に預けたお金を持ち逃げされるリスクがある。実際、2020年頃から高齢者を狙った死後事務委任詐欺が急増している。国民生活センターへの相談件数も右肩上がり。
チェックポイントを3つ挙げます。
- 士業(弁護士・司法書士・行政書士)が関与しているか。所属団体で確認できる
- 預託金の管理方法。「信託口座」で分別管理されているかを必ず確認
- 契約後の連絡頻度。年1回以上の生存確認と契約内容の見直しがあるか
あと、私が現場でおすすめしているのは、自治体の社会福祉協議会が提供している「日常生活自立支援事業」や、公益法人が運営する死後事務委任サービス。営利目的ではないため、比較的安価で信頼性も高い。私の担当地域だと、区の社協が月2,000円の会費で相談窓口を開いている。
エンディングノートと遺言書、どちらが必要か
結論、両方あるといい。だけど法的効力が違うので、使い分けが必要です。
エンディングノートは、法的な効力はない。ただ、「自分の希望」を伝えるツールとしては強力です。葬儀の形式、納骨先、緊急連絡先、パスワード、大切な人へのメッセージなど、書ける内容は幅広い。市販のノートで千円台から買えるし、市区町村が無料配布しているケースもある。
遺言書は、法的効力がある。財産の分配を法的に確定させたい場合は必須です。特におひとりさまの場合、法定相続人がいないと財産は国庫に帰属してしまう。「お世話になった友人に残したい」「NPO団体に寄付したい」といった意思がある場合、遺言書がないとその願いは実現しない。
おひとりさまの遺言書は「公正証書遺言」が確実
自筆証書遺言だと、書き方の要件が厳しくて無効になるリスクがある。公証役場で作成する「公正証書遺言」なら、公証人が関与するため無効になるリスクがほぼゼロ。費用は財産額によって変動しますが、遺産1,000万円で約2万5千円、5,000万円で約5万円が目安。
私が担当した78歳の女性は、旦那さんに先立たれて子どもがおらず、姪と甥が3人ずついた。「疎遠な甥姪に財産が渡るのは望まない、長年支えてくれた近所の友人に感謝を伝えたい」という思いで公正証書遺言を作成。その方が亡くなった後、遺言通りに1,500万円の預貯金が友人に渡り、友人は泣きながら「これで安心して介護施設に入れる」と話された。
見守りサービスと安否確認の重要性
身寄りがない方の孤独死で最も避けたいのは、発見の遅れです。夏場に2週間も経過してしまうと、ご遺体だけでなく、住居の原状回復費用が数十万円〜数百万円に膨らむ。前述の私が担当した68歳男性のケースでは、床のリフォーム込みで大家さんに約380万円の請求が発生した。
これを防ぐには、定期的な安否確認の仕組みが必要です。今は選択肢が本当に増えている。
- 郵便局の「みまもり訪問サービス」(月2,500円、月1回訪問)
- ヤクルトレディの配達型見守り(週2〜3回、飲料代のみ)
- センサー型の自動通報システム(月3,000円〜)
- 地域包括支援センターの定期電話(無料、内容は自治体による)
- 民生委員の訪問(無料、月1回程度)
私は40代のうちから、自分の親(70代)に「毎朝LINEで『おはよう』のスタンプだけ送って」とお願いしている。返信がなかったら電話する。既読がつかなかったら実家に向かう。この程度でも、発見が丸1日遅れるのを防げる。
独居高齢者を見守るサービスの詳細は別記事でまとめているので、身近な高齢者のために調べておく価値がある。
友人や大家として「関わってもいい」範囲
親族ではない立場で、身寄りのない方の最期に関わる場面もある。この時、どこまでやっていいかで悩む方が多い。結論、法律上は「葬儀を行う者がない」に該当するので、友人・大家・ケアマネジャーなど誰でも喪主的な立場を引き受けることは可能です。
ただし、費用は誰かが立て替える必要がある。生前に故人と口約束していただけでは、後で親族から「勝手なことをした」と揉めるリスクがある。だから、口頭ではなく「委任状」や「同意書」の形で残しておくのが望ましい。
大家さんの立場での対応
大家さんは、故人の住居契約者として、遺品整理と原状回復の当事者になる。ただし、勝手に部屋の中のものを処分すると、後で親族が現れた時に賠償請求されるリスクがある。
実務としては、警察の検視が終わってから、市区町村の福祉部門に相談し、「遺品整理は自治体の指示に従う」形にするのが安全。多くの自治体では、身寄りなしの場合、大家さんが立ち会いのもとで遺品を目録化し、金銭的価値のあるものは保管、その他は廃棄するというプロセスを踏む。
実際の事例:私が担当した3つの見送り
事例1:82歳の元教師、完璧な生前準備
2021年の春、82歳の元中学校教師の方をお見送りした。この方は独身で、両親も兄弟も亡くしていた。5年前に司法書士との死後事務委任契約を結んでいて、私たち葬儀社への依頼書も含めて、全部きちんと準備されていた。
亡くなった翌日、司法書士から連絡が入り、48時間以内に火葬式を挙行。故人の希望通り、教え子だった方々30人に訃報を伝え、10人ほどが火葬場に集まってくれた。「先生らしい静かな見送りでしたね」と、ある教え子が泣きながら話された。準備の力を感じた瞬間だった。
事例2:発見が遅れた75歳男性、身元不明で行旅死亡人扱い
2020年の冬、公園のベンチで亡くなっているのが発見された75歳ぐらいの男性。所持品は現金3,200円と、名前も何も書かれていないメモ帳。行旅死亡人として官報公告が出された。
