朝、いつもの時間に起きてこない父親を見に行ったら、布団の中で冷たくなっていた。20年この仕事をしていて、こういう一報を受けた遺族から「あの時どうすればよかったのか分からなかった」と泣かれたことが何度もあります。
救急車を呼んだのか、警察を呼んだのか。それだけで、その後の数時間がまったく違うものになります。検視が入れば自宅に警察官が長時間滞在し、ご遺体を触ることも動かすことも許されない。一方、かかりつけ医を呼べば30分ほどで死亡診断書が出て、すぐに葬儀の準備に入れる。
この差を知っているかどうかで、遺族の最初の数時間の負担は段違いに変わります。今日は、自宅で家族が亡くなっているのを見つけた瞬間に何をすべきか、現場でずっと遺族のそばにいてきた立場から、できるだけ具体的に書いていきます。
最初の判断:救急車か、警察か、かかりつけ医か
家族が動かない、息をしていないと気づいた瞬間、頭が真っ白になります。それでも、最初の電話を間違えないことが、あとの流れを大きく左右します。判断の軸はシンプルで、「まだ助かる可能性があるか」「持病で通院している医師がいるか」の二点です。
体に温かみがある、呼吸が浅くてもしている、心臓マッサージで反応がありそうだと感じたら、迷わず119番です。死亡を確認するのは医師の仕事であって、家族が「もうダメだ」と判断する必要はありません。判断に迷ったら救急車を呼ぶ、これが原則です。
一方、明らかに体が冷たく硬くなっていて、しかも生前から定期的に診てもらっているかかりつけ医がいる場合は、救急車ではなくそのかかりつけ医に直接電話します。在宅医療を受けていた方なら、24時間対応の連絡先が必ず渡されているはずです。
判断に迷う典型的なケース
「持病はあるけど、最近は病院に行ってなかった」「かかりつけ医はいるけど夜中で連絡がつかない」、こういう中間的なケースが一番悩ましいです。連絡がつかない時は救急車でかまいません。救急隊員が現場で死亡と判断すれば、そこから警察に引き継がれる流れになります。
大事なのは、自分一人で「もう死んでいる」と決めつけて何時間も放置しないこと。発見時刻と通報時刻があまりに離れていると、それだけで警察から疑いの目で見られることがあります。
| 状況 | 連絡先 | その後の流れ |
|---|---|---|
| 呼吸あり・意識なし | 119番(救急車) | 救命処置、病院搬送 |
| 明らかに死亡・かかりつけ医あり | かかりつけ医 | 往診→死亡診断書発行 |
| 明らかに死亡・かかりつけ医なし | 119番または110番 | 検視・検案へ |
| 事故・自殺・不審死の疑い | 110番(警察) | 検視・場合により司法解剖 |
| 判断に迷う | 119番 | 救急隊が現場判断 |
かかりつけ医がいる場合の流れ
在宅で看取りを進めていた家庭なら、ここがいちばん穏やかな流れになります。私が担当した90代の女性のケースでは、家族から連絡を受けたかかりつけ医が40分ほどで到着し、聴診と瞳孔確認をして、その場で死亡診断書を書いてくださいました。家族が悲しむ時間を持てるよう、医師も看護師も声をかけながら静かに進めてくれました。
かかりつけ医が往診で死亡を確認できる条件は、医師法第20条で定められています。生前24時間以内に診察していたか、または継続的に診療していた病気で亡くなったと医師が判断できる場合です。逆に言えば、ここに当てはまらないと、たとえかかりつけ医でも警察に届け出る義務が出てきます。
死亡診断書を受け取った後にやること
死亡診断書が出れば、そこから先は通常の葬儀手配と同じです。葬儀社に連絡して遺体搬送を依頼し、安置場所を決めます。あわせて役所への死亡届提出(7日以内)、火葬許可証の取得と進んでいきます。臨終から火葬までの全体の流れをあらかじめ把握しておくと、頭の整理がしやすくなります。
診断書は原本が1枚しか発行されません。死亡届の提出、生命保険の請求、年金停止、銀行の手続きなど、何度もコピーが必要になります。コンビニで10枚ほどコピーを取っておくと安心です。
かかりつけ医がいない・連絡がつかない場合の警察対応
ここからが、多くの遺族が戸惑うところです。普段から病院に通っていなかった親が突然自宅で亡くなった、夜中で誰にも連絡がつかない、こういう場合は「異状死」として警察の検視が入ります。検視は犯罪性の有無を確認するための手続きで、決してご遺族を疑っているわけではありません。
110番で通報すると、最寄りの交番から警察官が複数名来ます。さらに鑑識、刑事課、検視官、警察医が順に到着し、家の中はしばらく騒然とした状態になります。狭いアパートだと10人以上の警察関係者が出入りする光景は、遺族にとって精神的な負担が大きいです。
