先月担当した家族葬で、50代の喪主さんからこう聞かれました。「焼香って何回つまめばいいんですか。隣の親戚と違ったら恥ずかしいし、母が浄土真宗だったか曹洞宗だったかも自信がなくて」。20年この仕事をしていて、この質問は本当に多いです。仏式の葬儀は日本でいちばん多い形式なのに、いざ自分が喪主や参列者になると、作法の細かいところで手が止まる。当然だと思います。
仏式といっても宗派は13宗56派あると言われていて、焼香の回数も数珠の形も微妙に違います。さらに最近は神式やキリスト教式の葬儀に参列する機会もあって、「うちは仏式しか知らないから不安」という声も増えました。この記事では、現役の葬祭ディレクターとして、仏式葬儀の流れを臨終から精進落としまで通して整理しつつ、焼香と数珠の作法、そして神式・キリスト教式との違いまでまとめます。
読み終わる頃には、喪主としても参列者としても、迷わず動ける状態になっているはずです。少なくとも、「隣の人の真似」をしなくて済むくらいには。
仏式葬儀とはそもそも何か
仏式葬儀は、仏教の教えに基づいて故人を見送る葬儀のことです。日本の葬儀の約8割が仏式だと言われていて、私の現場感覚でもそれくらいの肌感です。一般葬・家族葬・直葬と形は変わっても、僧侶を呼んで読経をしてもらい、戒名を授かるという基本構造は共通しています。
仏式の根っこにあるのは「故人を仏弟子として浄土へ送り出す」という考え方です。だから戒名を授かり、お経を読み、焼香で香りを供える。この一連の流れには全部意味があります。意味を知っていると、形だけの作法じゃなくて、心のこもった見送りになる。私はいつも喪主さんにそう伝えています。
ただし宗派によって細部はかなり違います。たとえば浄土真宗では「亡くなった瞬間に阿弥陀如来によって極楽浄土に往生する」と考えるので、冥福を祈るという表現を使いません。曹洞宗や臨済宗は禅宗で、引導作法に独特の太鼓やシンバルが入ります。日蓮宗は「南無妙法蓮華経」を唱える。同じ仏式でも、現場の空気はかなり違うんです。
仏式葬儀の主な宗派
日本で多い宗派を、現場でよく見る順にざっくり挙げると、浄土真宗(本願寺派・大谷派)、浄土宗、曹洞宗、臨済宗、日蓮宗、真言宗、天台宗あたりです。それぞれ本尊も唱える言葉も違うので、自分の家の宗派は事前に確認しておいた方がいい。仏壇の位牌や、菩提寺の名前で分かることが多いです。
分からない場合は、菩提寺に直接電話するか、葬儀社の担当者に相談すれば調べてくれます。私たちも打ち合わせのときに必ず確認する項目です。
仏式葬儀の全体の流れ
仏式葬儀は、臨終から始まって火葬・精進落としまで、おおよそ3〜4日の流れになります。私が担当する案件で平均すると、ご逝去から告別式まで2泊3日というのが標準的です。火葬場の予約状況や友引を避けるなどの事情で、もう少し延びることもあります。
全体像を時系列で見ておくと、自分が今どこにいるか分かるので心の準備ができます。喪主さんはとにかく頭がいっぱいになるので、流れをつかんでおくだけでも負担が軽くなります。詳しい手続きリストは別記事の臨終から法要までの完全ガイドにもまとめてあるので、合わせて確認してみてください。
1日目:ご逝去から安置・打ち合わせ
病院で亡くなった場合、まず葬儀社に連絡してご遺体を搬送します。自宅か安置施設で安置して、枕飾りを整え、僧侶に枕経をあげてもらう。最近は枕経を省略するケースも増えましたが、菩提寺がある場合は連絡して相談するのが安心です。
同日中か翌朝に葬儀社との打ち合わせがあります。日程、会場、規模、料理、返礼品、戒名の依頼、訃報連絡の範囲、ここで全部決めます。喪主さんは2時間くらい質問攻めになるので、エンディングノートや故人の意向メモがあると本当に助かります。
2日目:納棺・通夜
通夜の日の午前か午後に納棺を行います。湯灌や死化粧を経て、死装束を着せ、副葬品を納める。家族で故人の体に触れる最後の時間なので、ここはじっくり時間を取った方がいいです。私はいつも30分以上は確保するように勧めています。
夕方18時か19時から通夜が始まります。受付、読経、焼香、喪主挨拶、通夜振る舞い。通夜の所要時間は読経と焼香で1時間程度、振る舞いを含めると2時間半くらいが目安です。
3日目:葬儀・告別式・火葬・精進落とし
朝10時か11時に葬儀・告別式が始まることが多いです。読経、引導、焼香、弔電紹介、喪主挨拶、出棺。お花入れの儀をしてから棺を霊柩車に乗せ、火葬場へ向かいます。火葬は1時間半から2時間。その間に控室で軽食を取って、骨上げ。骨上げが終わったら式場や自宅に戻って、初七日法要と精進落としを行うのが現代の標準的な流れです。
