夜10時すぎに親族から電話がかかってくる。「今日は仮通夜だから、来てもらえる?」。受話器の向こうの声は疲れていて、こちらも何を持って行けばいいのか頭が真っ白になる。私が現場で年間100件以上担当してきて、ご遺族や弔問客から一番多く受ける質問の一つが、この「仮通夜」にまつわるものです。
本通夜との違い、服装、香典、滞在時間。情報が錯綜していて、しかも地域差が大きいので、検索しても答えが定まらない。今日は私が現場で実際にお伝えしている内容を、できるだけ具体的に書きます。
仮通夜とは何か|本通夜の前夜に行う「内輪のお別れ」
仮通夜とは、ご逝去された当日の夜、ご家族や近しい親族だけで故人のそばに付き添う時間のこと。翌日または翌々日に行われる「本通夜」とは別物で、儀式というよりも、家族水入らずで故人と最後の夜を過ごすための場です。
昔は自宅にご遺体を安置して、線香の火を絶やさないよう一晩中誰かが起きている、というのが仮通夜の原型でした。今は安置施設や自宅で静かに過ごすケースが大半で、儀式らしい儀式は行いません。僧侶を呼ばない場合がほとんどで、読経もないことが多い。
大事なのは、仮通夜は「広く参列者を招く場ではない」ということ。ご遺族から特別な案内がない限り、一般の知人や会社関係の方が顔を出す場ではありません。ここを誤解されている方が本当に多くて、現場でも「仮通夜から行くべきでしょうか」と聞かれるたびに、丁寧に説明しています。
なぜ「仮」とつくのか
「仮」という字がついているのは、翌日以降に行う「本通夜」が正式な儀式だから。仮通夜はその準備段階、あるいは家族としての最初の夜という位置付けです。地域によっては「お別れの晩」「夜伽(よとぎ)」と呼ぶこともあります。
ただ最近は、火葬場の予約が取れずに数日待つケースが増えていて、その間の安置期間中の夜を「仮通夜」とまとめて呼ぶ家もあります。言葉の使われ方が現場でも揺らいでいるので、案内を受けたら「どなたが参列されますか」「香典は必要ですか」と素直に聞いてしまうのが一番確実です。
仮通夜と本通夜の違いを表で整理
口頭で説明するとどうしても混乱するので、表にしました。担当した家族の方にもこの表を見せながら案内することがあります。
| 項目 | 仮通夜 | 本通夜 |
|---|---|---|
| タイミング | ご逝去当日の夜 | 翌日または翌々日の夜 |
| 参列者 | 家族・近親者のみ | 親族・友人・会社関係など広く |
| 僧侶の読経 | 基本なし(地域差あり) | あり |
| 香典 | 原則不要 | 持参する |
| 服装 | 平服でも可 | 準喪服が基本 |
| 所要時間 | 30分〜1時間程度 | 1〜2時間+通夜振る舞い |
| 案内方法 | 口頭・電話で個別連絡 | 訃報通知・新聞お悔やみ欄 |
表で見ると分かる通り、仮通夜は「私的」で「短時間」「身内中心」。本通夜は「公的」で「儀礼的」「広く受け入れる」。この性質の違いを押さえておくと、自分が呼ばれた時にどう振る舞えばいいかが見えてきます。
ちなみに本通夜の日程の決め方は友引や六曜を含めて別の記事で詳しく書いているので、ご家族の方はそちらも参考にしてください。
仮通夜に呼ばれる人・呼ばれない人
仮通夜は基本的にご家族と、ごく近しい親族だけ。具体的には、配偶者・子・孫・故人の兄弟姉妹あたりまでが目安です。叔父叔母やいとこは、関係が深ければ呼ばれることもあれば、本通夜から参列するケースもあります。
友人・知人・会社関係の方が仮通夜に顔を出すことは、原則ありません。よほど故人と特別な関係があった方(生前ずっと介護を手伝っていた友人など)は別ですが、ご遺族から直接「来てもらえると嬉しい」と声がかかった場合に限られます。