4ヶ月後、他県から60代の女性が「兄かもしれない」と連絡してきた。DNA照合の結果、兄妹関係が確定。妹さんは「20年会っていなかった。でも、こうして最期を知れて、少しだけ救われた」と話された。合祀される直前で、遺骨は妹さんが引き取れた。
事例3:45歳男性、突然死で発見まで11日
2023年の夏、まだ45歳のフリーランス男性が自宅マンションで亡くなっていた。心筋梗塞だった。両親はすでに他界、兄弟なし、独身。発見は11日後で、原状回復に240万円かかった。この費用は最終的に大家さんの負担となった。
この方は独身で、友人とは頻繁に連絡を取っていたそうです。ただ、「フリーランスだから連絡が3日〜1週間途絶えるのは普通だった」ため、誰も異変に気づけなかった。孤独死は高齢者だけの問題ではない。40代・50代の独身者にも十分起こりうる話だと、この事例で痛感した。
40代・50代のうちから始める備え
「まだ早い」と思われるかもしれない。だけど、私が現場で見てきた限り、備えは早ければ早いほどいい。何より、判断能力があるうちに考えておくことが重要です。認知症になってからでは、契約行為ができなくなる。
私自身、41歳で「もしもの時」の準備を始めた。エンディングノートを買って、預貯金口座の一覧、生命保険の証書、パスワード管理、そして「もし私が亡くなったら夫にお願いしたいこと」を書き出した。夫にも同じことを頼んだ。夫婦で共有すべき情報だから。
40代からできる具体的な備えとして、40代から始めるプレ終活の進め方にも詳しく書いた。特にデジタル遺品の整理は、若い世代ほど残されるデータ量が多いので、早めの対策が必要です。
よくある質問
Q1. 身寄りがない親戚が亡くなったと役所から連絡が来ました。引き取り義務はありますか?
法律上、遺体の引き取り義務は誰にもありません。断ることは可能です。ただし、断った場合、故人に遺産があれば相続の対象になり、同時に葬儀費用の請求が来る可能性があります。相続放棄をすれば、費用負担も財産も引き継がれません。相続放棄は死亡を知ってから3ヶ月以内が期限です。判断に迷ったら、まず司法書士か家庭裁判所の相談窓口へ。
Q2. 死後事務委任契約は、家族がいても結べますか?
結べます。家族がいても、遠方に住んでいて手続きが難しい、あるいは家族に負担をかけたくないという理由で契約する方は多いです。特に高齢の親が子どもに迷惑をかけたくないと考えるケース、または家族関係が良好でも認知症などで判断能力を失うリスクを回避したいケースで有効です。
Q3. 生前に葬儀社と直接契約しておくことはできますか?
できます。「生前契約」や「事前予約」という形で、多くの葬儀社が受け付けています。私の勤める葬儀場でも年間30件ほどの生前契約があります。ただし、単独で契約するよりも、死後事務委任契約と組み合わせるのが安全です。葬儀社との連絡役が必要になるからです。単独契約の場合、亡くなったことを葬儀社に伝える人がいないと、契約が発動しないというリスクがあります。
Q4. 火葬後、遺骨を引き取らないという選択はできますか?
可能です。「遺骨引き取り拒否」という手続きになります。この場合、遺骨は火葬場の合同納骨堂または自治体の無縁納骨堂に直接納められます。ただ、後から気持ちが変わって「やっぱり引き取りたい」と思っても、合祀された後だと個別に取り出せなくなります。判断は慎重に。
Q5. 死後事務委任契約の費用は、税金の控除対象になりますか?
基本的にはなりません。ただし、契約金の一部を「信託」の形で預けている場合、相続税の計算時に一部を経費として扱える可能性があります。税務については契約時に必ず税理士や司法書士に確認してください。私が知る範囲では、150万円の契約金のうち、実際の葬儀費用として使われた100万円分は相続財産から差し引かれるケースがありました。
Q6. 賃貸契約者の孤独死で、大家として最初にすべきことは何ですか?
まず警察に通報してください。決して部屋に入って何かを動かしたり、片付けたりしないこと。警察の検視が終わるまでは、現場保存が原則です。検視後、市区町村の福祉部門に連絡し、身寄りがない旨を伝えれば、自治体が対応を引き継いでくれます。原状回復費用については、故人の遺産や火災保険・借家人賠償保険から充当できる場合があるので、契約している保険会社にも早めに相談してください。
最後に伝えたいこと
20年この仕事をしてきて、身寄りのないお見送りは何十件も担当した。悲しい話が多い一方で、生前にきちんと準備されていた方の見送りには、静かな尊厳がありました。誰にも迷惑をかけず、それでいて自分の希望を叶えて旅立たれる。そういう最期を実現するために、今からできることは思ってるより多いです。
「身寄りがない」というのは、決して恥ずかしいことでも、悲しむべきことでもない。ただ、備えがないと周りに大きな負担がかかる。それだけの話です。40代の私も、いつか一人になる日が来るかもしれない。だからこそ、今からエンディングノートを書き始めています。
この記事を読んでくださった方が、自分のこと、あるいは身近な独居の方のことを、少しでも具体的に考えるきっかけになれば嬉しく感じてます。何か疑問があれば、地域の社会福祉協議会か、司法書士会の無料相談窓口へ。相談は無料ですし、話すだけでも見えてくるものがあります。
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