初七日は本来七日目にやるものですが、遠方の親族が再集合するのは現実的でないので、繰り上げて告別式当日にやる「式中初七日」が今は8割以上です。
焼香の正しいやり方
焼香は香を焚いて故人に手向ける儀式です。香りで身を清め、故人と仏様への敬意を表すという意味があります。「何回つまむか」は宗派で違いますが、「気持ちを込める」という大前提はどの宗派も共通です。慌てず、ゆっくり、丁寧に。これだけ守ればまず失礼にはなりません。
立礼焼香、座礼焼香、回し焼香の3パターンがありますが、所作の基本は同じです。会場で迷ったら、前の人を見て真似するのも実はアリです。ただ、自分の家の宗派の作法を知っておくと、自信を持って動けます。
立礼焼香の基本手順
- 順番が来たら席を立ち、遺族と僧侶に一礼する
- 焼香台の前まで進み、遺影に一礼して合掌する
- 右手の親指・人差し指・中指の3本で抹香をつまむ
- 額の高さまで押しいただく(宗派によっては不要)
- 香炉に静かに落とす(宗派の回数だけ繰り返す)
- 合掌し、遺影に深く一礼する
- 2〜3歩下がって遺族に一礼し、席に戻る
宗派別の焼香回数早見表
| 宗派 | 焼香回数 | 押しいただき | 備考 |
|---|---|---|---|
| 浄土真宗 本願寺派 | 1回 | しない | 香はそのまま香炉へ |
| 浄土真宗 大谷派 | 2回 | しない | 同上 |
| 浄土宗 | 1〜3回 | する | 厳密な指定なし |
| 曹洞宗 | 2回 | 1回目はする、2回目はしない | 1回目を主香、2回目を従香と呼ぶ |
| 臨済宗 | 1回 | する | 派により2〜3回もあり |
| 日蓮宗 | 1回または3回 | する | 3回は仏・法・僧を意味する |
| 真言宗 | 3回 | する | 身・口・意の三業を清める |
| 天台宗 | 1回または3回 | する | 厳密な指定なし |
自分の宗派が分からない、あるいは参列先の宗派が分からないときは、1回で丁寧に行えば失礼にはなりません。回数より、ひと動作ずつの丁寧さの方が見ている人には伝わります。焼香の回数や引導の意味は宗派ごとに違うので、たとえば曹洞宗の焼香と引導の意味を見ておくと、現場での迷いが減ります。
座礼焼香と回し焼香
畳敷きの自宅葬や寺院葬では座礼焼香になります。立礼との違いは、移動が膝行(しっこう)になることと、焼香台の前で正座になること。所作の基本は立礼と変わりません。
回し焼香は会場が狭いときに、香炉を参列者の間で順に回していく方式です。香炉が回ってきたら、自分の膝の前に置き、合掌してから焼香、終わったら隣の人へ両手で渡す。これだけ覚えておけば大丈夫です。
数珠の正しい持ち方と種類
数珠は仏式葬儀に参列するなら必ず持参するもの、と思ってください。持っていないと焼香のとき手元がなんとも落ち着かないし、合掌の作法も決まりません。子ども用や略式の安いものでも構わないので、一つは持っておくと安心です。
数珠には大きく分けて「本式数珠」と「略式数珠」があります。本式は宗派ごとに玉の数や形が決まっていて、自分の家の宗派の本式を持っているのがいちばん丁寧。略式は宗派を問わず使える簡略版で、参列者として持つならこれで十分です。
基本の持ち方
移動中や着席中は、左手で軽く握って持ちます。これは「左手は仏様の清浄な世界を表す」という考え方から来ています。房は下に垂らす。ぶら下げて持つのはNG。
合掌するときは、両手の親指と人差し指の間に数珠をかけ、房を下に垂らして、両手を合わせる。これが略式数珠の基本です。本式数珠は宗派によって持ち方がさらに細かく、たとえば浄土真宗は二重にして親指にかける、真言宗は中指にかけて手のひらの中で擦り合わせる、といった違いがあります。
合掌の角度や手の合わせ方も、突き詰めると宗派で違います。詳しく知りたい方は合掌の正しいやり方と数珠の宗派別解説を参考にしてみてください。
やってはいけない数珠の扱い
- 椅子や畳に直接置く(バッグの上か膝の上に置く)
- 他人と貸し借りする(数珠は個人のもの)
- 房を上にして持つ
- ポケットに無造作に入れる(数珠袋に入れる)
- 焼香のときに右手にかけたまま香をつまむ
特に焼香のとき、数珠は左手にかけたまま、右手で抹香をつまむ。これが基本です。両手を使う動作のときだけ、左手首にかけて作業します。
