先月、49歳の男性のお見送りを担当しました。透析を始めて8年目。奥様が「主人は最後まで、子どもが大学を出るまでは死ねないって、週3回の透析に通ってたんです」と話してくれました。その言葉が今も耳に残っています。
葬祭の仕事を20年やっていると、透析患者さんとそのご家族に出会う機会が本当に多い。日本透析医学会の2023年末のデータでは、国内の透析患者は約34万9000人。1日あたり全国で約900人が新たに透析を導入してます。決して他人事ではない数字です。
40代で透析が始まったとき、何が起きるのか。仕事は続けられるのか。余命はどのくらいで、家族にはどんな準備が必要なのか。今日は現場で家族と向き合ってきた立場から、ネットの平均値だけでは見えてこない部分を書きます。
人工透析を始めた人の平均余命は実際どのくらいか
透析を始めた患者さんの平均余命は、よく「健常者の半分くらい」と言われます。日本透析医学会の統計資料を見ると、透析導入時の年齢別に5年生存率・10年生存率が出ています。40歳で透析を始めた場合、5年生存率は約88%、10年生存率は約73%、20年生存率でも50%を超えます。
つまり40代で導入したからといって、すぐに死を覚悟する話ではない。20年、30年と透析を続けながら生きている方は本当に多いです。私の知り合いでも、35歳で透析を始めて今70代という方が普通にいます。
年代別の生存率データ
| 導入時年齢 | 5年生存率 | 10年生存率 | 20年生存率 |
|---|---|---|---|
| 40〜44歳 | 約88% | 約73% | 約52% |
| 50〜54歳 | 約78% | 約58% | 約30% |
| 60〜64歳 | 約65% | 約40% | 約12% |
| 70〜74歳 | 約48% | 約20% | ー |
注意したいのは、これはあくまで全体平均だということ。糖尿病性腎症が原因か、慢性糸球体腎炎が原因か、合併症の有無、心血管疾患の状態などで個人差が大きく出ます。糖尿病が原因の場合は心臓や血管へのダメージが進んでいることが多く、生存率はやや下がる傾向があります。
あと大事なのは、このデータは過去に透析を始めた人の追跡結果だということ。透析機器も水質管理も、薬剤も年々進化しています。今40代で導入する人が10年後、20年後にどうなっているかは、過去のデータより良い方向に行く可能性が十分あります。
死因として多いのは「心不全」と「感染症」
透析患者さんの死因で最多は心不全(約23%)、次いで感染症(約21%)、悪性腫瘍(約9%)、脳血管障害(約5%)と続きます。腎不全そのものより、長年の透析で心臓と血管に負担がかかることで命に関わるケースが多いんですね。
逆に言えば、心血管系の管理を徹底し、感染症を予防し、塩分・水分・カリウム・リンの食事管理をきっちりやっていれば、寿命を縮めずに済む可能性が高い。透析は「腎臓の代わり」をしてくれるだけで、他の臓器を守るのは自分自身の生活習慣だということです。
40代で透析が始まると生活はどう変わるか
透析には大きく分けて血液透析と腹膜透析があります。日本では9割以上が血液透析。週3回、1回4時間程度、病院やクリニックの透析室に通います。月・水・金、または火・木・土が一般的なスケジュールです。
40代の現役世代にとって、これは本当に大きな生活変化です。週3回×半日(移動と前後の処置を含めると実質5〜6時間)が固定で潰れる。20年透析を続ければ、累計でおよそ1万5千時間以上を透析室で過ごす計算になります。
食事制限がきつい
透析患者さんに話を聞くと、一番きついと口を揃えるのが食事制限です。具体的には次のような制限がかかります。
- 水分は1日500〜800ml程度(スープや果物の水分も含む)
- 塩分は1日6g未満
- カリウムは生野菜・果物を制限(バナナ・キウイ・メロンはほぼNG)
- リンを抑えるため加工食品・乳製品を制限
- たんぱく質も摂りすぎず、しかし足りなくなり過ぎないバランスが必要
外食はまず難しい。居酒屋でビールをジョッキで、というのも厳しい。お祝い事の席で「みんなと同じものが食べられない」のは精神的に堪える、と多くの方が言います。
シャント(透析用血管)の管理
