「お母様が今朝お亡くなりになりました。それで、お通夜は明日でよろしいでしょうか」。電話口でそう聞かれた喪主さんが、しばし黙り込む。私が現場で年間100件以上担当してきて、この沈黙には何度も立ち会ってきました。だいたい次に出てくる言葉は決まっています。「明日って、六曜は何ですか?」「火葬場、空いてますか?」。
葬儀の日取りは、たった2つの条件で大筋が決まります。六曜(特に友引)と、火葬場の空き枠。この2つさえ押さえれば、あとは菩提寺と親族の都合を合わせていくだけ。ただ、この「2つだけ」がやっかいなんです。地域によっては友引を絶対に避ける慣習が残っていて、火葬場は都市部だと1週間待ちもザラ。
この記事では、葬祭ディレクターとして20年現場に立ってきた私が、日取りを決める実際の手順を順を追ってお伝えします。六曜の意味、火葬場との交渉の裏側、安置が長引いたときの費用感まで、迷ったときの判断材料を全部まとめました。
葬儀の日取りは「逝去日+翌日通夜・翌々日葬儀」が基本形
まず大前提として、葬儀の日取りの基本形は決まっています。逝去当日に搬送・安置、翌日に通夜、翌々日に告別式と火葬。この「1泊2日」の流れが教科書通りの形です。
たとえば月曜の朝に亡くなったら、火曜の夜に通夜、水曜の昼に告別式と火葬。葬儀社の打ち合わせも、最初はこの基本形を前提に組んでいきます。私たちも「逝去日プラス2日」で仮押さえしておいて、そこから火葬場の空きと菩提寺の都合を確認していくのが普通です。
ただし、ここに六曜の問題が絡んできます。翌々日が友引だった場合、火葬場が休業日に当たることが多いんです。となると、葬儀の日を1日後ろにずらすしかなくなる。その1日のあいだ、ご遺体をどこに安置するか、追加費用がいくらかかるか、という話に発展していきます。詳しい安置の話は死亡からお通夜までの日数と火葬場の混雑状況でもまとめているので、合わせて確認しておくと安心です。
逝去から24時間は火葬できない法律がある
意外と知られていないんですが、墓地埋葬法という法律で、死亡確認から24時間は火葬してはいけないと決まっています。これは仮死状態からの蘇生例があった時代の名残で、現代でも法律として生きてる。
つまり、朝亡くなった方を当日中に火葬することはできない。最短でも翌日午前以降になります。「できるだけ早く送ってあげたい」という気持ちはわかりますが、ここは法律の壁があるとお伝えしておきます。
六曜とは?友引・仏滅・大安の意味をシンプルに解説
六曜(ろくよう)は、先勝・友引・先負・仏滅・大安・赤口の6つで構成される暦の考え方です。中国から伝わったとされ、明治以降に庶民の暦に広まりました。仏教とは本来まったく関係ないんですが、なぜか冠婚葬祭の現場では強く意識されています。
遺族から「友引はダメだって聞いたけど、仏滅はどうなんですか?」とよく聞かれます。結論から言うと、葬儀の世界で気にすべきは友引だけ。仏滅も赤口も、葬儀との関係では基本的に問題ありません。むしろ大安に通夜や葬儀を行うことも普通にあります。
| 六曜 | 本来の意味 | 葬儀での扱い |
|---|---|---|
| 先勝(せんしょう) | 午前は吉、午後は凶 | 問題なし |
| 友引(ともびき) | 勝負つかず、引き分け | 通夜は可、告別式・火葬は避ける慣習 |
| 先負(せんぶ) | 午前は凶、午後は吉 | 問題なし |
| 仏滅(ぶつめつ) | 万事に凶 | 問題なし(葬儀OK) |
| 大安(たいあん) | 万事に吉 | 問題なし(葬儀OK) |
| 赤口(しゃっこう) | 正午前後のみ吉 | 問題なし |
仏滅というネーミングが強烈なせいで「葬儀もダメじゃないの?」と思われがちですが、文字通り受け取ると「仏が滅する」日。むしろ仏教の死生観とは合うとも解釈できる。実際、仏滅の葬儀は何の問題もなくお勤めできます。私が担当した中でも仏滅の葬儀は山ほどあります。
そもそも仏教は六曜を否定している
意外と知られていませんが、仏教の各宗派は公式に「六曜は仏教と関係ない」という立場を取っています。特に浄土真宗は明確に六曜を否定していて、「日の吉凶で人の生死を判断するのは迷信」と教えています。
なので、お寺さんに相談すると「友引でも何でも構わないですよ」と言われることが多い。でも、現実には親族から「友引はちょっと…」という声が出る。このギャップが日取り決めを難しくしているんです。
友引の葬儀がタブー視される本当の理由
