「葬祭ディレクター」という仕事に、どのようなイメージをお持ちでしょうか?
映画『おくりびと』の影響もあり、厳かで静かな儀式を行う人という印象が強いかもしれません。しかし、実際の現場は、悲しみに暮れるご遺族の心を支える「グリーフケア」の側面と、限られた時間の中で完璧な式典を作り上げる「イベントプロデューサー」の側面を併せ持つ、非常にダイナミックな仕事です。
この記事では、現役の視点を交えながら、葬祭ディレクターの具体的な仕事内容、リアルな1日のスケジュール、そしてこの仕事ならではのやりがいと厳しさについて、どこよりも詳しく解説します。
これから葬儀業界への転職を考えている方、仕事内容を深く知りたい方は、ぜひ最後までご覧ください。
葬祭ディレクターとは?役割とミッション
葬祭ディレクターとは、一言で言えば「お葬式の総監督(プロデューサー)」です。
ご臨終の直後からご遺族に寄り添い、葬儀のプランニング、会場の設営、当日の進行、そして式後の法要サポートまで、一貫して担当します(分業制の会社もあります)。
「納棺師」や「セレモニースタッフ」との違い
よく混同されがちですが、役割には明確な違いがあります。
- 葬祭ディレクター:
葬儀全体の企画・運営・進行管理を行う責任者。ご遺族との打ち合わせや見積もり作成も担当します。 - 納棺師(のうかんし):
ご遺体の処置(着せ替え、死化粧、湯灌)に特化した専門職。ディレクターが兼任する場合もあります。 - セレモニースタッフ:
式当日の配膳、案内、焼香の誘導などを行うサポートスタッフ。パート・アルバイトの方が多く活躍しています。
葬祭ディレクターは、これらのスタッフを取りまとめ、指示を出す「司令塔」の役割を担います。
【フェーズ別】葬祭ディレクターの具体的な仕事内容
葬儀の仕事は、ご依頼の電話一本から始まります。ここからは、時系列に沿って具体的な業務を見ていきましょう。
1. 受注・搬送(お迎え)
ご家族や病院から「亡くなった」という連絡が入ると、寝台車を手配し、速やかにお迎えにあがります。これを「搬送業務」と呼びます。
病院からご自宅、あるいは葬儀会館の安置室までご遺体を搬送し、枕飾り(簡易的な祭壇)を設置して、お線香をあげられる状態に整えます。ご遺族は動揺されていることが多いため、まずは安心感を与える落ち着いた対応が求められます。
2. 打ち合わせ(プランニング)
葬祭ディレクターの腕の見せ所であり、最も重要な業務です。
通夜・告別式の日程や場所を決めるだけでなく、喪主様のご意向や予算をヒアリングし、最適なプランを提案します。
- 祭壇のデザイン(花の種類や色味)
- 棺、骨壺、返礼品、料理のグレード
- 宗教者(お坊さん等)への連絡確認
- 役所への死亡届の提出代行
単にカタログから選んでもらうのではなく、「故人様はどんなお人柄でしたか?」「最後に着せてあげたいお洋服はありますか?」といった会話から、その家族らしいお別れの形を引き出す傾聴力が不可欠です。
3. 準備・発注・設営
打ち合わせの内容に基づき、生花部、料理屋、返礼品業者など各所へ発注を行います。その後、式場にて祭壇の設営や椅子の配置、受付周りの準備を行います。
遺影写真の加工指示や、会葬礼状(お礼の手紙)の文面作成、BGMの選定などもこの段階で行います。ミスが許されないため、ダブルチェックを徹底します。
4. 通夜・告別式の運営(施行)
いよいよ式本番です。葬祭ディレクターは司会進行を務めることもあれば、司会者を立てて全体の指揮(インカムでの指示出し)に回ることもあります。
焼香のタイミング、弔電の読み上げ順序、お寺様のご案内など、分単位のスケジュールを管理します。予期せぬトラブル(参列者が予想より多い、天候悪化など)にも冷静に対応する判断力が求められます。
5. アフターフォロー
葬儀が終わっても仕事は終わりではありません。四十九日法要の準備、仏壇・お墓の手配、香典返しの手配、相続相談の窓口紹介など、ご遺族が日常生活に戻るまでのサポートを継続します。
葬祭ディレクターの1日の流れ(モデルスケジュール)
葬儀の仕事は24時間365日動いているため、定時で終わる日は少なく、スケジュールは不規則になりがちです。
ここでは「通夜担当の日」と「告別式担当の日」のモデルケースをご紹介します。
【ケース1】通夜担当の日(午後からの勤務が多い場合)
- 10:00 出社・ミーティング
前日の引き継ぎ確認、当日の通夜の準備状況をチェック。 - 11:00 事務処理・発注業務
翌日の告別式に必要な料理や供花の最終確認。役所へ火葬許可証の申請へ行くことも。 - 13:00 昼休憩
時間が読めない仕事なので、取れる時にしっかり取ります。 - 15:00 会場設営・チェック
式場にて祭壇の生花の状態や、椅子の並び、受付用品の不足がないか確認。 - 16:00 ご遺族到着・打ち合わせ
早めに到着されたご遺族に、通夜の流れを説明(焼香の作法や挨拶のタイミングなど)。 - 17:00 受付開始・参列者対応
受付スタッフへの指示出し、参列者の誘導。 - 18:00 通夜開式
司会進行または全体統括。最も緊張感のある時間です。 - 19:00 通夜閉式・通夜振る舞い
お食事(通夜振る舞い)の席へ案内。配膳スタッフと連携。 - 20:30 片付け・明日の確認