判断に迷うラインで多いのが、「故人と仲の良かった友人」「会社の元同僚」「ご近所の方」。この場合、訃報を聞いて即座に駆けつけるのではなく、本通夜の日時を確認してそちらに参列するのが基本マナーです。仮通夜の家族の時間を邪魔しないという配慮が、結果的にご遺族にとって一番ありがたい。
「お線香だけでも上げに行きたい」と思った時
故人と親しかった方ほど、「顔だけでも見たい」「お線香を上げたい」という気持ちが湧いてくる。その気持ちは本当によく分かります。ただ、仮通夜の夜はご家族が憔悴し切っていて、来客に対応する余裕がないことがほとんど。
どうしても、という時は、まず電話で「お線香を上げに伺っても構いませんか」と確認する。断られたら無理をせず、本通夜か後日の弔問に切り替える。これが故人にもご遺族にも誠実な接し方だと思ってます。
仮通夜の服装|「平服」でも気をつけたいライン
仮通夜は身内中心の場なので、本通夜のような厳格な喪服は不要です。ただ「平服でいい」と言われても、ジーンズにTシャツでいいわけではない。私が現場でお伝えしているのは、「地味な普段着+黒や紺の上着」というラインです。
男性なら、黒・紺・濃いグレーのスラックスに、白か淡い色のシャツ、上から黒系のジャケットやカーディガン。ネクタイは締めなくていいですが、もし締めるなら無地の暗い色。スーツである必要はなくて、ビジネスカジュアル寄りの落ち着いた服装で十分です。
女性なら、黒・紺・濃いグレーのワンピースか、ブラウスにスカート・パンツ。柄物や明るい色は避ける。アクセサリーは外すか、結婚指輪と真珠の一連ネックレス程度まで。化粧は薄めに、ネイルが派手な場合は黒いストッキングや手袋でカバーする方法もあります。
急に駆けつける場合の例外
ご逝去の知らせを受けて、仕事帰りや外出先からそのまま駆けつける場合、服装が整わなくても構いません。むしろ着替えに時間をかけて到着が遅れる方が、ご家族にとっては気がかり。明るい色の服や派手な装飾だけ外して、急いで向かう方が誠意が伝わります。
「あとで喪服に着替えてもう一度伺いますか」とご家族に聞かれることもありますが、仮通夜であれば不要です。本通夜から正式な装いで来てくださればそれで十分。髪型や髪色のマナーについても、仮通夜であれば本通夜ほど厳格ではないものの、明らかに派手なまとめ髪やヘアアクセサリーは外しておくと安心です。
香典は必要?|原則は不要、例外もある
これが現場で一番聞かれる質問。結論から言うと、仮通夜では香典は持って行かないのが原則です。理由は単純で、仮通夜は儀式ではなく、家族としての時間だから。香典を渡されてもご遺族は受付の準備すらしていないし、受け取って記帳する余裕もありません。
香典は本通夜または告別式で渡す。これが基本です。仮通夜と本通夜の両方に出る場合も、香典は本通夜の受付で一度だけ。二重に渡すと、ご遺族側で「重なる」ことを気にされる方もいるので避けてください。
例外は二つあります。一つは、本通夜・告別式に都合で参列できず、仮通夜にしか伺えない場合。この時は仮通夜の場でお渡しして構いません。もう一つは、遠方の親族で「仮通夜に来てくれたから本通夜は来なくていい」とご遺族から言われている場合。この時も仮通夜で渡すのが自然です。
渡すなら金額・表書きはどうする
金額の相場は本通夜・告別式と同じです。両親なら5万〜10万円、兄弟姉妹なら3万〜5万円、祖父母なら1万〜3万円、友人・知人なら5千〜1万円。詳しい金額の書き方や中袋の記入は香典袋の金額の書き方を参照してください。