「友引に葬儀をすると、故人が友を引き連れていく」。これが友引タブーの俗説です。子どもの頃におばあちゃんから聞かされた、という方も多いはず。でも本来の友引は「勝負の決着がつかない引き分けの日」という意味で、亡くなった人とは何の関係もありませんでした。
「友を引く」という当て字が広まった結果、葬儀の日として避けられるようになった。これが歴史の真相です。友引人形の役割や火葬場の真実でも詳しく掘り下げていますが、要は語呂合わせから生まれた習慣なんですね。
それでも友引を避ける一番の理由は「火葬場の休業」
現代において友引を避ける最大の理由は、迷信ではなく実務的な事情です。多くの公営火葬場が友引を定休日にしている。これが一番大きい。
東京23区の臨海斎場、大阪市の瓜破斎場、名古屋市の八事斎場、京都市中央斎場など、政令指定都市の主要火葬場の多くが友引休業です。なぜかというと、友引を避ける慣習で利用者が極端に少なくなるから。職員の休日にしたほうが合理的、という運用判断です。
つまり、迷信が先にあって火葬場が休みになったのか、火葬場が休みだから「友引はダメ」となったのか、もはや鶏と卵。とにかく今は、友引=火葬場が動かない日、と覚えておけば実務的にはOKです。
通夜は友引でも問題ない
友引にタブーがあるのは告別式と火葬の日。通夜は友引でも全く問題ありません。なぜなら通夜は故人と過ごす最後の夜であって、まだ「送り出す」儀式ではないから。
実際の段取りとしては、友引の前日に通夜、友引明けに告別式と火葬、というパターンもよく組みます。たとえば日曜が友引なら、土曜に通夜、月曜に告別式という流れ。ただしこの場合、安置期間が1日延びるので、その分の費用がかかってきます。
火葬場の空き状況が日取りを決める最大の要因
正直に言います。今の日本で葬儀の日取りを決める一番の要因は、六曜でも宗派でもなく、火葬場の空き状況です。特に都市部では、希望日に火葬場が取れず、結果的に日取りが後ろにずれる、というケースが本当に増えました。
2024年の厚生労働省の人口動態統計では、年間死亡数は約160万人。これは2000年(約96万人)の1.6倍以上です。一方で火葬場の数はほとんど増えていない。当然、待ち時間は延びます。
都市部の火葬場待ちは平均3〜5日、繁忙期は1週間超
東京23区の火葬場は特に混みます。私の感覚では、平日なら2〜3日後、土日や友引明けは4〜5日後、年末年始やインフルエンザの流行期は1週間以上待ちになることも。横浜市・川崎市・大阪市あたりも同じ傾向です。
地方都市はもう少し余裕があって、当日〜2日後で取れることが多い。ただし町の火葬場が1基しかないような地域だと、1日1〜2件で予約が埋まってしまうので、結局は待つことになります。
名古屋市の八事斎場のように、24時間稼働かつ多数の炉を持つ大型火葬場でも、繁忙期は希望時間が取れないことがあります。八事斎場の予約状況と混雑については別記事でも詳しく書いているので、名古屋圏の方は確認しておいてください。
火葬時間の枠は「午前」「午後」「夕方」に分かれる
火葬場は1日に何件もの火葬を行うので、時間帯が決まっています。だいたい朝9時〜午後3時くらいまでに30分〜1時間刻みで枠が組まれている。良い時間帯(午前中の早い枠)から埋まっていきます。
「告別式を11時から、火葬を13時から」と希望しても、その時間が空いてないと別の時間に変更してもらう必要が出てきます。葬儀社が火葬場の空き枠を先に押さえてから告別式の時間を逆算する、というのが実際の流れです。
日取り調整の実際の手順|葬儀社はこう動いている
葬儀社の打ち合わせで「いつにしましょう」となったとき、私たちは何を確認しているか。裏側を全部お見せします。
- 火葬場の空き枠を電話・オンラインシステムで確認(最優先)
- 菩提寺の僧侶のスケジュール確認(電話一本)
- 遠方親族の到着可能日を喪主に確認
- 式場(葬儀ホール)の空き状況
- 六曜の確認(地域慣習に応じて)
この順番で優先度をつけて調整していきます。火葬場が一番動かしにくいので、まずそこを起点に組む。お寺さんは比較的柔軟に対応してくださることが多いですが、年末年始や春秋の彼岸は法要が立て込むので調整が難しくなります。
遠方親族がいる場合の判断
「北海道に住む長男が、明日中には来られない」「海外赴任中の娘が帰国するのに3日かかる」。こういうケースでは、火葬日を後ろに調整します。安置期間は延びますが、最後のお別れに間に合わないほうがずっと心残りになる。