血液透析では腕に「シャント」と呼ばれる血管をつくります。動脈と静脈をつないで太い血管にすることで、毎回大量の血液を取り出せるようにする手術です。このシャント側の腕では、血圧を測ったり重い物を持ったりできません。腕時計もきつめのものは避ける必要があります。
シャントが詰まったり感染したりすると、緊急で再建手術が必要になります。透析患者さんにとってシャントは「命綱」。風呂上がりに毎回触って血管の振動(スリル)を確認する習慣がつきます。
疲労感と「透析後ダウン」
透析を終えた直後は、血圧低下や脱水感で動けなくなる人が多いです。「透析の日はもう仕事にならない」「帰ったら寝るだけ」という声をよく聞きます。年単位でこれが続くと、心の余裕も削られていく。
ただし、若くて体力のある40代なら、透析後すぐに仕事に戻れる人もいます。個人差が非常に大きい部分です。
透析を受けながら仕事を続けられるか
結論から言うと、続けられます。日本透析医会の調査では、透析患者の就労率は約30%前後。これだけ見ると少なく感じますが、患者の高齢化を考慮すると、現役世代に絞れば6割以上が何らかの形で働いてます。
ただし、フルタイムで以前と全く同じように、というのは難しい場合が多い。週3回×半日の通院をどう確保するかが、仕事との両立の最大のテーマになります。
夜間透析という選択肢
現役世代に強い味方が「夜間透析」です。仕事終わりの18時頃から22時頃まで透析を受け、帰宅して寝る。これなら勤務時間を削らずに済みます。都市部のクリニックを中心に、夜間透析を実施している施設が増えています。
転居や転勤がある場合は、新天地に夜間透析対応の施設があるかが死活問題になります。日本透析医会のウェブサイトで施設検索ができるので、引っ越し前に必ずチェックしておきたい。
在宅血液透析・腹膜透析という選択肢
もう一つの選択肢が在宅透析です。在宅血液透析は自宅に透析装置を設置し、家族の介助のもとで自分で行う方法。腹膜透析は腹膜に管を入れて、就寝中に自動で透析液を交換する方法(APD)が主流です。
腹膜透析の利点は通院が月1〜2回で済むこと。働き盛りには大きい。ただし腹膜炎のリスクがあること、腹膜の機能には年数の限界(おおむね5〜8年)があり、結局血液透析へ移行することが多い、というデメリットもあります。
会社にどう伝えるか
透析導入が決まったら、上司・人事には早めに伝えた方がいい。これは私が現場で多くの患者家族と話してきた実感です。隠したまま週3回の早退を続けるのは無理があるし、後で発覚した方が職場の信頼を失います。
透析患者は身体障害者手帳1級が交付されます(後述)。これにより、企業側は障害者雇用としてカウントできる場合があり、配慮を引き出しやすい。「迷惑をかける」ではなく「制度を使って働き続ける」というスタンスで話せると、お互い前向きになれます。
働き続ける覚悟と並行して、もし何かあったときの備えも考えておきたい。40代から始めるプレ終活として、家族への情報共有や資産整理を進めておく方が、本人も家族も安心できます。
身体障害者手帳1級と医療費助成の申請
透析が始まると、ほぼ自動的に身体障害者手帳1級(腎臓機能障害)が交付されます。これがあるかないかで、生活コストが大きく変わります。導入が決まったら、できるだけ早く申請したい。
申請の流れ
- 主治医に「身体障害者診断書・意見書」を書いてもらう(指定医のみ作成可)
- 住んでいる市区町村の障害福祉課に申請書類を提出
- 1〜2ヶ月後に手帳が交付される
診断書の作成料は5000〜1万円程度かかりますが、自治体によっては助成があります。透析導入の予定が決まった時点で、主治医に「手帳の申請を進めたい」と伝えれば、適切なタイミングで書類を準備してくれます。
「特定疾病療養受療証」も必須
透析の医療費は本来、月40万〜50万円かかります。そのままだと自己負担3割でも月12万〜15万円。これを月1万円(高所得者は2万円)に抑えてくれるのが「特定疾病療養受療証」です。健康保険組合や協会けんぽに申請します。
さらに障害者手帳1級があれば、自治体の「重度心身障害者医療費助成」で残りの自己負担分もほぼゼロになる地域が多いです。自治体によって所得制限の有無や対象範囲が違うので、市役所の窓口で確認してください。
手帳1級で受けられるその他の支援
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 所得税・住民税 | 障害者控除(27万円〜40万円) |