表書きは宗派によって変わります。仏式なら「御香典」「御霊前」(浄土真宗は「御仏前」)、神式なら「御玉串料」「御榊料」、キリスト教式なら「御花料」。仮通夜の時点で宗派が分からない場合は、どの宗派でも使える「御香典」が無難です。
お札の入れ方は、新札を避けて旧札を使う、もしくは新札なら折り目を一度入れる。これは「準備していたわけではない」という気持ちを示すための作法です。袋から取り出した時にお札の顔が下向き・裏向きになるように入れます。
仮通夜での過ごし方と滞在時間
仮通夜に呼ばれた時、何をすればいいのか。基本は故人のそばで静かに過ごし、ご遺族と思い出を共有する時間です。儀式ばった作法はなく、お線香を上げて手を合わせ、ご遺族にお悔やみの言葉をかけて、しばらく一緒にいる。それだけです。
滞在時間は30分から1時間程度が目安。ご遺族はその日の昼間に病院や警察、葬儀社との打ち合わせで疲れ切っているので、長居は禁物。お茶を出してもらっても一杯だけいただいて、頃合いを見て「今日はこれで失礼します。本通夜にも伺います」と引き上げます。
会話の話題は、故人の生前の思い出が中心。死因や闘病の様子を細かく聞き出すのは避ける。ご遺族が話したそうにしていれば耳を傾け、こちらから掘り下げない。「いいお父さんでしたね」「最後まで頑張っておられましたね」というシンプルな言葉で十分です。
お線香の上げ方とお参りの作法
枕飾りの前に座って、ろうそくから線香に火をつけ、手であおいで消す(息を吹きかけない)。線香を香炉に立てる本数は宗派による。曹洞宗・臨済宗は1本、浄土宗・天台宗は2本、真言宗・日蓮宗は3本、浄土真宗は1本を寝かせる、というのが目安。分からなければ1本立てておけば失礼にはなりません。
合掌して一礼し、ご遺族の方を向いて軽く頭を下げる。これで一通りの作法は完了です。数珠を持っている場合は左手に掛けるか、合掌する時に両手にかける。持っていなくても仮通夜では咎められません。
仮通夜での声かけ・お悔やみの言葉
ご遺族にかける言葉は、シンプルで短いほどいい。「このたびはご愁傷さまでございます」「心からお悔やみ申し上げます」。この二つを使い分ければ、まず失礼になることはありません。
長々と慰めの言葉を並べると、かえってご遺族の負担になる。「頑張ってくださいね」「元気を出してください」も、悲しみの最中にいる方には酷な言葉。励まそうとせず、ただ「お悔やみ申し上げます」と伝えて、そっと寄り添う方が誠実です。
避けたいのは、「重ね言葉」(重ね重ね、たびたび、ますます、再三など)と、「直接的な死の表現」(死ぬ、死亡)。これらは不幸が重なることを連想させるので、お悔やみの場では使いません。代わりに「逝去」「ご永眠」と言い換えます。詳しい言葉選びは身近な人が亡くなった時にかける言葉を参考にしてみてください。
LINEやメールで先に連絡する場合
仮通夜に伺えない場合、まずは電話かLINEで一報を入れる。「このたびは突然のことで、ご家族の皆様もお辛いことと思います。本通夜には必ず伺います」程度の短い文面で十分です。返信を期待しない、お悔やみの言葉のみを送る、これが鉄則。
スタンプは使わない、絵文字も使わない。普段はカジュアルなやり取りをしている相手でも、訃報の連絡だけは丁寧な文面で送る。これだけは守ってください。
仮通夜が行われない場合もある|現代の変化
最近は仮通夜を行わない家が増えています。理由はいくつかあって、一つは家族葬や直葬の普及。儀式そのものを簡素にする流れの中で、仮通夜という慣習も省略される。もう一つは安置施設の事情で、面会時間が決まっていて夜通し付き添えないケース。さらに、コロナ禍以降「人を集めない」感覚が定着したことも大きい。