私の経験上、遠方の家族が来られない状態で式を進めて、後から「待ってほしかった」と揉めるケースは少なくありません。喪主さんには「最大何日まで延ばせるか」を必ず確認します。
菩提寺との調整で気をつけること
お寺さんは1日に複数のお勤めがあるので、希望時間が必ず通るわけではありません。「11時に告別式」と希望しても「その時間は別の法要が入っているので、午後でお願いできますか」となることも。
菩提寺がある場合、日取りは必ずお寺さんと相談してから決める。葬儀社が勝手に決めて、後から「その日は無理です」と言われると、全部組み直しになります。打ち合わせの早い段階でお寺さんに電話を入れるのが鉄則です。
安置が長引くときの費用と注意点
火葬場の予約が取れず安置期間が延びると、当然そのぶんの費用がかかります。これは事前に把握しておかないと、後から請求書を見て驚くことになる。
| 安置の種類 | 1日あたりの費用目安 | 備考 |
|---|---|---|
| 自宅安置 | 0〜3,000円 | ドライアイス代のみ |
| 葬儀社の安置施設 | 5,000〜15,000円 | 面会可・付き添い可の場合あり |
| 民間の遺体保管所 | 10,000〜20,000円 | 冷蔵保管・面会制限あり |
| ドライアイス追加 | 5,000〜10,000円 | 夏場や安置長期化で追加発注 |
一番安く済むのは自宅安置ですが、マンションだとエレベーターでの搬入が難しい場合があるし、夏場のドライアイス管理は意外と気を使います。1日2回の交換が必要になることもあり、葬儀社のスタッフが出入りする手間も発生する。
火葬待ちが5日になると、安置費用だけで5万〜10万円の追加になることもあります。これを避けるために、地域によっては「先に火葬してから、後日改めて葬儀」という骨葬(こつそう)スタイルを選ぶ家庭も増えてきました。東北や北海道では昔からある形式です。
ドライアイスは「魔法の保冷剤」ではない
遺族の方によく聞かれるのが「ドライアイスを多めに入れれば1週間でも大丈夫ですか?」という質問。残念ながらそうはいきません。ドライアイスはあくまで腐敗の進行を遅らせるだけで、止めることはできない。
夏場に1週間以上の安置になる場合は、エンバーミング(遺体衛生保全)を検討することもあります。費用は15万〜25万円と高額ですが、長期間きれいなお顔で安置できる。エンゼルケアと死後処置の違いも合わせて読んでおくと、判断の参考になるはずです。
パターン別・日取りの組み方シミュレーション
実際にどう日取りを組むのか、よくあるパターンを4つ挙げてみます。自分のケースに近いものを参考にしてください。
パターン1:月曜逝去、翌々日が友引でない
月曜朝に逝去 → 火曜夜に通夜 → 水曜午前に告別式・火葬。基本形通りで一番スムーズ。安置費用も最小限で済みます。火葬場が空いていれば、これが理想です。
パターン2:日曜逝去、火曜が友引
日曜夜に逝去 → 月曜夜に通夜 → 火曜(友引)は火葬場休業なのでスキップ → 水曜午前に告別式・火葬。安置が1日延びるので、安置料・ドライアイス代の追加が発生します。
あるいは、月曜の通夜を火曜に動かして、月曜・火曜と2日間ご自宅で過ごしてもらう、というパターンも。これは「友引前夜の通夜は避けたい」という親族がいる場合に選びます。
パターン3:年末年始の逝去
12月30日に逝去 → 火葬場が31日〜1月3日まで休業 → 1月4日以降に火葬。これは最大6〜7日の安置になります。安置料が10万円超えることも珍しくない。
年末年始は火葬場が休むうえに、お寺さんも年始のお勤めで忙しい。日取りが大幅に後ろにずれるので、遠方親族には「葬儀は4日以降になります」と早めに伝えておくのが大事です。
パターン4:都市部で火葬場が混雑、5日待ち
月曜逝去 → 火葬場の空きが土曜まで取れない → 金曜夜に通夜、土曜午前に告別式・火葬。安置4泊で5万円前後の追加費用。
この場合、通夜を平日にやるか週末に持っていくか、という選択肢が出てきます。会社関係の方の参列を見込むなら金曜の夜にしたい、という喪主さんが多いです。葬儀の流れ完全ガイドで全体像を確認しながら、自分たちの優先順位を決めていくといいでしょう。
親族から「友引は絶対ダメ」と言われたときの対応
喪主さんは「友引でも別にいいですよ」と思っていても、親族の年配の方から「友引に通夜なんてとんでもない」と強く言われるケース、よくあります。これ、揉めると本当に厄介。