警察が到着するまで絶対にやってはいけないこと
これは何度でも強調したいのですが、警察が来るまで、ご遺体を動かしてはいけません。布団から下ろさない、着替えさせない、顔を拭かない、汚物の処理もしない。「綺麗にしてあげたい」という気持ちは痛いほど分かりますが、現場を保存しないと検視が長引き、最悪の場合は司法解剖になります。
同じく、部屋の片付け、薬の整理、遺品の移動、これらもすべて禁止です。「散らかってるから恥ずかしい」と思っても、そのままにしてください。警察官に「綺麗にしすぎている」と思われると、かえって時間がかかります。
- ご遺体に触らない、動かさない
- 服を着替えさせない
- 顔や体を拭かない
- 部屋を片付けない、掃除しない
- 薬や薬袋を捨てない、隠さない
- 窓を開けない、エアコンの温度を変えない
- 写真撮影もしない
検視・検案の流れと所要時間
警察が到着すると、まず現場の保全と聞き取りが始まります。発見した時の状況、生前の健康状態、最後に話したのはいつか、持病や服薬の有無、家族関係まで、かなり細かく聞かれます。1〜2時間は覚悟してください。
その後、警察医による検案が行われます。体表の観察、傷の有無、薬の使用痕、死後変化などを確認し、犯罪性がないと判断されれば「死体検案書」が発行されます。死亡診断書と検案書は様式がまったく同じで、書く人が違うだけです。
検案で済むケース、解剖になるケース
多くの場合は、現場の検視と検案だけで終わります。私が担当してきた在宅死のケースでも、検案だけで済んだのが体感で8割ほど。残りの2割は、死因がはっきりしない、外傷がある、薬物の関与が疑われるなどで行政解剖や承諾解剖に進みます。司法解剖(犯罪性が疑われる場合)になることはまれです。
解剖になった場合、ご遺体は警察署または大学病院に運ばれ、戻ってくるまで1〜3日かかります。この間、葬儀社は遺体安置の準備をして待つことになります。安置施設の利用料は1日1万円前後が相場で、解剖が長引けばその分費用も増えます。
検案料・解剖費用の負担
気になるのが費用です。検案料は地域差がありますが3万円〜10万円ほど。死体検案書の発行料も別途5,000円〜2万円程度かかります。行政解剖になると遺族の負担はなく自治体持ちになることが多いですが、承諾解剖の場合は10万円以上の自己負担が出ることもあります。
このあたりは、その場で警察医や葬儀社に確認してください。自治体によって運用がかなり違います。
遺体引き取りから葬儀手配までの段取り
検視・検案が終わって警察から「お引き取りください」と言われた瞬間、急に現実が押し寄せてきます。ここからは葬儀社の出番です。事前に決めていれば連絡一本で30分〜1時間で寝台車が到着しますが、決まっていないと、警察から提携業者を紹介されて、勢いで契約してしまうケースが多発します。
警察経由で紹介される葬儀社が悪いとは言いませんが、相場より割高な見積もりが出てくることが正直あります。可能なら、深夜でも構わないので自分で2社ほど見積もりを取ってから依頼するのがいいです。格安葬儀社の比較記事でも書きましたが、24時間対応の葬儀社なら深夜でも電話で概算を出してくれます。
遺体搬送と安置場所の選択
検案後のご遺体は、自宅にそのまま安置するか、葬儀社の安置施設に運ぶかを選びます。マンションやエレベーターのない集合住宅だと、自宅安置が物理的に難しいこともあります。遺体安置の期間と費用については別記事でも詳しく書いているので、合わせて確認しておくと判断しやすいです。
火葬まで通常3〜4日かかります。友引や火葬場の混雑で1週間近く待つこともあり、その間の安置料が積み上がっていきます。
事前準備でその後の負担が9割減る
20年現場にいて思うのは、自宅死で最も負担が重くなる遺族は、何の準備もしていなかったご家庭です。逆に、ある程度親の健康状態や葬儀の希望を共有していたご家庭は、悲しみの中でも段取りよく動けます。
親が高齢になったら、最低でも以下の情報は家族で共有しておいてほしいです。これだけで自宅で亡くなった時の混乱が大きく減ります。
- かかりつけ医の名前と連絡先(夜間休日含む)
- 持病と服薬中の薬の一覧
- 健康保険証・介護保険証の保管場所
- 本人が希望する葬儀の規模・宗派
- 葬儀社の候補と連絡先(2社以上)
- 菩提寺がある場合はその連絡先
これらをまとめて書いておく場所として、エンディングノートが便利です。市販のものでも、自治体が配布しているものでもかまいません。書き方の具体例はエンディングノートの書き方を参考にしてください。