仏式・神式・キリスト教式の違い
「親族の葬儀が神式だった」「会社関係でキリスト教式に参列することになった」というケース、現場でもよくあります。仏式しか知らないと、当日になって戸惑うことが多い。3つの形式の違いを大枠で押さえておくと、どこに参列しても落ち着いて動けます。
大事なポイントは、それぞれの宗教観が違うので、使う言葉や所作も全然違うということ。「ご冥福をお祈りします」は仏教用語なので、神式やキリスト教式では使いません。「お悔やみ申し上げます」は宗教を問わず使えるので、迷ったらこれで通せます。
3形式の比較表
| 項目 | 仏式 | 神式 | キリスト教式 |
|---|---|---|---|
| 呼び方 | 葬儀・告別式 | 神葬祭 | 葬儀ミサ(カトリック)/葬儀式(プロテスタント) |
| 会場 | 寺院・斎場 | 自宅・斎場(神社では行わない) | 教会・斎場 |
| 進行役 | 僧侶 | 神職(神主) | 司祭(神父)/牧師 |
| 焼香にあたる儀礼 | 焼香 | 玉串奉奠 | 献花 |
| 香典の表書き | 御霊前・御香典 | 御玉串料・御榊料 | 御花料 |
| 不祝儀袋 | 蓮の絵入りもOK | 蓮の絵はNG | 百合や十字架の絵柄 |
| 数珠 | 必要 | 不要 | 不要(ロザリオは信者のみ) |
| 遺体の処置 | 火葬が一般的 | 火葬が一般的 | 火葬または土葬 |
| かける言葉 | ご冥福をお祈りします | 御霊のご平安をお祈りします | 安らかな眠りをお祈りします |
神式(神葬祭)のポイント
神式は「故人が家の守り神になる」という考え方が根底にあります。焼香の代わりに玉串奉奠(たまぐしほうてん)を行う。玉串は榊の枝に紙垂をつけたもので、これを祭壇に捧げて拝礼します。
拝礼は「二礼二拍手一礼」が基本ですが、葬儀のときは音を立てない「しのび手」で拍手します。これを知らずにパンパン音を立てると、現場でかなり浮きます。神葬祭の流れや玉串奉奠の細かい作法は神葬祭の流れとマナーガイドにまとめてあるので、参列前に一読しておくと安心です。
キリスト教式のポイント
キリスト教式は「神のもとへ召される」という死生観なので、悲しみよりも「神への感謝」と「永遠の命への希望」を表します。焼香も玉串もなく、献花を行う。白い花(多くはカーネーション)を祭壇に捧げます。
カトリックとプロテスタントでは細かい違いがあって、たとえばカトリックは「ミサ」と呼び、聖体拝領という儀式が入る。プロテスタントは「葬儀式」で、聖歌斉唱と説教が中心です。参列者として知っておくべき大きな違いではないですが、招待状に「カトリック」「プロテスタント」と書いてあったら、その教派の流儀を尊重する姿勢で臨めば大丈夫です。
仏式葬儀の香典マナー
香典の金額は故人との関係性で決まります。両親なら5万円〜10万円、兄弟姉妹なら3万円〜5万円、祖父母なら1万円〜3万円、友人・会社関係なら5千円〜1万円が相場です。金額だけでなく、表書きや包み方にも仏式ならではのルールがあります。
表書きは「御霊前」が四十九日まで、それ以降は「御仏前」に変わります。ただし浄土真宗だけは「亡くなった瞬間に成仏する」という教えなので、最初から「御仏前」を使います。これを知らないと浄土真宗のお宅で表書きを間違える。けっこうやらかしがちなところです。
お札の入れ方と包み方
お札は新札を避けて、肖像画を裏向きにして入れます。新札は「死を予期していた」と取られるので失礼、というのが昔ながらのマナー。最近は気にしない人も増えましたが、年配の親族がいる席では旧マナーを守った方が無難です。新札しかない場合は、軽く折り目をつけてから入れます。
金額別の相場や包み方の詳細は香典の金額相場とマナー決定版でまとめてあります。親族・会社・友人別の平均額が見られるので、判断に迷ったら参考にしてください。
服装と持ち物の準備
仏式葬儀の服装は喪服が基本です。男性はブラックスーツに白シャツ、黒ネクタイ。女性は黒のワンピースかアンサンブル、黒のストッキング、黒のパンプス。アクセサリーは結婚指輪と真珠の一連ネックレスまで。子どもは制服があれば制服、なければ黒や紺の地味な服でOKです。
持ち物は数珠、袱紗(ふくさ)に包んだ香典、白か黒の無地ハンカチ、黒のバッグ、予備のストッキング。袱紗は紫が万能で、慶事と弔事の両方に使えます。葬儀の場ではメイクは控えめに、香水はつけない。これは故人と遺族への基本的な配慮です。