| 自動車税 | 減免(自治体により全額または一部) |
| JR運賃 | 本人と介護者が5割引 |
| NHK受信料 | 世帯条件により全額または半額免除 |
| 携帯電話料金 | 各社の障害者割引プラン |
| 有料道路通行料 | 本人運転または同乗で5割引 |
細かい話に見えますが、20年30年と続けば総額で数百万円の差が出ます。使える制度は遠慮なく使う、という気持ちで申請してほしい。
障害年金も必ず申請を
意外と見落とされがちなのが障害年金です。透析を受けている人は、原則として障害年金2級に該当します。厚生年金加入中に初診日があれば、厚生年金の2級が受給できる可能性が高い。
金額の目安は次の通り(2024年度)。
- 障害基礎年金2級:年間約81万円
- 障害厚生年金2級:年収・加入期間により上乗せ(平均的なケースで年間50〜100万円程度)
- 配偶者・子の加算もあり
透析を始めて1年6ヶ月経過した時点(または初診日から1年6ヶ月経過時点)が「障害認定日」となり、ここから請求できます。請求が遅れても5年分は遡って受給可能ですが、それより前は時効で消えてしまう。導入から1年半経ったら、すぐ社会保険労務士か年金事務所に相談してほしい。
申請書類はかなり複雑です。「病歴・就労状況等申立書」は時系列で病気の経過を書く必要があり、初診日の証明も必要。一人で抱え込まず、年金専門の社労士に相談料を払ってでも依頼した方が確実です。成功報酬で年金額の2ヶ月分程度が相場。
家族と話しておくべきこと
これは葬祭の現場で何度も痛感してきた話です。透析患者さんが急変したとき、家族が「本人の希望が分からなくて」と立ち往生するケースが本当に多い。
「透析を続けるか中止するか」の意思表示
長年透析を続けていると、心臓や血管の状態が悪化して、透析自体が体に大きな負担になる時期が来ます。意識がはっきりしているうちなら本人が判断できますが、認知機能が落ちたり意識がなくなったりすると、家族が「続けるか、中止して看取りに入るか」の重い決断を迫られます。
日本透析医学会も「透析の見合わせ」についてのガイドラインを2020年に出しています。本人が事前に意思表示しておくことが望ましいとされる。元気なうちに家族と話しておくことが、本当の意味での思いやりだと私は思ってます。
エンディングノートで残しておくこと
- 延命治療をどこまで希望するか(人工呼吸器、心臓マッサージ、経管栄養)
- 透析中止の判断を誰に委ねるか
- 葬儀の形式と規模の希望
- 銀行口座・保険・年金の情報
- 家族に伝えたい言葉
難しい話を切り出しにくい気持ちは分かります。でも「もしものとき、あなたが困らないように書いておくね」と伝えると、家族は安心します。エンディングノートの書き方を参考にしながら、少しずつ埋めていけば十分です。
葬儀費用と保険の準備
透析患者さんは生命保険に新規加入するのが難しいです。導入前に入っていた保険を解約しないことが鉄則。もし無保険なら、葬儀費用相当を貯金で確保しておきたい。
規模を抑えたいなら家族葬や直葬(火葬式)という選択肢もあります。費用相場は直葬で20万〜30万円、家族葬で80万〜150万円程度。本人が望む形と、家族が無理なく出せる金額のすり合わせを生前にしておくと、いざというとき揉めずに済みます。
在宅療養になったときの家族の役割
透析患者さんが高齢になったり、合併症で体が弱ったりすると、通院透析が難しくなる時期が来ます。送迎介助、自宅での食事管理、薬の管理、シャントの観察。家族の負担は確実に増えていきます。
介護保険を早めに使う
透析患者は40歳以上なら介護保険を申請できます(特定疾病として)。要介護認定が出れば、送迎付きデイサービスや訪問看護を使える。家族が仕事を辞めなくても在宅療養を続けられるかどうかは、ここで決まります。
「まだそこまでじゃない」と思っているうちに申請しておくのがコツです。認定には1ヶ月かかるので、必要になってから申請では間に合わないことが多い。
看取りが近づいたサイン
透析を長年続けてきた方の最期は、心不全による呼吸苦、感染症からの敗血症、脳血管障害による意識障害などが多いです。透析中の急変、透析後の体調悪化が増えてきたら、家族としても心の準備を始めたい。臨終が近い時の兆候を知っておくと、最期に慌てずに済みます。
