「主人が亡くなって、これから子どもとどう生きていけばいいのか…年金、いくら入ってくるんでしょうか」。49歳でご主人を亡くされた喪主の奥さまが、火葬を終えた後の控室でぽつりと漏らした言葉です。葬儀の打ち合わせのときから、ずっと気になっていたのに、誰にも聞けなかった。そう打ち明けてくれました。
葬祭ディレクターとして年間100件以上の葬儀をご一緒してきて、遺族厚生年金の質問を受けない月はほぼありません。それくらい、残されたご家族にとって切実なお金の話です。
この記事では、遺族厚生年金が実際にいくらもらえるのか、計算式を一段ずつほどきながら、現場で実際に伺った金額例も交えてお伝えします。専門書のように難しく書きません。私が遺族の方とお茶を飲みながら説明するときの言葉そのままで書いてます。
遺族厚生年金の基本——「報酬比例」という仕組み
まず大前提として、遺族厚生年金は会社員や公務員だった方(厚生年金加入者)が亡くなったときに、その遺族が受け取れる年金です。自営業の方が加入する国民年金しかなかった場合は「遺族基礎年金」のみとなり、計算の仕方が別です。
遺族厚生年金の金額は、亡くなった方が生前にいくら稼いでいたか、どれくらい厚生年金に加入していたかで変わります。これを「報酬比例」と呼びます。同じ会社員でも、課長で亡くなった方と新入社員で亡くなった方では、当然金額が違うわけです。
具体的には、亡くなった方が将来もらうはずだった老齢厚生年金の「およそ4分の3」が遺族の方に支給されます。この「4分の3」という比率が、計算式の核心です。
遺族基礎年金との違いをまず押さえる
混乱しやすいのですが、遺族年金には「遺族基礎年金」と「遺族厚生年金」の2階建て構造があります。会社員の方が亡くなった場合、子どものいるご家族なら両方を同時に受け取れる可能性があります。
遺族基礎年金は定額制で、2024年度は年816,000円+子の加算(第1子・第2子は各234,800円、第3子以降は各78,300円)。一方の遺族厚生年金は報酬比例なので、人によって金額がぜんぜん違います。「同じ会社員の妻なのに、隣の奥さんはもっともらってるらしい」というのは、ここの差です。
受給金額の計算式を分解する
では、肝心の計算式です。日本年金機構の公式の式は次の通り。
遺族厚生年金 = (平均標準報酬月額 × 7.125/1000 × 平成15年3月までの加入月数 + 平均標準報酬額 × 5.481/1000 × 平成15年4月以降の加入月数)× 3/4
初見だと頭が痛くなる式ですよね。私も最初に年金事務所で聞いたとき、3回くらい聞き直しました。要するに、「亡くなった方の生涯の平均給与」と「加入していた期間」を掛け合わせて、その4分の3が遺族に渡るという話です。
「平均標準報酬月額」と「平均標準報酬額」の違い
計算式の中に2種類の「平均」が出てきます。これがややこしさの正体です。
平均標準報酬月額は、平成15年3月までの「月給ベース」の平均。当時はボーナスを計算に含めない仕組みでした。一方、平均標準報酬額は平成15年4月以降の「月給+ボーナス込み」の平均です。総報酬制という仕組みに変わったので、計算式も二段構えになっているわけです。
30年勤めた会社員の方なら、両方の期間が混在します。50歳前後で亡くなった方なら、新人時代は「月額」期、ベテラン期は「総報酬額」期にまたがるイメージです。
短期要件と長期要件——300月みなしの救済規定
ここが現場で最もよく説明する部分です。遺族厚生年金には「短期要件」と「長期要件」という区分があります。
短期要件は、現役の会社員が亡くなった場合や、初診日から5年以内に亡くなった場合など。この場合、厚生年金の加入月数が300月(25年)未満でも、300月加入していたとみなして計算してくれます。30代・40代でご主人を亡くされた方には、この救済規定がとても大きな意味を持ちます。
長期要件は、すでに退職して老齢年金を受給していた方や、受給資格期間を満たしていた方が亡くなった場合。こちらは実際の加入月数で計算します。
年収別・年代別に見る具体的な金額シミュレーション