うちで担当する案件でも、ご逝去から本通夜までの間は安置施設に故人をお預けして、ご家族は自宅で休む、というパターンが半数以上。仮通夜を「やる・やらない」はご家族の判断で、やらなくても失礼にはなりません。
逆に、地方や旧家では今でも自宅で枕経を上げて、親族が一晩中付き添う伝統的な仮通夜が残っている地域もあります。同じ「仮通夜」という言葉でも、地域や家ごとに中身がまったく違うので、案内を受けたら必ずご遺族または葬儀社に確認するのが安全です。
直葬・家族葬の場合の仮通夜
通夜・告別式を行わない直葬の場合、仮通夜という概念自体がなくなることが多い。火葬当日の朝に集まって、短時間お別れをして火葬場へ向かう、というシンプルな流れになります。家族葬の場合も、本通夜を簡略化したり省略したりするので、仮通夜と本通夜の境界が曖昧になりがち。
呼ばれた側としては、「これは仮通夜なのか、本通夜なのか、お別れ会なのか」を案内文や電話で確認する。香典の有無、服装の指定、参列の可否を素直に聞いてしまうのが一番。聞くのは失礼ではなく、むしろご遺族の意向に沿いたいという誠意の表れです。
よくある質問
Q1. 仮通夜と本通夜、両方に参列するのは普通ですか?
近しい親族(配偶者、子、兄弟姉妹、孫など)は両方に参列するのが一般的です。それ以外の親族や友人・知人は、仮通夜は遠慮して本通夜から参列するのが基本。両方に出る場合、香典は本通夜で一度だけ渡せば問題ありません。
Q2. 仮通夜に喪服で行くと「気合いが入りすぎ」と思われますか?
喪服で行っても失礼にはなりませんが、家族水入らずの場では少し堅苦しい印象を与えることもあります。地味な平服(黒や紺の落ち着いた服装)であれば十分。ただし、仕事帰りなどで喪服しか手元にない場合は、そのままで構いません。服装の形式よりも、駆けつけてくれた気持ちの方をご遺族は受け取ってくれます。
Q3. 仮通夜に子どもを連れて行ってもいいですか?
故人の孫や曾孫であれば連れて行って構いません。ただし、長時間の滞在は避けて、お線香を上げて手を合わせたらすぐに別室へ。乳幼児が泣いてしまうとご家族の負担になるので、可能であれば留守番をお願いするのも選択肢です。子どもの服装は学校の制服か、黒・紺・グレーの地味な普段着で十分です。
Q4. 仮通夜にお供え物(お菓子や果物)を持って行くべき?
仮通夜の段階では、お供え物も基本的に不要です。本通夜や告別式の祭壇には正式な供物・供花が並ぶので、個別に持参してもかえって置き場所に困らせてしまう。どうしても何か届けたい場合は、後日改めて初七日や四十九日のタイミングで供物を送る方が、ご遺族にも喜ばれます。
Q5. 仮通夜の案内が来ましたが、遠方で参列できません。失礼になりますか?
失礼にはなりません。仮通夜は身内の場とはいえ、参列できる人だけが集まればいいもの。電話やメールでお悔やみの言葉を伝え、本通夜・告別式にも伺えない場合は、後日弔問するか、香典を現金書留で郵送する方法があります。気持ちが届けば形式は問われません。
Q6. 仮通夜で僧侶が来た場合、どう振る舞えばいいですか?
地域や宗派によっては仮通夜で「枕経(まくらぎょう)」を上げてもらうことがあります。その場合は、僧侶の読経の間は静かに合掌して聞く。読経後にお茶を出すのが慣習で、お布施は別途用意します。詳しいお布施の金額は通夜・告別式・戒名料の相場記事を参考にしてください。
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