危篤の段階で動けることもある
余命宣告や在宅看取りに入っている段階なら、亡くなる前にやれる準備があります。葬儀社の事前相談は無料で受けられますし、見積もりを取っておくだけでも、いざという時の判断が早くなります。家族が危篤になった時のチェックリストも合わせて読んでおくと、心の準備につながります。
独居の親が自宅で亡くなった場合
一人暮らしの親と離れて住んでいて、安否確認の電話に出ないので訪ねてみたら亡くなっていた、というケースも増えています。この場合、発見者である家族はまず冷静になって、その場で警察に通報してください。たとえ自分の親でも、第一発見者として一通り事情聴取を受けることになります。
到着が遅れて死亡推定時刻から時間が経っていると、検視がより慎重に行われます。最後に連絡を取った日時、合鍵を持っているのは誰か、最近の体調はどうだったか、こうした情報を求められます。スマホに残っている通話履歴やLINEのやりとりも、状況証拠として役立ちます。
独居高齢者の安否確認サービスや見守り体制を整えておくと、こういう事態を減らせます。地域包括支援センターでも相談に乗ってくれるので、親が一人暮らしのご家庭は早めに動いてください。
心のケアと、後悔を抱え込まないために
自宅で家族が亡くなっているのを発見した経験は、何年経っても忘れられないと多くの遺族が話してくれます。「もっと早く気づいていれば」「あの時電話を一本入れていれば」、こういう自責の念に長く苦しむ方がいます。
でも、20年見てきて思います。家で家族に看取られながら逝けるというのは、本人にとっては病院で管だらけで亡くなるより、ずっと安らかなことが多いんです。最後の瞬間に立ち会えなかったことを責めなくていい。発見が遅れたことも、責めなくていい。
悲しみが落ち着かない時は、グリーフケアの専門家に相談する道もあります。一人で抱え込まないでください。
よくある質問
Q1. 救急車を呼んでから「もう亡くなっています」と言われたら、その後どうなりますか?
救急隊員には死亡確認の権限がないので、明らかに死後時間が経っている場合は、その場から警察に連絡を回してくれます。救急隊員が立ち会ってくれるので、最初の一人で警察を待つ怖さは多少和らぎます。かかりつけ医の連絡先が分かるなら、隊員に伝えてください。状況によっては救急車から医師に連絡を取ってくれます。
Q2. 警察の検視を受けると、自宅は事件現場として封鎖されますか?
犯罪性が疑われない通常の自宅死では、家の封鎖はありません。検視中はその部屋に立ち入りを制限されますが、検案が終わってご遺体が引き取られた後は、普通に生活に戻れます。司法解剖になるような特殊なケースだけ、現場保存のため一定期間立ち入りが制限されることがあります。
Q3. 検案で死因が「不詳」と書かれることはありますか?
あります。高齢の方の自然死で外傷も病歴の特定もできない場合、「不詳の死」と記載されることがあります。これは犯罪を疑われているわけではなく、医学的に断定できないという意味です。死亡届の受理や保険金請求に影響することはほぼありませんが、保険会社によっては追加書類を求められることがあるので、事前に確認してください。
Q4. 自宅で亡くなった後、自宅葬はできますか?
できます。検案や検視で犯罪性なしと判断されれば、ご遺体を自宅に安置したまま自宅葬を行うのは何の問題もありません。ただし夏場はドライアイスの量が増えるので費用が上がりますし、近隣への配慮も必要です。マンションだとエレベーターでの棺の搬出が難しいケースもあるので、葬儀社と事前に動線を確認してください。
Q5. 警察が来るまでに、家族で何か話すことや決めておくことはありますか?
無理に何かを決める必要はありません。ただ、警察から「葬儀社は決まっていますか」と必ず聞かれるので、心当たりの葬儀社がない場合は、待ち時間にスマホで2〜3社調べておくと後が楽になります。あとは、遠方の親族への第一報を入れるかどうか。検案には数時間かかるので、その間に主要な親族にだけ「亡くなったこと」を伝えておくと、葬儀準備がスムーズに進みます。
Q6. 死後数日経って発見された場合、火葬まで時間がかかりますか?
検案と必要に応じた解剖、書類手続きの分、通常より1〜3日長引くことが多いです。ご遺体の状態によっては特殊な安置や納棺処置が必要になり、費用面でも追加が出ます。エンバーミングや特殊清掃が絡むケースもあるので、対応経験のある葬儀社を選ぶことが大事です。




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