計算式だけ見ても実感が湧かないと思うので、現場でよく説明している具体例を挙げます。あくまで概算ですが、目安にはなるはずです。
| 故人の状況 | 平均年収 | 加入期間 | 遺族厚生年金(年額) | 月額換算 |
|---|---|---|---|---|
| 30代会社員(短期要件) | 約450万円 | 10年→300月みなし | 約46万円 | 約3.8万円 |
| 40代会社員(短期要件) | 約600万円 | 20年→300月みなし | 約62万円 | 約5.2万円 |
| 50代管理職(短期要件) | 約800万円 | 30年(実加入) | 約99万円 | 約8.2万円 |
| 60代退職後(長期要件) | 現役時年収700万 | 38年(実加入) | 約110万円 | 約9.2万円 |
| 公務員(短期要件) | 約650万円 | 25年 | 約72万円 | 約6万円 |
表を見て「思ったより少ない」と感じた方が多いんじゃないでしょうか。実際、私が現場でこの数字をお伝えすると、最初は皆さん黙り込みます。これだけで生活していけないことが、すぐ分かるからです。
でも、子どもがいるご家族には遺族基礎年金(年約100万円〜)が上乗せされます。さらに、後ほど説明する中高齢寡婦加算が付くケースもあります。それも含めて、家計の見通しを立てる必要があります。
妻と子ども2人のケースの実例
40代前半で会社員のご主人を亡くされた、お子さん2人(小学生)の奥さまの実例です。プライバシーに配慮して数字は丸めていますが、実際にお伝えした金額に近いものです。
- 遺族厚生年金:年約58万円
- 遺族基礎年金(基本額):年約81.6万円
- 子の加算(2人分):年約47万円
- 合計:年約186.6万円(月額約15.5万円)
月15万円台。ご主人の収入が月45万円あったご家庭ですから、収入は3分の1になる計算です。奥さまは「これに私のパート代を足しても、家のローンと子どもの教育費を考えると本当に厳しい」とおっしゃっていました。
葬儀後に必要な手続きや受け取れる補助金は他にもあります。死亡後の手続き完全リストでは、申請を忘れると損をする補助金もまとめてあるので、年金とあわせて確認してみてください。
いつまでもらえる?受給期間のリアル
「いつまで貰えるのか」は、金額と並んで一番多い質問です。これは受給する人の立場によって変わります。
妻が受け取る場合——年齢で変わる
夫を亡くした妻の場合、夫が亡くなったときの妻の年齢で扱いが変わります。
- 30歳未満で子なし:5年間の有期給付(一番厳しい条件)
- 30歳以上で子なし:原則として一生涯
- 子どもがいる:子どもの有無に関係なく一生涯
20代で子どもがいない若い奥さまは、5年で打ち切りになる仕組みです。これは2007年の制度改正で導入された「若い世代は再就職や再婚を期待する」という前提に基づいたもの。賛否両論ありますが、現行ルールはこうなっています。
夫が受け取る場合——男女差に注意
妻を亡くした夫が遺族厚生年金を受け取るには、妻の死亡時に夫が55歳以上であることが条件です。受給開始は60歳から。これも男女で差がある制度として、しばしば議論になります。
ただし、2025年以降の制度改正で、この男女差を縮小する方向の見直しが議論されています。最新情報は年金事務所か日本年金機構の公式サイトで確認してください。
子どもが受け取る場合——18歳年度末まで
遺族基礎年金の対象になる子どもは、18歳到達年度の3月31日まで(障害がある場合は20歳未満)。高校卒業のタイミングで打ち切られると考えれば近いです。遺族厚生年金も、子どもが受給権者の場合は同じく18歳年度末まで。
中高齢寡婦加算——40〜65歳の妻に上乗せされる仕組み
遺族厚生年金の説明で、現場で必ずお伝えするのが「中高齢寡婦加算」です。これを知らずに損している方が本当に多い。
夫を亡くした妻が40歳以上65歳未満で、子どもが18歳年度末を超えて遺族基礎年金が打ち切られたとき、または40歳以上で子のいない妻が夫を亡くしたとき、年約61万円(2024年度612,000円)が遺族厚生年金に上乗せされます。