私が現場でお伝えしているのは「気にする人がひとりでもいるなら、避けたほうが後々の人間関係のためにはいい」ということ。たかが六曜、されど六曜。「あの時、友引にやったから不幸が続いた」と言い出す人が出てきたら、何年も引きずります。
友引人形(共人形)という解決策
どうしても友引に告別式を行わなければならない場合、「友引人形」を棺に入れる風習があります。これは故人が友を引き連れていかないように、身代わりの人形を一緒に入れるというもの。
関西地方では今でもこの風習が残っていて、葬儀社が用意します。素朴な木彫りの人形が多く、費用は3,000〜5,000円程度。信じる信じないは別として、親族の心の収まりがつくならお守りのような意味で使うのもアリだと思っています。
浄土真宗の家庭は六曜を気にしなくていい
故人やご家族が浄土真宗のお寺と付き合いがある場合、お寺さんに相談すれば「六曜は気にしない教えですから」とハッキリ言ってくださることが多いです。これは親族説得の強い味方になります。
「お寺さんがそう言うなら」で納得してくれる年配の方は多いので、宗派を盾に取るのは1つの手です。浄土真宗のお悔やみマナーでも詳しく解説していますが、浄土真宗は「日の吉凶で人の生死を判断しない」という明確な立場を取っています。
よくある質問
Q1. 仏滅に葬儀をしても本当に問題ないですか?
はい、まったく問題ありません。仏滅は「万事に凶」とされる日ですが、葬儀は祝い事ではないので影響なし。火葬場も通常通り稼働しています。むしろ仏滅は人気がない日なので、火葬場の枠が取りやすいこともあります。私の現場経験でも、仏滅の葬儀は毎月のように担当しています。
Q2. 大安に通夜や葬儀をするのはおかしいですか?
これも全く問題ありません。大安は結婚式など祝い事の縁起がいい日とされますが、葬儀との関係では無関係。火葬場の予約も取れますし、お寺さんも通常通りお勤めしてくださいます。ただ、年配の方から「大安に葬儀なんて」と言われることが稀にあるので、気になる方は親族に一言伝えておくと安心です。
Q3. 火葬場の予約は喪主が直接できますか?
公営火葬場の多くは、葬儀社経由でしか予約を受け付けていません。これは火葬手続きに必要な書類(火葬許可証)の準備や、当日の段取りを葬儀社が責任を持って行う必要があるからです。直葬の場合でも、最低限の手続きを代行する葬儀社を1社は通すのが現実的です。
Q4. 友引の翌日は火葬場が混むって本当ですか?
本当です。友引が休業日なので、その翌日は2日分の予約が集中します。友引明けの午前枠は特に争奪戦で、希望時間が取れないことが多い。逆に、友引の前日(先勝の午後など)は比較的空いていることがあります。日取りの選択肢として覚えておくといいでしょう。
Q5. キリスト教や神道の葬儀でも六曜は気にしますか?
本来、六曜とキリスト教・神道は何の関係もないので、教義上は気にする必要はありません。ただ、火葬場が友引休業なら結局その日は使えないので、実務的には六曜の影響を受けます。神道の葬儀の段取りについては神葬祭の流れとマナーを参考にしてください。
Q6. 安置期間が長引いた場合、ご遺体は本当に大丈夫ですか?
葬儀社の安置施設や民間の遺体保管所であれば、冷蔵保管とドライアイスの併用で1週間程度は十分対応可能です。10日を超える長期になる場合はエンバーミング(遺体衛生保全処置)をお勧めしています。費用は高くなりますが、お顔の状態を保ちながらお別れの時間を確保できます。
最後に、日取りで迷ったときの考え方
20年現場に立ってきて思うのは、日取りに「正解」はないということ。火葬場が空いていない、親族が来られない、お寺さんの都合がつかない。完璧に揃う日なんて、ほぼないんです。
大事なのは、関わる人みんなが「これで送り出せた」と納得できる日を選ぶこと。六曜の迷信に縛られすぎる必要はないけど、気にする人がいるなら配慮する。火葬場の都合は仕方ないけど、家族の心の準備も大切にする。そのバランスを取りながら、葬儀社と相談して決めていけば、後悔のない日取りにたどり着けます。
もし今、家族の最期が近いと感じているなら、菩提寺の有無、希望する式場、参列してほしい人のリストだけでもメモしておいてください。それがあるだけで、いざというとき葬儀社との打ち合わせがずっとスムーズになります。私たちは、遺族が後悔しない時間を作ることを仕事だと思ってます。



コメント