夏場は黒の半袖ワンピースでも構いませんが、会場では上着を羽織って肌の露出を抑えるのがマナーです。冬場のコートは式場内では脱ぐ。これも徹底されているところは多いので、預けるか手に持って入場します。
通夜・告別式で気をつけたいNG行動
20年現場にいて、「これはマズい」と思った参列者の行動をいくつか挙げます。悪気がなくてもやってしまいがちなものなので、頭の片隅に置いておいてください。
- 会場で大きな声で雑談する。久しぶりに会う親戚との会話は控えめに
- スマホで遺影や祭壇を撮影する。SNS投稿は絶対にやめる
- 「重ね重ね」「またまた」「次々」など忌み言葉を使う
- 「死ぬ」「亡くなる」をストレートに言わず「ご逝去」「お亡くなりになった」を使う
- 遺族に「死因は何だったんですか」と聞く
- 通夜振る舞いや精進落としで長居しすぎる
- 子どもを自由に走り回らせる
- 泣いている遺族に「元気出して」と励ます(傾聴に徹する)
特にスマホ撮影は本当に増えました。「祖父の最後の姿を記録に残したくて」という気持ちは分かりますが、他の参列者や遺族の同意なく撮るのはマナー違反です。どうしても残したいなら、事前に喪主の許可を取ってからにしてください。
よくある質問
Q1. 自分の宗派が分からないときの焼香は何回すればいい?
1回で丁寧に行うのが無難です。心を込めて押しいただき、ゆっくりと香炉に落とせば、回数が違っても失礼にはなりません。参列している場合は、進行役の葬儀社スタッフが宗派を知っているので、開式前に「何回でしょうか」と小声で聞くのもアリです。私も控室で何度も聞かれます。
Q2. 数珠を忘れてしまった場合はどうする?
数珠なしで焼香しても、それ自体で大きく非難されることはありません。合掌のときに両手を素直に合わせれば大丈夫です。ただ、人から借りるのはNG。数珠は個人のお守りのようなものなので、貸し借りはタブーとされています。会場の売店で略式を買えることもあるので、受付で聞いてみるのも手です。
Q3. 浄土真宗の葬儀で「ご冥福をお祈りします」と言ってはいけないって本当?
本当です。浄土真宗では「亡くなった人は阿弥陀如来のはたらきによって即座に浄土へ往生する」と考えるので、冥福を祈るという表現自体がそぐわないんです。代わりに「お悔やみ申し上げます」「ご愁傷さまです」と伝えるのが適切。喪主が浄土真宗のお寺さんと付き合いがあるか分からないなら、最初から「お悔やみ申し上げます」で統一しておけば安心です。
Q4. 神式の葬儀に仏式の感覚で参列して大丈夫?
服装は仏式と同じ喪服でOKですが、数珠は持参しません。焼香の代わりに玉串奉奠なので、所作も違います。「二礼二拍手一礼」のうち拍手は音を立てない「しのび手」で行う、これだけは絶対に押さえてください。香典の表書きは「御玉串料」または「御榊料」が一般的で、「御霊前」も使えます。「御香典」はNGです。
Q5. キリスト教式で献花するときの花の向きは?
花は受付で渡されます。茎を右手、花を左手で受け取り、祭壇の前で花の根元(茎)を祭壇側に向けて捧げます。これは「故人にお花を差し上げる」という意味です。捧げた後は深く一礼し、信者であれば十字を切ったり黙祷をしたりしますが、信者でなければ静かに合掌か黙祷で構いません。
Q6. 仏式の葬儀で「成仏」「冥福」以外に使ってはいけない言葉は?
忌み言葉と呼ばれるものがあります。「重ね重ね」「ますます」「またまた」「次々」など、不幸が繰り返されることを連想させる言葉。「死ぬ」「死亡」もストレートすぎるので「ご逝去」「お亡くなりになる」に置き換えます。「四」「九」も「死」「苦」を連想させるので、香典の金額を4万円・9千円にするのは避けます。
仏式葬儀の作法は細かいルールが多くて、最初は誰でも戸惑います。でも本質は「故人と遺族への敬意」をどう形にするか、それだけです。回数や向きを完璧にこなすことより、ひと動作ひと動作を丁寧に、心を込めて行うこと。それができていれば、多少の作法のズレは誰も気にしません。私は20年現場で見てきて、そう感じています。
そして自分の家の宗派を知っておくこと。これは喪主になる前にぜひやっておいてほしい。親が元気なうちに、菩提寺の名前と宗派を聞いておく。それだけで、いざというときの判断スピードが全然違います。
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