月にすると約5万円。これが65歳まで続きます。子どもが高校を卒業して遺族基礎年金が消えるタイミングで、入れ替わりに加算が始まる設計です。「子どもが手を離れたら、母親自身の生活費が必要」という考え方が背景にあります。
65歳になると中高齢寡婦加算は終了し、代わりに自分自身の老齢基礎年金が始まります。経過的寡婦加算という別の加算が引き継ぐケースもあります。
受給するための条件と申請手続き
金額が分かっても、申請しないと1円ももらえません。これも現場でよく言うのですが、年金は「待ってても来ない」お金です。
受給できる遺族の優先順位
遺族厚生年金を受け取れる遺族には優先順位があります。上から順に、該当者がいれば下の順位の人は受給できません。
- 第1順位:配偶者(妻は無条件、夫は55歳以上)と子(18歳年度末まで)
- 第2順位:父母(55歳以上、受給開始は60歳から)
- 第3順位:孫(18歳年度末まで)
- 第4順位:祖父母(55歳以上、受給開始は60歳から)
内縁関係の妻でも、生計を同一にしていた実態が認められれば受給できます。事実婚のご家庭が増えているので、必要な書類も含めて年金事務所で個別に相談してください。
必要書類と申請窓口
申請は年金事務所または市区町村役場の年金窓口(自営業の方の遺族基礎年金のみの場合)で行います。必要書類は次の通り。
- 年金請求書(様式601号)
- 故人の年金手帳または基礎年金番号通知書
- 戸籍謄本(死亡日以降に発行されたもの)
- 世帯全員の住民票(マイナンバー記載)
- 故人の住民票除票
- 請求者の収入確認書類(所得証明書など)
- 子の在学証明書(高校生の場合)
- 死亡診断書のコピー
- 振込先口座の通帳
これだけ揃えるのに、慣れていない方なら半日では終わりません。私の経験上、葬儀から1週間以内に動き始めるのが現実的。四十九日が終わってからだと、ずるずる遅れます。
四十九日までに何を済ませるべきかは四十九日の正しい数え方と早見表のスケジュール感を参考にしてください。年金請求は四十九日法要の準備と並行して動くことになります。
時効は5年——でも早ければ早いほどいい
遺族厚生年金の請求権の時効は5年。5年を過ぎた分は受け取れなくなります。私が現場で見てきた中で一番きつかったのは、ショックで何も手につかず、気づいたら3年経っていたという方。さかのぼって受給はできましたが、「もっと早く動けばよかった」と泣いておられました。
老齢年金との併給調整——65歳以降のリアル
遺族厚生年金を受け取っている方が65歳になり、自分自身の老齢厚生年金の受給資格を得たとき、両方を満額で受け取れるわけではありません。「併給調整」という仕組みがあります。
原則として、自分の老齢厚生年金が優先支給されます。その上で、遺族厚生年金との差額が支給される形になります。簡単に言うと、両方の額のうち多い方の金額に近づくように調整されるイメージです。
共働きで自分も厚生年金にしっかり加入していた奥さまほど、65歳以降に「思ったより遺族厚生年金が減った」と感じることが多いです。逆に、専業主婦だった方は老齢基礎年金だけになるので、遺族厚生年金が大きな支えになります。
2025年以降の制度改正の動き
遺族厚生年金は今、大きな見直しの議論の真っ最中です。共働き世帯が当たり前になった現代の家族構成に、昭和の制度設計が合わなくなってきているからです。
主な見直しの方向性は、配偶者の性別による条件の差をなくすこと、そして子のいない配偶者への給付期間を段階的に短縮していく方向。一方で、子育て中の遺族への給付は手厚くする方向で議論が進んでいます。
今後5年〜10年で制度の姿が変わる可能性が高い領域です。ご家族の終活を考えるタイミングで、最新情報を年金事務所で確認しておくのが安心です。エンディングノートに将来の家計シミュレーションを書き残す方も増えています。エンディングノートの書き方ガイドも参考にしてみてください。
年金以外に受け取れるお金——見落としがちな給付金