翌日の告別式の流れをご遺族と最終確認して解散。 - 21:00 退社
【ケース2】告別式担当の日(早朝出勤の場合)
- 08:00 出社・会場最終チェック
弔電の並び順確認、式場の清掃状況チェック。 - 09:00 ご遺族対応
最後のお別れ(花入れ)の手順などを説明。 - 10:00 告別式開式
厳粛な雰囲気の中、式を進行します。 - 11:00 出棺
霊柩車へご遺体を乗せ、火葬場へ出発。最敬礼で見送ります。 - 12:00 火葬場での案内・精進落とし
火葬場へ同行し、収骨までの待機時間に食事(精進落とし)の世話をします。 - 14:00 収骨・帰館
お骨上げを行い、式場またはご自宅へ戻ります。 - 15:00 後飾り設置・集金
ご自宅に後飾り祭壇を設置し、葬儀代金の請求書説明を行うこともあります。 - 17:00 帰社・事務処理・翌日準備
片付けをして、報告書を作成。 - 18:00 退社
葬祭ディレクターの「年収・給与」のリアル
求職者の方が最も気になる「お金」の話です。
葬儀業界は一般的に「未経験でも比較的給与水準が高い」と言われています。
厚生労働省の統計や求人データを総合すると、正社員の平均年収は400万円〜600万円程度がボリュームゾーンです。
- 新人・未経験:月給23万〜28万円(年収300〜350万円)
- 中堅(3〜5年目):月給30万〜40万円(年収400〜500万円)
- ベテラン・管理職:月給45万円以上(年収600万円〜1000万円も可能)
給与が高い・低いが決まるポイント
葬儀社の給与体系は、会社によって大きく異なります。「基本給は低いが、手当が手厚い」というケースが多いため、求人票を見る際は以下の項目をチェックしてください。
- 夜勤手当・宿直手当:1回あたり5,000円〜15,000円程度。夜勤の回数で月収が5〜6万円変わることもあります。
- 担当手当(インセンティブ):「1件担当するごとに◯◯円」「売上の◯%」という歩合給がある会社では、頑張り次第で高収入が狙えます。
- 残業代:突発的な業務が多いため、残業は発生しやすいです。固定残業代(みなし残業)を超えた分がしっかり支給されるか確認しましょう。
この仕事の「やりがい」と「大変なこと」
葬祭ディレクターは感情の振れ幅が大きい仕事です。綺麗な面だけでなく、厳しい現実も知っておいてください。
やりがい:究極の「ありがとう」がもらえる
これが、多くの葬祭ディレクターが激務でも辞めない最大の理由です。
大切な人を亡くし、悲しみのどん底にいるご遺族から、式の終わりに「あなたのおかげで、いいお別れができました。本当にありがとう」と涙ながらに感謝される瞬間があります。
これほど深く、重みのある「ありがとう」を言われる仕事は、他にはなかなかありません。一生に一度の儀式を任される責任感と、無事に終えた時の達成感は格別です。
大変なこと:失敗が許されないプレッシャー
葬儀に「やり直し」はありません。焼香順位の間違い、名前の読み間違い、火葬時間の遅刻などは絶対にあってはならないミスです。この緊張感が常に付きまといます。
また、ご遺体の状態によっては、損傷が激しいケースや、腐敗が進んでいるケースに対応することもあります。精神的なタフさと、ご遺族の悲嘆(パニックや怒り)を受け止める受容力が必要です。
葬祭ディレクターに向いている人
特別な資格や学歴は必要ありませんが、適性は重要です。
- 「聴く力」がある人:話すことよりも、ご遺族の言葉にならない想いを汲み取る力が求められます。
- 臨機応変に動ける人:マニュアル通りにはいかないのが葬儀です。状況を見て自分で判断して動ける人が活躍します。
- 体力に自信がある人:祭壇の設営や棺の搬送など、意外と力仕事が多いです。
- 他人の悲しみに寄り添える人:ビジネスライクすぎず、かといって感情移入しすぎず、プロとして寄り添えるバランス感覚が必要です。
未経験から葬祭ディレクターになるには?
葬儀業界は慢性的な人手不足のため、未経験者の採用を非常に積極的に行っています。
「中途採用の8割が異業種から」という会社も珍しくありません。元営業職、元販売員、元ドライバーなど、様々な経歴の人が活躍しています。
必須の資格は?
入社時に必須の資格はありません。ただし、業務で車を使うことが多いため、「普通自動車運転免許(AT限定可)」はほぼ必須条件となります。
入社後に実務経験を積み、厚生労働省認定の「葬祭ディレクター技能審査(1級・2級)」を取得することで、給与アップやキャリアアップを目指すのが一般的なルートです。
まとめ:葬祭ディレクターは「人生を支える」プロフェッショナル
葬祭ディレクターの仕事内容について解説しました。
単なる「式の運営係」ではなく、ご遺族の悲しみを癒やし、新たな一歩を踏み出す手助けをする、社会的意義の非常に大きい仕事です。
不規則な勤務や精神的な負担はありますが、それ以上に「人の役に立っている」という実感をダイレクトに感じられる職業と言えるでしょう。
もし、あなたが「誰かのために一生懸命になれる仕事」を探しているなら、葬儀の仕事は天職になるかもしれません。まずは業界の求人情報をチェックして、実際の条件を見てみることから始めてみてはいかがでしょうか。



コメント