透析の中止を選択した場合、おおむね1〜2週間で穏やかに亡くなる方が多いとされています。痛みのコントロールは緩和ケアで対応できる。本人の苦しみを最小限にしながらお見送りする方法は、現代の医療で確立されてます。
透析患者として20年生きた人の実例
過去に担当した方のケースを、ご家族の了解を得て紹介します(個人が特定されないよう一部改変しています)。
父は42歳で透析が始まり、67歳で亡くなりました。25年間、週3回の透析を一度も休まなかった。会社員として60歳まで勤め上げ、定年後も孫の世話をして、私たちと旅行にも行きました。最後の3年は心臓が弱って、ベッドに座って透析を受けるのもしんどそうでしたが、本人は「ここまで生きられたら十分だ」と笑ってました。
このご家族が私に教えてくれたのは、透析は「死を待つ治療」ではなく「生きるための治療」だということ。25年間、お父様は普通に父親として、夫として、おじいちゃんとして家族の中に居続けた。それは透析という技術と、本人の覚悟と、家族の支えがあったからこそです。
葬儀の打ち合わせのとき、お母様が「お父さん、最後まで諦めなかったね」と棺の中の旦那様に声をかけている姿が忘れられない。透析を続けるって、こういうことなんだなと思いました。
よくある質問
Q1. 40代で透析を始めたら、あと何年生きられますか?
日本透析医学会のデータでは、40代で導入した場合の10年生存率は約73%、20年生存率は約52%です。25年、30年と透析を続けて天寿を全うされる方も珍しくありません。糖尿病性腎症が原因の場合はやや短くなる傾向がありますが、心血管管理と食事管理を徹底することで延命は十分可能です。あくまで統計上の数字なので、個人差が大きいことを理解してください。主治医と相談しながら自分の状態を把握することが何より大切です。
Q2. 透析を受けながらフルタイムで働けますか?
夜間透析や腹膜透析を選べばフルタイム勤務は十分可能です。実際、40代の透析患者さんで会社員として働き続けている方は多くいます。鍵は職場との情報共有と、自分の体力に合った働き方を見つけることです。身体障害者手帳1級が交付されるので、障害者雇用としての配慮を求めることもできます。出張や夜勤の多い職種は調整が必要ですが、デスクワーク中心なら大きな問題なく続けられるケースがほとんどです。
Q3. 透析の医療費は月いくらかかりますか?
本来は月40万〜50万円ですが、「特定疾病療養受療証」を申請すれば自己負担は月1万円(高所得者は2万円)に抑えられます。さらに身体障害者手帳1級と自治体の重度心身障害者医療費助成を併用すれば、自己負担分もほぼゼロになる地域が多いです。透析導入が決まったら、すぐに健康保険組合と市区町村役場に申請してください。手続きが遅れると、その分だけ自己負担が発生してしまいます。
Q4. 障害年金はいつから受給できますか?
初診日から1年6ヶ月経過した時点(または透析開始時点のいずれか早い方)が障害認定日となり、ここから請求できます。透析患者は原則として障害年金2級に該当します。請求が遅れた場合でも5年分は遡って受給できますが、それより古い分は時効で消えます。導入から1年半経ったら、すぐに年金事務所か社労士に相談してください。書類が複雑なので、年金専門の社労士に依頼する方が確実です。
Q5. 透析を中止する選択肢はありますか?
あります。日本透析医学会が2020年に「透析の開始と継続に関する意思決定プロセスについての提言」を発表しており、本人の意思を尊重した上で透析を見合わせる選択が認められています。心臓や血管の状態が悪化して透析自体が大きな負担になった場合、また本人が苦痛から解放されたいと望む場合に、家族と医療者の合意のもとで中止することが可能です。元気なうちに家族と話し合い、エンディングノートなどに意思を残しておくことが大切です。
Q6. 生命保険に新たに入れますか?
透析導入後は通常の生命保険には加入が難しいです。「引受基準緩和型」や「無選択型」の保険であれば加入できる場合もありますが、保険料が高く、保障内容も限定的です。透析を始める前に入っていた保険は絶対に解約しないでください。万が一のために、葬儀費用相当(最低でも100万円程度)を別途貯金で準備しておくことをおすすめします。




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