遺族厚生年金だけが、家族を亡くしたときに受け取れるお金ではありません。葬儀の現場でお伝えしている「忘れずに申請してほしいお金」をまとめます。
- 埋葬料(健康保険):5万円。会社員の方の家族が亡くなったとき
- 葬祭費(国民健康保険):3〜7万円。自治体ごとに金額が違う
- 未支給年金:故人が受け取り損ねた年金分
- 死亡一時金:自営業の方で遺族基礎年金が出ない場合
- 寡婦年金:自営業の妻向けの制度
- 高額療養費の還付:亡くなる直前の医療費が高額だった場合
これらは申請しないと出ません。総額にすると数十万円になることもあるので、葬儀屋に「この方の家族が受け取れる給付金、何がありますか」と遠慮なく聞いてください。きちんとした葬儀社なら、必ずリストを出してくれます。
葬儀後に動かないといけない手続きの全体像は、葬儀の流れ完全ガイドのタイムスケジュールも併せて確認してもらえると、漏れが減ります。
よくある質問
Q1. 自営業だった夫が亡くなったとき、遺族厚生年金はもらえますか?
自営業で国民年金にしか加入していなかった場合、遺族厚生年金は出ません。受け取れるのは遺族基礎年金(子どもがいる場合)または寡婦年金・死亡一時金です。ただし、過去に会社員として厚生年金に加入していた期間があれば、その分に応じた遺族厚生年金が出る可能性があります。年金事務所で記録を確認してください。
Q2. 再婚したら遺族厚生年金は止まりますか?
はい、再婚した時点で受給権を失います。事実婚(内縁関係)の場合も同じく失権します。ただし、子どもが受給している分は、母親の再婚で止まるわけではありません。子ども自身の受給権は18歳年度末まで継続します。再婚の届け出は10日以内に年金事務所へ行ってください。
Q3. パートで働いていますが、遺族厚生年金がもらえなくなる収入の上限はありますか?
遺族厚生年金の受給開始時に、年収850万円未満(または所得655.5万円未満)であることが条件です。これを超えると「生計維持関係なし」と判断され、受給できません。ただし、受給が始まった後にパート収入が増えても、原則として打ち切られることはありません。受給開始時点での判定です。
Q4. 障害年金を受けていた夫が亡くなりました。遺族厚生年金は出ますか?
障害厚生年金1級または2級を受けていた方が亡くなった場合は、短期要件として遺族厚生年金が支給されます。300月みなしの計算が適用されるので、加入期間が短くても一定の金額が確保されます。障害年金の受給歴がある方の遺族は、必ずこの点を年金事務所で確認してください。
Q5. 遺族厚生年金は税金がかかりますか?
遺族年金は所得税・住民税ともに非課税です。確定申告でも収入として申告する必要はありません。ただし、児童扶養手当など他の制度の所得判定では「収入」として扱われる場合があります。市区町村の福祉窓口で個別に確認してください。
Q6. 別居中の夫が亡くなりました。遺族厚生年金は受け取れますか?
別居していても、生活費の送金があった、定期的に行き来があったなど「生計同一」と認められる実態があれば受給可能です。完全に音信不通で生活費の援助もなかった場合は難しいですが、私が現場で見た限り、別居の事情を丁寧に説明することで認められたケースは少なくありません。あきらめずに年金事務所で相談してください。
最後に——お金の話を後回しにしないでほしい
葬儀の現場で20年、いろんなご家族と向き合ってきました。お金の話は不謹慎でも、不躾でもありません。残された人が生き続けていくために、絶対に避けて通れない話です。
「遺族厚生年金、いくらもらえるんだろう」と検索してこの記事にたどり着いた方は、もう半分以上前に進んでいます。あとは年金事務所に電話して、予約を取るだけ。窓口の方は本当に親身に教えてくれますから、安心してください。
故人を見送ることと、自分や子どもの暮らしを守ること。両方とも、同じくらい大切なことです。私はそう思ってます。




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